【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
自分がirxs作品を書き始めた初期の頃に書いた作品です。
でも今でも一番気に入っている話です。付き合っていて別れた青桃の切なめの話。
投稿するには季節はずれの話でごめんなさい
「あ、雪だ」
ミーティングが終わりそれぞれが席を立ちかけたとき、ふと窓の外を見やったりうらがそんな声を上げた。
つられるようにそちらを見ると、確かに真っ白で大粒の雪がひらひらと舞うように降っている。
「どうりで寒いと思った。でも今日こんなに降るなんて言ってたっけ?」
首を傾げるほとけの言葉に、多分そこにいた誰もが今朝のニュースを思い出そうとしたに違いない。
「雪が『ちらつく程度』って朝は言うとったけどな」
あにきがそう答えた。
目の前の窓の向こう側は、既に「ちらつく」なんてかわいいものじゃなかったけれど。
同じことを考えたのだろう。
ないこが手をパンパンと叩く。
「予報よりひどいじゃん。皆早く帰りな〜。この勢いだとすぐ積もりそう」
そんなことを言うくせに自分は帰ろうとする素振りすら見せない。
それに気づいたのか、しょにだが「ないちゃんは? 帰らへんの?」と尋ねた。
「俺はどうしても今日やらなきゃいけないのがあるから、それ終わったら帰るよ」
最悪ここに泊まってもいいし、と付け足す。
それに対して「頑張るなぁ、ないこは」とか「無理しないでね」なんて思い思いの言葉をメンバーがかけていた。
それを横目に、「おつかれ。お先〜」とだけ言って俺はその会議室を後にする。
これだけの雪が降っているのだから当たり前だけど、一歩外に出ると相当な冷え込みを感じた。
身を縮めて首を竦め、少しでも寒さを和らげようとするけれどうまくいくはずもない。
「いふくん、今日はないちゃんと帰んないの?」
一足先に出てきた俺に、他の4人が追いついてくる。
不思議そうに俺にそう声をかけながら、ほとけは手にしていた傘を開いた。
「何で?」
尋ね返したのは俺なのに、ほとけの方が不思議そうに目を丸くする。
「だっていつもないちゃんと一緒に帰るじゃん。そのままどっちかの家行ってること多いし」
あぁ、そういうこと。
マフラーに鼻まで埋めて、俺は小さく肩を竦めた。
「俺ら別れたし」
「は!? いつ!?」
「2〜3週間前かなぁ」
「聞いてないんだが!?」
そう言えばあにきにしか言ってなかったかも。
振り返ると、あにきは苦笑を浮かべていた。
「別に、自分から言うほどのことちゃうやん」
「いやメンバーのそういう話は重要でしょ!? 何で別れたのさ」
「別にえぇやん、そんなん」
答えるのが面倒くさくなった俺の心境を汲み取ったのか、あにきが「まぁまぁ」とほとけをなだめる。
「こいつらも色々あるんやろ。それよりはよ帰るぞ。電車止まりそうやん」
雪国に比べれば脆弱な関東の交通機関。
早目に行動しておいて損はないはずだ。
あにきの言葉に、子供組がしぶしぶと言った感じに動き出す。
「あれ、まろちゃん帰るんちゃうん?」
4人と反対方向に歩き出そうとした俺に、しょにだがそう声をかけた。
「傘持ってないから、コンビニ寄って帰るわ」
すぐそこにある店を指差して言うと、ほとけは「この雪だったら差してもあんまり意味なさそうだけどね」と呟いていた。
コンビニに入って、入り口付近に置いてあるビニール傘をスルーした。
そのまま奥へ向かい、適当に商品に手を伸ばす。
レジに向かうと掃除をしていたらしいぶっきらぼうな店員がやって来て、単調な声音で金額を読み上げた。
『何で別れたのさ』
会計をしている間、さっきのほとけの言葉が胸中で蘇る。
…そんなん、俺が聞きたい。
いや、正確に言うと理由ははっきりしてる。
これでも納得して別れたんだから。
ただそれを完全に受け入れられたかというと、答えは「否」だ。
別れ話をされた日、ないこは泣き崩れていた。
立てないほど力をなくして、それでも立ち尽くす俺の手を必死で握って。
「ごめん」と繰り返す弱々しい声は、今でも耳にこびりついて離れない。
ないこはこの前、信じていた人間からひどい裏切りにあった。
おかげでネットでは炎上騒動にまで発展し、鎮火するまで相当辛かったと思う。
落ち着いたと思われたころにまた第2弾、第3弾を投下されて。
いつも品行方正、清廉潔白、凛として背筋を伸ばしているないことは思えないほど、メンバーやスタッフに迷惑をかけたと悔やんでいた。
弱りきって小さく感じられたその背中を、さすってやることしかできなかったけれど。
俺はいつでもいつまでも、ないこを守るつもりでいた。
…なのに。
『…ごめん、もう無理』
最近ではようやく立ち直ってきているように見えたないこが、2〜3週間前に俺にそう告げた。
『頑張ろうと思ったけど…ごめん。やっぱり無理だった。別れたい』
ピンク色の瞳からこぼれ落ちる涙を、拭ってあげられたらどれだけ良かっただろうと思う。
それでも俺は、ないこに握られた手はそのまま、状況についていけない頭で茫然とあいつを見つめ返すことしかできなかった。
『もう…誰かを信じるのが怖い。周りの人たちを信じたいけど、逆に怖くて誰も信じられない。傷つきたくない』
いつか裏切られるかもしれない。
その時またあんな辛い思いをするのかと思うと、身が竦むのは当たり前だろう。
誰がないこを責められる?
あの時ただ唇を噛み締めて、必死で誹謗中傷に耐えるしかなかったないこを。
周りの誰をも信じられなくなって当然だと思う。
付き合っている俺のことですら。
それは毅然とした態度で周りに接していたないこが俺にだけ見せた『弱さ』で、受け入れないなんて選択肢はなかった。
『…ないこがそうしたいなら、それでえぇよ』
そう答える以外、俺に他の道があったのなら教えてほしいくらいだ。
苦々しい回想を振り切るように、俺は頭を左右に振った。
「ありがとうございましたー」
店員の声を背に受けながらコンビニを後にする。
そうしてまっすぐ、来た道を戻った。
再び事務所のドアを開けると、デスクに向かっていたないこが振り返って目を丸くした。
「あれ、まろ帰ったんじゃなかったの?」
尋ねるないこの問いには答えず、俺はまっすぐその前まで行く。
手に提げていたコンビニのビニール袋から取り出した物を、ないこの前に掲げてみせた。
「どっちがいい?」
レジで温めてもらった豚汁と野菜スープを両手に乗せて差し出す。
「え、なに買ってきてくれたん?」とないこは嬉しそうに笑った。
「じゃあこっち」
豚汁を俺の手から受け取る。
それに「おまけ」とないこが好きな鮭のおにぎりを手渡すと更に目が輝くから、まるで子犬のようで思わず吹き出してしまった。
「寒い日の豚汁ってうまいよなー」
いただきます、と行儀良く手を合わせたないこが、蓋を上げて立ち上る湯気に幸せそうに呟く。
「外、雪やっぱりすごかった?」
尋ねられて、俺はスープの蓋を開けながら「そうやなぁ」と応じた。
「結構積もり始めとったから、このままやとやばそうやな」
「ネットニュースでも予想外の大雪だって言ってた」
「ふぅん」
「まろ、帰んなくていいの?」
スプーンですくった野菜を口に運びながら、俺は小さく頷く。
「これ食ったら帰るよ」
「そっか」
それっきり訪れる沈黙。
カップの中の野菜を、スプーンでぐるぐるとかき回す。
もたもたして食べ進める気がない自分に自嘲気味の笑みが溢れた。
自分から言ったくせに、帰りたくない気持ちが勝ってしまっている。
そんな俺にないこが気づいているかは分からない。
パソコン画面を真剣に見つめながら時折豚汁を幸せそうにすする。
付き合っていた頃と何ら変わらない笑顔。
変わってしまったのは俺たちの関係性だけだ。
「あ、まろ、俺いいこと思いついた」
どれくらいそうしていただろう。
やがてないこが急にそんな声を上げた。
「え、何?」
放っておいたらすぐにでも冷めてしまいそうなスープのカップを、机に置く。
見つめ返したないこはニッと笑って、上を指差した。
「おー、やっぱめっちゃきれいじゃんー」
ないこが押し開いたのは事務所ビルの屋上ドアだった。
普段は来ることがまずない。
今そこはドアを開いた瞬間、厚く降り積もった雪で真っ白な世界へと化していた。
夜の暗闇に白が映える。
純白で明るく感じさえするその世界は、しんしんと冷え込む寒さすら気にならないほど美しかった。
誰も歩いていない雪は、当然だが足跡すらない。
「…嫌な予感するんやけど」
ないこの思考回路が読み取れた気がして、思わずそう呟いた。
振り返ったないこは「お、分かった?」とニヤリと笑う。
「風邪引くからやめとけて」
「一回やってみたかったんよなー」
えい、とかけ声をかけて、ないこは勢いよくそこに大の字になった。
普段なら寝転んだりしないような場所で、雪がふかふかのベッドのように身を包む。
「濡れるし冷たいやん」
「着替えあるから大丈夫。あ、まろの分もあるけど」
「…社長、私物を会社に置きすぎちゃう?」
呆れたように言うと、ないこはケラケラと笑った。
その楽しそうな表情に吐息を漏らして、俺も観念したようにないこの隣に寝転ぶ。
こうなったこいつは楽しいこと優先で、俺の忠告なんて聞き入れるわけがない。
「キレイだなぁ」
ないこが呟いた。
上に広がる真っ暗な空から、白い雪が降り注ぐ。
静かすぎる夜の静寂は、その雪の世界により深く浸らせてくれた。
隣に手を伸ばせば、ないこに触れられる距離。
でもその手を握ることもできず、互いに大の字になって天を見据えるだけだった。
「寒い日にあったかい豚汁飲んだりさ」
上を見上げたまま、不意にないこが言う。
「たまにしか見られない雪をキレイだなと思ったりとか」
俺も寝転んだ態勢で空を見上げたまま、ただないこの声に耳を傾けた。
「毎日忙しくて駆け抜けるばかりだから、そういうふと『立ち止まったとき』に余計に幸せ感じるよなぁ」
本当に嬉しそうに言うものだから、俺は思わず唇に薄く笑みを浮かべた。
「ないこは、今幸せなん?」
尋ねると、「うん」と少し弾んだ声が返ってくる。
「それは良かった」そう返そうとしたけれど、ないこが言葉を継ぐ方が早かった。
「…はず、だったんだけどなぁ…」
急に微かに震える声。
それはまるでないこの心の揺らぎを表しているようで、俺は驚いて思わず隣を振り返った。
まるでさっきまでの弾んだ声は、無理をしていたんだとでも言うように低くなった声音。
「これから自分に起きるかもしれない脅威を、全部取り除いたつもりだった。全てを自分から遠ざければ裏切られることもない。最初から信じなければ傷つくこともない。不安になる必要もなくて、怖いものもなくなって…」
俺の方は見ないまま、ないこは天を見据えたままそんな言葉を口にする。
「平穏と幸せは、そこから来ると思ってた」
「ないこ…?」
「でもさ」
俺の呼びかけを無視して、ないこは続ける。
その声はさっきまでよりもより揺らぎ、だが語気だけは強くする。
「そこにはまろがいないんだよ」
大きく目を瞠った俺と反対に、ないこは目を固く閉じた。
「…ごめん。別れたいって言ったの俺なのに、自分勝手なこと言ってる」
そう言うないこの方へ、俺は手を伸ばす。
雪の上に広げていた手に触れ、きゅっとそのまま握った。
「えぇよ。…聞かせてよ、全部」
ないこの考えてること、全部。
その全てを俺は受け止めるから。
「…あれから…あの騒動から、ずっと不安だった」
心情を吐露し始めたないこは、俺の手をぎゅっと握り返した。
雪で冷え切った指先から、氷のような感覚が伝わってくる。
「いつ誰に裏切られるか分からない。また俺が炎上するかもしれない。そしたら、その時もしまろと付き合ってることがバレたら…まろまで巻き込んじゃうんじゃないか、って」
「…え?」
思わず聞き返した俺の声は届いていないのか、ないこはそのまま自分の言葉を綴った。
「まろまで炎上させたくない。傷つけたくない。『お前と付き合わなきゃ良かった』って、まろに後悔されたくない。だから…っ」
一度言葉を切ったないこが、すんと鼻を鳴らす。
「その『俺にとっての脅威』を取り除けば…平穏に暮らせて、幸せになれるって思ってた。…いつか誰かに裏切られて、まろが一緒に傷つけられることがないように。それが俺にとって一番幸せだって、思ってたのに…っ」
「…ないこ…」
「でも、そこにはまろがいないんだよ…!」
「ないこ!」
遮るように叫んで、その名を呼ぶ。
それと同時に身を起こし、ないこの体をぎゅっと抱き寄せた。
「もういい…もうえぇよ」
力を込めて抱きしめる俺の胸に、嗚咽をこらえるようにないこが顔を埋める。
俺は、何も分かってなかった。
『もう誰も信じられない』というないこの言葉は、俺も含まれているんだと思ってた。
それでも仕方がないと諦めた。
あんなに傷つけられて辛い思いをしたないこが、そう疑心暗鬼になっても当然だと思っていたから。
でも、本当は。
ないこが俺と別れて守ろうとしたのは、「ないこの心」じゃなかった。
「ずっと…俺を守ろうとしてくれとったんやな」
声を殺して泣くないこを、強く強く抱きしめる。
柔らかい髪を掴むように後頭部に手を添えて。
「…ありがとう。でも俺は…大丈夫やから」
たとえこの身に火の粉が振りかかろうとも…なんて、そんな陳腐な言葉はないこにとって慰め程度にもならないだろう。
自分にとっては真実でも、安心させるためだけの優しい言葉としか受け取られないかもしれない。
だから。
「ないこ。ないとは思うけど、もし次誰かに裏切られて…ないこが心配しとるようなことが起こったとしたらさ」
抱きしめる手を緩め、俺はないこから少し身を離した。
その代わりに、顔が見えるようになる。
涙でぐしゃぐしゃになったないこの頬を両手で包み込んで、俺は続けた。
「その時は離れるんやなくて…一緒に堕ちようか」
ピンクの瞳が、また涙で揺らめく。
その奥の微かな光は、今もまだ降り続く雪よりもキレイだと思った。
コメント
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お久しぶりです!久しくテラーを開いた瞬間にあおば様の通知が来て、舞い上がりました。(w) 今回のタイトルを見たときに「雪?」って思って呼んだら、まさかのそう来るかの雪でした(語彙力がすいません)こんな季節外れでもしんみりとくる小のは、あおば様の書き方が上手いからです…尊敬です!✨️ これからも頑張ってください!
何回も何十回もすいません 大好きです。(Xの方フォロリクさせて頂きました)
別れ話から始まってしんみりしてましたけど桃さんの青さんへの愛しさから来たものだと思うと悶えてしまいます……!😖🎶 読んでいてとても心が温まりました…、!! 青さんの一緒に堕ちよう発言にもうきゅんきゅんが止まりませんでしたෆ 書き方が少し違うのは新鮮ですけど何よりあおば様の作品はいつ見ても大好きです!! 愛読する作品がまたまた増えてしまいました…投稿ありがとうございます!!