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翌朝。 身の振り方を考えるため、僕はルーシーに連れられて街の中心部へと向かった。市場は活気に溢れていたが、広場の一角に人だかりができているのを見つけた。
「……え! あれは『神の天秤』の裁判!?」
ルーシーが声を上げた。見ると、豪華な法衣に身を包んだ司祭らしき男が、大きな天秤を前にして一人の震える商人を指差していた。
「神よ、この罪人の強欲を照らし出したまえ! この男が持っていた金貨が天秤で『真実の羽毛』よりも重ければ、お前は無実。軽ければ……死罪だ!」
天秤の左の皿には真っ白な羽毛。右の皿には、黄金に輝く大きな金貨。どう見ても金貨の方が重いに決まっている。なのに羽毛の方が下がっていた。
商人は泣き叫んでいるが、観客たちは「神の裁きだ」「魔女に魂を売ったからだ」と野次を飛ばしている。
「ちょっとルーシー、あのルール、物理法則が家出してないか?」
「『神の天秤』って言って、罪を犯した者の持ち物は偽りの物だから重さがなくなる。だから『真実の羽毛」と比べて軽ければその持ち主は罪人っていう有名な魔道具なのよ。でも、今まであれで無実になった人なんて……」
僕は目を細めて天秤を観察した。マジシャンの目は、どんな「奇跡」もまずは「イカサマ」だと疑うようにできている。
(……なるほど。天秤の支柱に刻まれた魔法陣。そして司祭の袖口。天秤の置かれた台……古典的すぎるな)
司祭が「罪人」と呼ばれている男の懐からさらに金貨を取り出す。天秤に改めて載せ、羽毛を置き直すと、またもや金貨の乗った皿が上がり、羽毛の皿が台に叩きつけられた。
「見たまえ! これこそが罪の深さ! 連行せよ!」
「待て」
僕は人だかりを割って前に出た。シルクハットを指でクイッと押し上げ、ステージに上がる時のような優雅な一礼を披露する。
「司祭様。失礼ながら、その天秤は少し『体調』が悪いようだ」
「な、なんだお前は!」
「通りすがりのマジシャンですよ。……さて、皆さんも見ていたでしょう? 神の天秤が重さを示した。ですが、僕の目には神ではなく、『磁石』の力が働いているように見えたんですよ」
周囲がざわつく。司祭が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「無礼者! これは神聖な……!」
「神聖なら、僕が触れても問題ありませんよね? ……ルーシー、ちょっと手伝って」
僕はルーシーに耳打ちし、彼女が「ええっ!?」と驚く間に天秤へと近づいた。僕は燕尾服の袖から、一枚の「トランプ」を取り出す。
「このカードが、天秤の上で浮き上がったら……司祭様、あなたの『神』はイカサマということでよろしいですか?」
「ふ、浮くはずがなかろう! やってみろ!」
僕はカードを天秤にかざした。実はこれ、僕が仕込んでいた強力なネオジム磁石付きの特製カードだ。磁石の仕込まれた天秤の皿に反発させ、カードを宙に浮かせて見せた。
「……浮いた!?」
「カードが空中を歩いてるわ!」
観客がどよめく。その隙に、僕は天秤の支柱のタネを抜き取った。
「おっと、天秤の中にこんなものが。……あーあ、司祭様。神様が『こんな石に頼るな』と仰ってますよ?」