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「なんか若井ん家来るの久しぶりー。いつも綺麗にしててえらいねぇ。」
家に入れてもらって、体調不良の若井にはちょっと申し訳ないけど、僕はテンションが上がってる。
だって、なんか「お見舞い」ってさ!!めっちゃ歳上っぽいもん!!気遣いのできる大人って感じ!
「とりあえず、お茶でも出そうか・・?」という若井をびしっと左手で制して、「いいからいいから〜」とソファに座らせた。これから完璧に看病しちゃうもんね。
「若井、ごはんまだでしょう。いっぱい差し入れ買ってきたから、食べれるもの食べて。お粥もあるし〜、スープもあるよ!あとね、うどんも!!ぇあ・・・これはね、ちがうの、ちょっと美味しそうだなと思ってカゴに入れちゃってた。だって新発売って書いててさ。大丈夫、病人にこんなジャンキーなスナック菓子食べさせようなんて思ってないよ、安心して。見て見て!ゼリーもプリンもアイスもあるしー、ポカリもたくさん!!」
何から食べる〜?と聞くと、なんかちょっと笑われた。あ、良かった、いつもの若井の笑顔だ。
「じゃこのお粥、頂こっかな。」
「お、お目が高いですねお兄さん。」
やっぱり自分で動こうとする若井を制してから、「任せて下さい、お粥一丁ね〜!!」と張り切ってキッチンを借りる。まあ、レトルトのお粥をお皿に移して、チンするだけだけど。
「お待たせ〜」と言いながらリビングにお粥を持って行く。若井は大人しくソファで待っていた。困ったようにちょっと眉毛を寄せて。でもいつもの暖かくて優しい眼差しでこっちを見ていて。
その表情を見て、なんだか胸の辺りがソワッとした気がする。
・・・あれ?なんだろ、この気持ち。
あ、あれかな、なんて言うの、母性本能?いや、父性本能?兄性本能?・・・まぁ分かんないんだけど。
いつもしっかりしてる人がさ、ちょっと弱ってるっていうの?守ってあげたいみたいな?
うんきっとそう、これはそうゆう庇護欲的なやつだ!
お粥を持ったまま、ちょっと考え込んでボーッとしちゃっていたらしい。若井が「涼ちゃん?」と声をかけてくれて、ハッと意識を戻す。
「・・・大丈夫?涼ちゃんこそ忙しいんだし、疲れてるんじゃない?今日はもう帰ったら、」
「だっ、大丈夫大丈夫!!」
まずいまずい、また逆に気遣われるところだった。今日は若井を甘やかすって決めたんだから。「どーぞ、おまたせしました」とお粥をテーブルに置く。
「本当?無理しないでね。じゃああの・・・スプーンもらえる?」
僕の左手にあるスプーンを指して若井が言う。
「だめ。若井、アチアチだよお粥。」
「うん、まぁ・・見れば分かるよ。」
「若井は病人でしょ。ちょっと、まぁ任せて。」
僕はお粥をひと匙掬って、フーと吹き冷ました。
「はい、若井。遠慮せずに!あーん。」
どうよ、このホスピタリティ。
ホスピタリティ藤澤と呼んでくれても言いよ。と思っていたのに「・・・・いやいやいやいや。」と全力で拒否された。
「なに、いいじゃん!こんなときくらい!僕に若井を看病させてよ!」
「あのね、涼ちゃん。気持ちは嬉しいよ、ありがとね。でも俺そんな重症じゃないのよ。ただの熱なの。意識はっきりしてるの。」
子どもに言うみたいに若井になだめられる。
僕はなんだかがっかりした気持ちになりながら、若井の口元に差し出していたスプーンをお皿に戻した。そうだよね、流石にあーんは恥ずかしいよね。若井に悪いことしちゃった。やっぱり上手くいかないな。
でもさ、たまにはいいじゃん、僕だって若井のためになりたい。
下げていた目線をそろりと上げて、若井を見つめる。それからもう一度スプーンを手に取って、お粥を掬い、若井の口元に運ぶ。
若井は驚いたような顔をしたあと、みるみるうちに耳を赤くした。う”ぅ、と唸って、僕の顔と目の前に差し出されたスプーンを交互に見てから、がっと口を開けて食てくれた。
「・・・いい食べっぷりですねお兄さん!ほれ、もう一口。」
一口食べてくれたあとは、もう一口も何口も一緒だと言うように、大人しくパカッと口を開けてもぐもぐと咀嚼してくれて。
若干不服そうだけど、でもやっぱり隠しきれず耳が赤くて。
「ん”“んッ!」
どしたの涼ちゃんと言う目で見られて、「なんでもない!」と返す。まただ。またなんか胸がソワッとして変な声出ちゃった。
・・・これはあれだな、あれに似てる。昔実家で飼ってたうさぎさんが、初めて僕の手からエサを食べてくれた時の気持ち。警戒心の強い子が、自分に信頼を寄せてくれたときの感動。うん、それだそれ。
若井に餌付けを続けて、いつの間にかお皿は空っぽになった。「えらいね、全部食べれたじゃん!じゃあお次はプリンを・・・」とデザートタイムに入ろうとしたら、「もういいもういい!!」とまた全力で拒否られた。
えー、足りる?と思ったけど、若井は耳だけじゃなく顔まで真っ赤で。あら、熱上がっちゃったのかな。ご飯食べると体温上がるもんね。
「そーお?じゃあお薬のんで、もう寝てくださーい!」
またまたキッチンにコップを取りに行って、お水を注ぐ。ちなみに常温のお水にしたのが僕のホスピタリティポイント。なんか噛みそう。
「はい。」とお水を渡したら大人しく薬を飲んで、その後なんだかぐったりとソファの背もたれに沈んでいた。なんか最初より疲れてない?大丈夫?
「じゃあ若井、ベッド行こっか。」
「はいっ!?」
さっきまで静かだったのに、ガバッと体を起こして素っ頓狂な声を出してる。こりゃいよいよお疲れだね。
「なに、変な声出して。しっかり寝なきゃでしょ。人はね、体調を崩すときは決まってるんですよ。食事、睡眠、それから・・・あともう一つなんだっけな。・・・ちょっとすぐ出てこないけど、その3つの内のどれか一つでも欠けたら体調崩しちゃうんだからね!若井くんに足りていないのはあとは睡眠!さぁベッド行こっか!!」
「・・・カンベンシテ。」
蚊の鳴くような声で何か若井が言ってた気がするけど、ちょっと聞こえなかった。
若井の手を引いて立たせて、そのまま引っ張って寝室に連れてった。若井はドギマギと後ろを着いてきてて、やっぱりなんか胸の辺りがソワッとした。
「あ、まだ着替えてなかったね、ではお着替えの方を・・・」
「大丈夫!!!自分で!!着替えられる!!!」
「ぇあ??そーお?」
テキパキと自分でルームウェアに着替えた若井は、「では涼ちゃん。今日はありがとう。おやすみなさい。気を付けて帰ってね。」とさっさと僕を寝室から追い出そうとする。なんでそんな他人行儀な喋り方なの?
「僕を帰らそうってそうは行かないよ。全然だめ。まだあれやってないから。」
「なに!?どれ!?」
「あれだよ、あれ、看病の定番でしょあれは。」
とりあえず若井をベッドに寝かして布団を掛けてあげる。それから僕はベッドサイドに腰掛けて、若井をじっと見つめる。
「・・・なにこれ。」
「何って、寝付くまで横でついててあげるのが定番じゃん!ドラマとかでよく見るもん!ささっ、ゆっくりお休み!!」
「無理だよ!気になって寝れない!」
「えー!もー、ワガママ!」
「どっちが!!」
「だぁってー、これしないとやっぱ看病って感じしないもん。若井を寝かしつけたいの僕。」
「・・・・もぉーーーー!!!!」
布団の中でバタバタ暴れ出して大変。ご乱心だ。
かと思ったら「はぁ、もう、どうにでもして・・・。遅くならないうちに帰ってよ。鍵はオートロックだから・・・。」と疲れた顔で布団におさまった。
「分かった分かった、はい、おやすみ〜。」
胸の辺りをポン、ポンと優しく叩いて寝かしつけてみる。だんだんと体の緊張が抜けてきたのが分かって、静かな呼吸音だけが聞こえる。調子に乗って、今度は頭を撫でてみた。サラサラの髪が幼く見えて、やっぱりなんかソワソワする。
あれだけ騒いでた若井だけど、そうは言っても病人で、薬も飲んでいて。しばらくすると静かな寝息が聞こえてきた。そっと寝室を出て、扉を閉める。ミッションコンプリートだ。
若井が食べなかったプリンやゼリーなんかを冷蔵庫に入れた。それから使い終わった食器を洗おうと、スポンジを手に取って洗剤を泡立たせる。
なんだか今日は良いことしちゃったな。
若井、体調良くなるといいけど。
ちょっとは食べれたから元気になるかな。
あ、お粥をあーんって食べさせられて、ちょっと不服そうにしながらも大人しく口を開ける姿、ちょっとキュンとしちゃったな。可愛かった。
あと、寝室に行ったとき。戸惑いながらも手をぎゅっと握って着いてきてて。そういえばあれ、なんか手を繋いで寝室に向かってるみたいになっちゃったな。なんかドラマの中の恋人みたい。
それから何と言っても寝顔でしょ。頭を撫でてたら、すやすや寝ちゃうんだもん。若井、普段はあんなにカッコいいのに、寝顔は幼くなるんだな。レアだレア。レアな可愛い若井。
「・・・・ん?」
なんか僕、すっごい若井のこと考えてない?
キュンとしたとか可愛いとか、恋人みたいとか、普段はカッコいいとか・・・。
なんだろ、これは。母性本能とも、大好きな動物を愛でる気持ちとも違って。
もっとひっそりと大切に想うような、大事で仕方ないような。それで愛おしいような・・・。
ぶわわッと、急激に顔に血流が集まっていく感覚。きっと側から見たら、今僕は茹蛸みたいな顔をしてると思う。
・・・え?僕、若井のこと好きなの?
え、僕、え!?そうなの?
愛おしいって思っちゃってるよ僕、え!!
かっこよくて、可愛くって、優しくって、頼りになって。たまに意地悪くいじってきて、でもぼくが落ち込んでるときには誰よりも早く気付いてくれて・・・。
『そーゆうギャップにやられるんだよ世間は!!』
脳内に今日の元貴の言葉がリフレインする。
食器を洗い終えて流れる水を止めた途端、へにょへにょと力が抜けてしまった。
あぁ、神様、仏様、元貴様。僕も世間の大勢の中の一人だったみたいです。
とりあえず帰ろう。落ち着いて帰ろう。
・・でも帰る前にちょっとだけ寝顔見て帰ろう。
そぉっと寝室を開けて覗くと、若井が穏やかな表情で眠っていた。
僕はやっぱり胸の辺りが高鳴って、なんだか叫び出したくなったけど、どうにか自分を落ち着かせて帰路についた。
コメント
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コメント失礼します🙇 続き、楽しみにしてます!