──温泉街から帰る前に、近くにある足湯に寄ってみることにした。
あまり着馴れないワンピースで、彼と手を繋いで歩いていると、(いつかこれを着て、二人で歩きたい)と思っていた、かつての日のことが浮かんだ。
本当に実現するだなんて、あの時には夢にも思わなかったのに……。
そんなことを考えていたら、「……私、チーフと付き合っていなかったら、こういう服ってずっと着ることは、なかったかもしれないです」という呟きが、ふと口から漏れた。
「……どうして?」と、彼に問い返される。
「こういう淡い色合いのワンピースとか、自分には合わないだろうと思ってたんです。お店で見かけていいなって感じても、敬遠しちゃってました」
──前にショーウインドウで目を留めてスルーしてしまった、ピンクベージュのパンプスのことが頭をよぎる。
「パステルブルーのカラーが君にぴったりで、とても可愛らしい。だから君がこういう服を着るきっかけに、僕がなれたのなら、とても光栄に思うよ」
……彼は、いつだって私のことを思いやってくれるから。だから、この人のためになら、今まで着ることがなかった服も、積極的に着れればいいなぁと感じた……。
彼のために、可愛くいたい──。
ずっと長い間くすぶり続けていた、私の中の”可愛い”へのコンプレックスは、大好きな彼と一緒にいることで、いつしか解消されようとしていた……。
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