コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「──と、いうわけなんだけど」
『はぁ……』
「?」
ネフテリアはドルネフィラーから聞いた事を、出来るだけ大まかに要点だけを説明していった。ドルネフィラーと話せる事も、本人が生物に宿って話をするという事も秘密なので、ルミルテの調査の結果だと説明し、誤魔化している。
ルミルテは総長ピアーニャの母という事で、ミューゼとパフィはもちろん、オスルェンシスもあっさり納得していた。
「ってことは、クリエルテスで会ったヤガも、ドルネフィラーから?」
「少し透明だったし、スラッタルと同じような消え方したと思うから、たぶんそうなのよ」
うっかりヤガを貫通してしまったミューゼと違い、横から見ていたパフィは、ヤガが消えた瞬間を思い出していた。
「あ、もしかしてヤガやスラッタルが消えたのって、夢だからなのよ? 血も出なかったのよ」
「………………」(そういえばそうだ! 体の中から触れるようになってたら、あの時大変な事になってたじゃん!)
ミューゼはその時の事を思い出して顔色を悪くしていた。
それを見てアリエッタの顔が真剣になる。
「!」(みゅーぜが落ち込んでいる! 僕の出番だな!)
「まぁそんなわけで、前回も今回も、スラッタルを討伐出来たミューゼとパフィを含めての調査…と思ってたんだけどねぇ……」
元々『体の一部が透けている生物』に関しては、ミューゼ達が適任だと考えていたネフテリア。なぜスラッタルを仕留める事が出来たのかという謎も、もしかしたら解けるかもしれないと考えていたのだが……
「まさかのアリエッタちゃんが当たり前のように触れるという報告ですからね」
「?」(呼んだ?)
ミューゼの手をよしよしと撫でていたアリエッタが、自分の名前に反応して振り返る。
「むしろ私達の方が触れなかったのよ」
「あ、そっかー……そうなのかー……」
「これはまた謎が増えてしまいましたね」
オスルェンシスが苦笑しているが、ネフテリアはアリエッタを見てから頭を抱え始めた。
そんな王女の姿を不思議そうに見守る一同。しばらくの間、少し凹んだミューゼを慰めようと奮闘するアリエッタだけが、わたわたと動き回っていた。
(うーん、シスは謎が増えたって言ってるけど、むしろ謎が解けちゃったよぉ……しかもどうしようもないヤツ。どうしようコレ……)
この中で、ネフテリアだけがアリエッタの正体を知っている。そしてドルネフィラーの正体も知っている。
(そーですか、神の力には神の力ですか……単純ですねーそーですねーはははは……)
この事を相談出来るのは、現時点では両親とピアーニャのみ。アリエッタが平穏に可愛がられるには、ミューゼ達には教えない方が良いという結論を4人で出してしまったが為に、勝手にその事を口にするわけにもいかない。
今の所ドルネフィラーの夢に生身で触れるのは、アリエッタのみ。その事をどうしようかと考えた時、ふとヨークスフィルンでの事を思い出した。
「そ、そういえば、どうしてミューゼとパフィがスラッタルを捕まえたり仕留めたり出来たんだと思う?」
「どうしてって言われても……」
「いつも通り斬っただけなのよ?」
ミューゼ達に、何かした自覚は無い。
(んむむ……たしかあの時ミューゼは魔法を使った。どんな風に? そりゃもちろん杖……?)
ネフテリアは顔を上げ、ミューゼと杖を見た。見られたミューゼは、またセクハラでもされるのかと警戒している。
(じゃあパフィは……いつものナイフで斬った。でもフォークは刺さらなかったっけ)
今度はパフィと、持ってきたカトラリーを見る。
「テリア? おやつならさっき食べたのよ?」
「いやそうじゃなくて……2人とも武器みせてくれない?」
「? わかったのよ」
「はい」
テーブルの上に、杖とカトラリーが並べられる。
みんなが真剣な顔をしている事にアリエッタが気付き、アリエッタも自分の大事な道具である筆をポーーチから取り出し、ちょこんと並べた。
「いや、アリエッタちゃんはいいのよ?」
(ん? ちがった?)
「それでどうしたんです? あたし達の武器、変でした?」
「いやまぁ、変というか個性的というか、普通じゃないのは確かなんだけどね」
まず最初に見たのはパフィの巨大ナイフ。刃には赤い炎の模様がアリエッタによって描かれている為、かなり派手になっている。
「これで斬ると燃えるんだっけ」
「あれから燃えないのよ。でもアリエッタの絵だから、アリエッタが触れていると燃やせるのよ」
「でもあの時って……」
「きっとアリエッタが本気になっていたのよ。虹色だったのよ」
「なるほど?」
誰も真実を知る事は出来ないが、その時はアリエッタの中でエルツァーレマイアが土下座しながら力を送り込んでいた。遠隔でアリエッタの能力が発揮したのはその為である。
「で、フォークには……」
「何も描いてないのよ」
「へぇ……」
納得したように頷くと、今度はミューゼの杖を見る。
「これにはアリエッタちゃんの絵は……」
「ここですここ。可愛いでしょう」
杖には花が描かれている。植物園で輝いた時、ミューゼのウッドゴーレムが物凄い力を発揮したという事を、自慢げに話した。
「あの……そーゆー事は早く教えてほしかったなー……」
「え? そうなんですか?」
「そうなんですよ……」
いきなりの重要な情報。ミューゼの家の泊まっている間は、流石に杖をまじまじと観察しなかった。欲望全開でミューゼとアリエッタをひたすら観察していたせいで、細かい事には気づかなかったのである。
2人の武器を見て、ネフテリアはほぼ確信した。むしろ他に考えようが無い。しかし女神である事は伏せながらとなるので、推測として話す事にした。
「おそらくアリエッタちゃんの力があれば、夢に接触する事や、危険だったら討伐も可能になるわ。シャダルデルクで見つけたら、早速試してみましょう」
「へー、流石アリエッタね! いいこいいこ~♪」
「チューしてあげるのよー。ミューゼと挟み撃ちなのよー」
『ん~っ』
「ふゃあぁっ!?」(なんでええええ!?)
2人の不意打ちを食らい、アリエッタは爆発するように赤くなった。
「あの、おふたりとも? 驚かないんですか?」
「アリエッタだから当然の事です」
「可愛ければ問題無いのよ」
アリエッタの力が不思議なのは今に始まった事ではないと、ミューゼ達はあっさりと受け入れてしまう。
「そ、そう? まぁ夢に出会ったら2人には色々試してほしいけど、推測が当たってたらわたくしにも何か描いてもらおうかな」
「それはいいですけど、テリア様って武器なんかありましたっけ?」
「……どうしよっかな?」
「昔は杖で練習していらっしゃたんですけどねぇ」
武器にアリエッタが何か描けば、おそらく夢に触れることが出来るであろう。アリエッタが虹色である事が必要かはまだ定かではないが、今の所ドルネフィラーの撒いたトラブルへの唯一の対抗出来る可能性である。
しかしネフテリアは武器を持たない。ミューゼのように魔法を発動する媒体が必要無い程の腕前なのだが、今回の検証ではそれが災いしている。一旦諦めてサポートと観察に徹する事にすればいいが、手段があるのに何もしないのは、本人にとっては退屈なのだ。
「いっそ腕とか服に描いてもらうとか?」
「……ちょっと考慮する価値はあるかも」
そうなると一番の問題は、アリエッタに頼む方法である。単語だけでは会話が成立しにくいのだ。せめてお礼はしたいが、アリエッタがこれまでに明確に欲しがった物は、まだ筆しかない。ワガママを言わない大人しさが、逆に大人達を苦しめている。
ネフテリアも、つい先日絵を貰ってしまったばかりで、さらに対価を払わずに何かしてもらうというのは、流石に大人として心苦しい。しかも事件解決の糸口という、本来ならばかなりの褒賞が与えられるような役割なのだ。
「あのね、アリエッタちゃんの欲しい物なーにかなー?」
「?」(てりあも撫でてほしいの?)
一応聞いてみたが、当然会話が通じていない。何故か頭を撫でられてしまった。
つい先日、純粋な少女に対する罪悪感が蓄積していってしまうという地味な悩みを植え付けられ、ここでさらにアリエッタが必要不可欠という事態になった。普段は自由奔放だが、一応上下関係を尊重しているファナリアの王女だけあって、女神の娘に施しを受けてばかりという現状に、かなり本気で悩み始める。
「ミューゼ、パフィ! アリエッタちゃんの喜ぶ物、何でも良いから調べてくれない!? 屋敷くらいなら余裕で買ってあげられるからっ!」
「やしきっ!? いりませんけど!?」
早くも良心の呵責に苛まれ、涙目で貢ぎ物のネタを聞いてくる王女に、ミューゼ達は苦笑するしかないのだった。
「ふふふっ」(幼い子に迷惑かけたのに、色々な物を本人からプレゼントされてしまう一国の王女……そりゃあ恥ずかしいですね)
視線を逸らしながら含み笑いをするオスルェンシス。その考えを見抜いたネフテリアは、なおもアリエッタに撫でられながら、ジト目でオスルェンシスを睨みつけていた。
そんな攻防を目の前でしているのを見て、機嫌が悪いと判断したアリエッタは、真剣な顔つきになっている。
(これは……今こそ役に立つ時!)「むんっ」
「えっ? あの…えっ? なんでわたくし、ギューってされてるの? みゅ、ミューゼ?」
真剣な話をしていたつもりが、いつの間にかホンワカと和む事態になってしまうのだった。