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水虹ひにゃ@リムらないでほしい
入寮から数日が経った週末、桜はもうすっかり葉桜に近づいていて、風が吹くたびに残り少ない花びらがひらひらと舞い落ちていた。
「なんかさー、今のうちに花見しとかな損な気分にならん? 桜、ギリギリ残っとるらしいし」
言い出したのは、案の定太智だった。仁人の部屋を訪ねた時点で、彼の中で花見をすることはすでに決定事項で、手にはコンビニの袋を二つもぶら下げている。
「もっと風流な気分で、花見させろよ」
仁人は、突然の訪問と唐突な提案に呆れ気味にぼやく。ただ、まんざらでもなかったのか、太智の後をついて行く足取りは軽い。順に部屋を太智が訪ねれば、誰も行かないとは言わずに、五人はキャンパスの外れにある桜並木まで、ぞろぞろと連れ立って歩いていった。
レジャーシートを広げ、適当に買い込んだお菓子とペットボトルを真ん中に置く。頭上では葉の緑に混じって、まだ申し訳程度に薄紅色が残っていた。
「うわ、めっちゃ気持ちええな、これ」
寝転がった舜太が、両手を広げて空を仰ぐ。花びらが一枚、ひらりとその頬に落ちて、舜太は目を細めて笑った。
「今年の桜、ちゃんと見たの初めてかも…」
膝を抱えて座っていた柔太朗も、言葉につられて空を仰いだ。遠慮がちに足を伸ばすと、少し開放感を感じた。
その柔太朗の格好――何気ない普段着のはずなのに、妙に様になっている着こなしに、太智が目ざとく反応した。
「柔太朗って、格好からしてお洒落じゃん。芸術学部って、みんなおしゃれなの?」
「んー……どうですかねぇ。まだあんまり把握できてないけど、髪型が奇抜な人は多い気がする。」
「あー、ぽい。絵を描いてるの?」
「ううん。僕はデザイン科です。デッサンとかはするけど、基本はデザイン。デザインも色々あるけど、一番興味があるのは、ファッションとか装飾かな。人に似合う服を考えるの、好きなんです」
「あー、芸術学部なの納得かも」
「三年生になったら、服飾デザインとか、装飾文化史とか、そのあたりを専攻しようかなって」
その流れで、勇斗がふと思いついたように言った。
「そういえば、みんな何でその学部にしたの? 俺達、学部バラバラじゃん。全然普段どんな授業取ってるかとか知らないし……、意外とみんなの専攻選んだ理由とか、聞いたことないかも」
「あー、それ聞いてみたい」
柔太朗が乗ってくると、太智が待ってましたとばかりに手を挙げた。
「オッケー、オッケー! 俺からいこか。経営学部ね。そんなん単純やん。儲けられそうやったから。うちの実家、商売やっとるし、経営学部で勉強しといたら将来役立つかなって。就職も楽そうじゃん?」
「清々しいほど金の話だな……」
呆れたように仁人がつぶやくと、太智は悪びれもせず、
「金は大事じゃんね? 夢とか綺麗事だけじゃ食っていけへんし。」
「はいはい」
軽くいなす仁人に、太智はけらけらと笑った。
「次、俺な!」
勇斗が続けて手を挙げる。
「俺は法学部なんだけど、なんか漠然と困ってる人、なんとなく助けられたらいいなって、それぐらいの感じで決めたんだよな。だから、法律の中でも、民法系かな……家族法とか、相続とかも。まぁ、まだどうなるかわかんないけど。」
「なんや、相続って勇斗も結局金かいな!」
太智に突っ込まれ、勇斗は「ちげぇ、お前俺の話聞いてた?」と笑いながら軽く肩を小突いた。
「舜太は何学部だったっけ?」
指名されて、舜太は少し姿勢を正した。
「俺は国際政治経済学部な。開発経済とか、安全保障論とか、そのへんを専攻しようと思ってて。理由は……なんていうか、世界を平和にしたい、みたいな。アメリカにおった時、いろんな国から来た友達がおって。仲良うなった子の国が、ニュースで大変なことになってたりして。そういうん見て、なんか力になれることしたいなって、本気で思うようになってん。」
いつもの明るい調子とは少し違う、静かな声だった。柔太朗がその横顔をじっと見つめる。
「……かっこいいこと言うじゃん」
「せやろ?」
すぐにいつもの調子に戻る舜太に、柔太朗は小さく吹き出した。
「すぐ調子にのる、本当に世界を平和にできんの(笑)?」
「できるできる、まかせろ。切り替え早いのが俺のええとこやねん」
「――で、最後、仁人な」
太智に視線を向けられ、仁人はしばらく黙って、手元の花びらを一枚つまみ上げた。
「……文学部だけど……欧米文学とか比較文学とか、そのへんを専攻しようと思ってて。理由は、本を読むのが、好きだから。それだけ。」
「そういえば、仁ちゃん、よく本を読んでるもんね。難しそうだけど。」
「難しくはないかな。………あー、この話するの恥ずかしいんだけど、小さい頃から、人魚姫の話が好きなの。リ/トル/マーメ/イドの、アリエ/ルの方じゃなくて。原作の方な。」
「ア/リエ/ルしかわからん。原作って話変わるんやったけ?どんな話?」
「あー、あの、最後切ないやつだろ?」
勇斗が尋ねると、仁人は小さく頷いた。
「そうそう。ちょっとずつ色々違うんだけど……最後が一番違う。バッドエンド。結局人魚姫は王子を殺せなくて、自分が海に身を投げる。泡になるんだ。なんでそんなに好きなのか、自分でもよくわからないんだけど……すごく記憶に残ってるんだ。」
言葉を探すように、少しの間、視線を宙に彷徨わせる。舞い落ちる花びらを目で追いながら、どこか遠くを見るような表情だった。
その一瞬、場の空気がふっと静かになる。柔太朗はその横顔から、なぜか目を離せずにいた。
「うん、わかるよ。……そういう何でかわかんないけど、感情に響くものってあるよね。」
「――まあ、そういうこともあるんちゃう?」
太智がそう言って、あえて軽く流す。仁人も我に返ったように、
「……なんか、湿っぽい話してすんませんでした」
「いや、別に気にすんな。仁人がそんな話するの、珍しいなって思っただけで」
勇斗がそう言って笑うと、仁人はまた小さく、ふいと目を逸らした。
日が傾き始め、風が少し冷たくなってきた頃、五人はそろそろ帰ろうかと荷物をまとめ始めた。
舜太の髪についた花びらを、あまりにも自然な動作で柔太朗がそっと払ってやる。二人のその様子に、太智がそっと勇斗に耳打ちした。
「なあ、あの二人の空気、なんかむず痒くない??どうしてん?」
「あーー、まじでそれ思ってた」
「近頃の若いもんは……あいつら、この前出会ったばっかりやろ。こっちは一年以上うじうじしてんのに……見てられんわ。―――勇斗はどうなん、仁人とは」
「――は? 何が」
あまりにも唐突な問いかけに、きょとんとする勇斗を見て、太智はにやりと笑うだけで、それ以上は何も言わなかった。
(お、まさかの無自覚?そんなことある??)
内心でそう呟きながら、太智は誰よりも先に歩き出す。
夕暮れの桜並木を、五人はゆっくりと宿舎へと戻っていった。まだ知り合ったばかりの五人だったけれど、これから始まる一年間への予感のようなものが、確かにそこにはあった。
コメント
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転生前の5人を思い浮かべつつ読んでは、とても感慨深い専攻理由で。転生後(現世)のこの穏やかなご様子も相まって「5人が一緒に同じ時を過ごしている」ことがあまりに尊い情景…感激しながらこの先を楽しみにしております☺️