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「それにね、匠だから言うけど、トモ、この前おかしかったの」
「ん? おかしかったって?」
「夜、《《あの時》》いつもと違ってて、私凄く怖くて……」と悲しい顔をすると、
「あ〜そうなんだ……」と察してくれた。
「ごめんね、変なこと話して」
「いや……」と、匠は真剣に聞いてくれている。
「その理由が分かったような気がしたの」
「ん?」
「トモは倦怠期だから、なんて言ってたけど、私はそうは思えなくて。トモが違う|女
《ひと》としちゃったから、もう私じゃ物足りないんじゃないかって……」
「でもアイツ覚えてないって言ったんだろ?」
「そうだよ、でも、それももう本当かどうかも分からないし……男の人って酔っ払っても出来るものなの? 記憶がなくてもカラダが覚えてるってことはない?」と匠に聞いていた。
「いや〜俺はそこまで、酔ってまでしないからな。って、コレ俺今、何を言わされてるんだ?」と苦笑いをしている。
「あっ、だよね、ごめん」と謝ると、
「ま、いいけど」と笑ってくれたから良かった。
「私には男の人のことは、よく分からないけど、トモはそうだったのかな? って思って」と言うと、
「そっか。まあ俺ならそんなことはしないな。まず、好きな女を泣かせたりしない!」
その言葉に、きゅんとした。
「だよね……」
その後、私は、何も話せなくなってしまった。
──どうしよう……
すると、また匠は、私の頭をヨシヨシした。
恐らく匠は、私が又泣くんじゃないかと思ったのだろう。だから、慰める為にヨシヨシを繰り返してくれる。
でも、私の心の中では、違う感情が芽生えていた。
こんな時に……
いや、こんな時だからかもしれないけど……
匠が優しくヨシヨシしてくれる度に、
──匠! お願いだから、もうこれ以上、私に優しくしないで!
──好きになっちゃうよ!
そう思ってしまっていたのだ。
いや、もう既に手遅れなのかもしれないとさえ思っていた。
「泣いてもいいぞ」とやっぱり匠は、優しく言った。
私は、ヨシヨシしてくれている匠の手首を掴んで、首を横に振った。
でも、私の目からは、涙が溢れていた。
すると、匠は、また私をぎゅっと抱き寄せて、抱きしめてくれた。
「綾、我慢するな」と……
──違う! 違うよ! 匠!
その我慢じゃなくて……
──私……匠のことが好きなんだと思う。
何も言えないまま、抱きしめられている。
──どうしよう
まだ、ちゃんとトモと別れていないのに、
心を全部、匠に持って行かれてしまう。
違う意味で私は、泣いてしまっていた。
「大丈夫! 大丈夫! 俺が居るからな」と……
──全然大丈夫じゃない!
両方の目から、止めどなく涙が溢れ落ちて、泣いていた。
もうコレ以上、一緒に居たらおかしくなりそう。
「ごめんね、ありがとう」と、匠から離れると、
「もう良いのか? 大丈夫か?」と、物凄く近い距離で顔を覗き込んで話してくる。
──ダメだよ! 私、もう〜好きだ!
また、涙が流れた。
「全然大丈夫じゃないじゃないか……」と、今度は、
自分の指で涙を拭ってくれてた。
驚いて、思わず匠の目を見つめてしまった。
すると、匠は、又ヨシヨシと優しい顔をして頭を撫でてくれる。
「ウウッ、優しくしないで!」と、思わず言ってしまった。
「えっ? イヤか?」と悲しそうに言うので、
私は、首を横にブルブル振って、
「コレ以上優しくされたら、匠のこと、好きになっちゃうから……」
私は、そう言ってしまっていた。
すると……
また、匠は、一瞬驚いた顔をして、
私を思い切り抱きしめた。
驚いて、「匠?」と言うと、
「俺、もう我慢出来ない!」と言って、
私にキスをした……
──え?
そして、一度離れて、私が驚いた顔をしていると、
また……ゆっくりと唇を重ねて、
今度は、とてもとても優しく尚且つ、ねっとりと素敵なキスをする。
──何コレ? どうしよう……ダメだよ匠……
頭の中では、そう思っているのに、
匠のキスが素敵すぎて、離れられずに身を任せている自分が居る。
匠は、全く離れようとはしない。
優しく、気持ち良く……まるでセックスしているかのような心地良さが続く……
──あ〜ダメだ、匠に溺れていく……
ようやく唇が離れたと思ったら、またぎゅっと抱きしめられ、頭をヨシヨシされている。
「ごめん、私が変なこと言ったから……」
そう言うと、
「変じゃない! 嬉しいよ! 俺は……」と言いかけて……
「ん?」
匠はようやく、抱きしめた腕を緩めて、私の目を見つめながら、
「俺は、ずっと綾が好きだったから」と言った。
「えっ? 嘘!」と、目を見開いて驚いた。
「ふふっ、そんなに驚くか?」と言われて、
「驚くでしょう! だって……」
「だよな……同期の彼女だったんだもんな」と言った。
「う……ん……」
「だから、ずっと我慢してた! 友達のままで良いやって、智之とのこと、本当に応援しようって思ってた」
「……」
「なのに、あのバカ」と言った。
そして、
「だから、智之には悪いが、今日は、俺が綾を慰めるって決めてココに来たから」と言った。
十分慰めてもらった。
好きになるほどに……
私がキョトンとした顔をしているものだから、
「ふふ、良いよ、兄妹でも」と言ってくれたが、
私は、首を横に振った。
「ダメか……」と残念そうに言うから、
「違う! 智之がダメだから、今度は、匠に乗り換えたって思われる。コレじゃあ、トモと同じようなことしてることになるもん! でも……でも、もう好きになっちゃってるんだも〜ん」と泣いた。
「え? 綾? 本当に?」と優しく聞く匠。
「うん……」と泣いていると、
「そっかそっか、ありがとうな」と、又抱きしめられる。
「ウウウッ」
「泣かなくて良いよ〜」と背中を撫でてくれる。
そして、匠は私の手を握って、
「もう智之とは、別れるんだろ?」と、
「うん」
「なら、それから堂々と付き合おう!」と匠は言った。
「え?」
智之は、きっと責任を取って結婚させられるだろうと匠は言う。
智之自身もそのつもりで、私に『綾とは結婚出来ない!』と、1日でプロポーズを覆したのだから。
それに、私の手を離して、追っても来なくて、本当に1人で帰ってしまったのが答えだと理解した。
だから、匠は、「もう誰にも遠慮なんてすることはない!」と言う。
でも、きっと私が匠と付き合っていることが分かってしまうと、周りは、面白おかしく、『乗り換えた』と言うだろう。
それでも、匠は、『そんなの俺は構わない。綾がイヤなら会社、辞めても良いし……』と、なんだか話が飛躍し過ぎて驚いている。
「待って! とりあえず会社は、すぐには辞めないよ」と言うと、
「分かった。でも、ちゃんと、『別れる!』って言えたら、俺の彼女になって欲しい! 良いか?」と言ってくれた。
こんな状況なのに……良いのだろうか? と思いながらも、嬉しかった。
「うん……」と匠の申し出に答えていた。
そして、また頭をヨシヨシしてくれる。
「どうして、こんなことになってしまってるんだろう?」と匠に言うと、
「好きになるのに、理由は要らないでしょ!」と言われた。
その通りだと思った。好きなものは、好きだ!
ただ、今日、色々有り過ぎて驚いている。
人生何が起こるか分からないのだと思った。
そして、匠は、
「綾!」と私の手を握ったまま
「ん?」
「もう一度、ぎゅっとさせて!」と言った。
「うん」と、今度は、私が両手を広げた。
すると、「綾〜」と、また私を思い切り抱きしめた。
日が暮れて、辺りはもうすっかり真っ暗になっていた。まだ、夕方なのに……
──やっぱり、匠の胸は、落ち着く。
どうしてだろう?
2人には、まだその理由が分からなかった。
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