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#年の差
水無月 京
836
鷹槻れん

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鷹槻れん

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#強引
部屋に残された羽衣子はその場から動けずにいた。
「羽衣子! お前からアイツに言ってくれよ! 俺、本当に悪かったって思ってる! 反省してるんだ! お前のことも!」
必死に訴える想汰は間を置くことなく言葉を重ねていく。
「これからは心を入れ替える! お前にとって良い兄貴になるから! だから、頼むよ!」
けれど、その言葉は羽衣子の胸には届かなかった。
反省しているように聞こえても、それが心からの言葉ではないことくらい羽衣子には分かっていた。
ただ、この状況から逃れたい一心で口にしているだけだと。
「……お兄ちゃん」
静かに名前を呼ぶと想汰は顔を上げた。
「何だ?」
「覚えてる? お父さんとお母さんが亡くなった時のこと」
「ああ……覚えてるよ。忘れるわけないだろ」
「私はまだ五歳だったから、二人がいなくなった意味も分からなかった。叔父さんに、『もう二人には会えないんだよ、ここでは暮らせないんだよ』って言われても、どうしてって思うことしかできなかった」
想汰は黙って耳を傾ける。
「でも、お兄ちゃんがいたから……いつも私のそばにいてくれたから、寂しくなかった」
当時を思い返すように羽衣子は小さく笑う。
「『俺が羽衣子を守るから何でもお兄ちゃんに言うんだよ』って言ってくれたでしょう? あの言葉があったから……私は頑張れたの」
「羽衣子……」
「でも、叔父さんの家を出てから、お兄ちゃんは変わった。叔父さんも心配してた……」
一度言葉を切ると胸の奥にしまい込んでいた思いがあふれ出す。
「短大の時、お金に困ってるって言って来た時も、お兄ちゃんが困ってるなら助けたいって思った。やっと連絡が取れた時も今度こそやり直せるって信じてた」
視界が涙で歪み、声が震える。
「なのに……お兄ちゃんは、また私を裏切った……」
「羽衣子、それは――」
「違うって言わないで!」
感情が溢れた羽衣子は想汰の言葉を遮るように強く言った。
「お兄ちゃんは、いつも人のせいにしてばかり! 誰かに言われたからとか脅されてたからとか……そんなことばっかり!」
頬を伝う涙を拭うこともなく想汰を真っすぐ見つめる羽衣子。
「例えそうだったとしても、最後に決めたのはお兄ちゃんでしょ? 私のことを大切だって言いながら自分が助かる為なら平気で差し出せるんでしょ?」
「それは違くて……」
「違わない!」
悲しみと怒りが入り混じった声が部屋に響く。
「あの頃のお兄ちゃんは、そんな人じゃなかった。自分のことより相手を思いやれる、優しい人だった……」
そして、とうとう堪え切れなくなった涙が次々と零れていき、羽衣子の頬を伝い落ちていく。
その姿を見つめる想汰は何も言い返せなかった。
「……羽衣子……俺……」
想汰は涙を流す羽衣子を前に何かを言おうと名前を呼ぶ。
けれど羽衣子は小さく首を横に振った。
「……もう、いい……もういいよ」
「何だよ、もういいって……」
「もう、終わりにしよう、お兄ちゃん」
「は?」
想汰が戸惑いの声を上げる中、羽衣子は涙を拭いながら静かに言葉を続ける。
「……お兄ちゃん……そう呼ぶのは、もう最後にするね」
「何言って……」
「今までありがとう……さよなら、……お兄ちゃん」
言い終えると羽衣子はくるりと背を向け、そのままドアへ向かう。
「おい羽衣子! 待て、待ってくれ!」
悲痛な叫びが背中に届くけれど、羽衣子は振り返ることなくドアを開けた。
扉の向こうでは昴が静かに待っていて、羽衣子は涙を拭いながら彼を見上げる。
「……昴さん、ありがとう……ございました……っ。もう……大丈夫です……っ」
その言葉を聞いた昴は優しく羽衣子を抱き寄せ、そっと頭を撫でた。
「そうか」
穏やかな声で労いながら昴は尚も、「羽衣子!」と叫び続ける想汰へ冷たい視線を向け、想汰の声を意に介することなく静かにドアを閉めた。
そのまま羽衣子を支えるように上の階へ向かい、事務所の個室へ入る。
椅子に腰を下ろした羽衣子の隣へ昴も座り、落ち着くまで傍に付いていた。
暫くして、落ち着きを取り戻した羽衣子がぽつりと口を開く。
「……兄とは……話をしました。もう今日限りで……兄と思うことを、やめました……。ちゃんと……さよなら、しました……っ」
決意を口にした瞬間、ようやく収まりかけていた涙が再び羽衣子の頬を伝う。
「……ッ」
そんな羽衣子をそっと抱き寄せた昴。
「そうか。よく頑張ったな」
「……うっ……、ひっく……」
その温かな言葉と大きな手で優しく背中をさすられる温もりに羽衣子は、堪えていた感情を解き放つように小さく声を上げながら涙を流し続けた。
コメント
1件
もうやだもうやだ……!😭💔💔 羽衣子が「さよなら、お兄ちゃん」って言ったところで完全にやられた…!!あの優しかった頃の兄を覚えてるからこその決別が胸に刺さりすぎるよ…!昴さんの「よく頑張ったな」が全てを包み込んでて、そこでの涙も一緒にもらい泣きした…🥺✨ 本当に良い話をありがとうございます!🌸