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ど、どうしようーーー!
青山悠真に、告白されてしまった。
こんなこと、人生で一度きり、1等3億円が当たるぐらいあり得ないことなのに!
手をつないで歩き出すことで、さらにパニックが加速された私は……。
「ゆ、悠真くん、ありがとうございます。き、気持ちはよく分かりました。本当に。今すぐ返事が欲しい気持ち、よく分かります。た、ただ、私も29歳ですし、現実を見ないといけないと思うのです。少しだけ、考える時間をもらえませんか」
そう言ってしまったのだ。
あの青山悠真に想いを告げられ、考える時間をもらうなんて、あり得ないだろう。
私も今、部屋に戻り、お風呂にも入りベッドに寝転んで落ち着き、猛省している。
どんだけ上から目線なの、私。
あの青山悠真の気持ちを保留にするなんて!
そう自分をツッコむ一方で「でも」と擁護する気持ちもある。
だって悠真くんは気にしないと言っても私は年上。
悠真くんと付き合っていることが、もしメディアでバレた時。
私が叩かれるだけでなく、悠真くんだって呆れられる。
せめて同い年、妥当なのは年下の彼女発覚だろう。
悠真くんなら、選びたい放題なのだ。
何も年上のアラサーなんか選ぶ必要はないし、ファンもがっかりだろう。
悠真くんのイメージ戦略が崩れてしまうと思った。
それにまだ大学生の悠真くんは、結婚なんて考えていないはず。
でも私は……できれば35歳ぐらいまでには結婚したいと思う。
一方の悠真くんは、まさに売り出し中で、結婚なんてまだまだ先と、本人も思って入れば、事務所だってそう思っているはず。多分、悠真くんがアラフォーぐらいになったら。人気もひと段落したベテラン俳優となり、結婚を考えるだろう。そこまで私と交際しているか、分からない。でも仮に交際が続いても……私、とんでもない年齢よ……!
さすがに晩婚過ぎる。というかそこまで交際続いているとは思えない!
それら踏まえて考えても。
多分、無理だと思うのだ。
短いお付き合い。もって一年ぐらいか。
あの真摯な言葉から、悠真くんの気持ちは……本物だと思う。……いや、演技も上手だから。でも年上女をつかまえ、騙してまで付き合う必要はないだろう。だから……うん、あれは素直な今の悠真くんの気持ちだ。
その気持ちはありがたいし、嬉しいけど……。
多分、胃袋を。
胃袋を掴まれただけだ、悠真くんは。
私以外で年下の料理好きの女子がいれば、なびく。絶対にそっちへ行くと思う。
「!!」
メッセージアプリからの通話?
「あ!」
悠真くんからだ。
「も、もしもし」
「鈴宮さん、ごめんなさい。もう寝ていました?」
「まだ寝ていません。……どうしました?」
「……眠れなくて。明日、料理番組のロケがあるのに」
「! それは大変。……えっと、悠真くん、難解な本持っています? 見ると眠くなるような」
「え……。僕、辞書でも読めるタイプなんですけど」
いくつか提案した結果。悠真くんはこんなことを明かした。
「実は眠れない時、抱き枕を抱きしめるんですけど、実はシュガーが粗相をしてしまって。新しい抱き枕が届くのを、待っているんです」
「なるほど……。抱き枕の代わりになりそうなものは……?」と自分で尋ねながらも、そんなものないだろうなと思う。案の定、悠真くんも「ないですね……。シュガーがいてくれたらと思いますけど、生きていますから。落ち着いてそこにずっといてくれるわけではないので……」と答える。
悠真くんは、明日、ロケがある。
ちゃんと今晩眠って、スッキリした気持ちでロケに臨んだ方がいい。そのためには抱き枕があった方がいい。24時間営業の抱き枕を売っていそうなお店はあるが、そこに今から行くよりも……。
それは……もう安易だけど苦肉な策。
でも……。
***
「こんな展開、まるでドラマかアニメみたいです……」
「私もそう思います。……それで眠れそうですか?」
あれ、返信がない。
背後の気配を窺うと……。
あ、寝息が聞こえている!
安易すぎる苦肉の策。
それは私が抱き枕代わりになるというもの。自分で提案した時、どうかと思った。悠真くんも当然驚いた。だからすぐ「24時間営業しているバラエティーショップがあるので、そこに行きます?」と訂正したが……。
「僕のことを考え、真面目に提案してくれたんですよね? その気持ちを無下にできません」と改めて言われ、結局……。
私の部屋に悠真くんが来た。
ライトグレーのスウェット姿の悠真くんは、映画館の時とは一転、カジュアルでプライベート感満点。
「僕は鈴宮さんに告りましたが、返事をもらっていません。眠れないと甘えてしまいましたが、だからって変なことをするつもりはないですから」
彼が真面目で実直であることは、よく分かっている。それに私から抱き枕になると提案したのだから。うだうだしている時間が勿体ない。一分でも早く、悠真くんに休んで欲しいと思ったので「分かっています。悠真くんのこと、信じています。どうぞ」と即答。そしてベッドに横になり、悠真くんは後ろから私を抱きしめるようにして、しばらく無言だった。
もしやもう寝ていると思ったが、悠真くんが少し体を動かしたので、まだ眠っていないと気づく。やはり抱き枕と人間では違い過ぎるかしら?と思っていたら、悠真くんはまるでドラマみたいだと言い、そして……眠りに落ちていた。
悠真くんが後ろから私を抱きしめた瞬間。
それはもう心臓は大爆発、頭の中はショート寸前だった。
でも今、悠真くんの健やかな寝息を感じていると……。
私も自然と力が抜け、呼吸が穏やかになり、ゆったりと眠りに落ちた。
ぐっすり眠っていた私が目覚めたのは、まさに夢が途切れた時で、自然な目覚め。ゆっくり目を開け、悠真くんの顔を認識して、悲鳴をあげそうになった。
その悲鳴は驚き&嬉しい意味でのもの。
だって目覚めた瞬間にあの切れ長の涼やかな瞳と目があえば、それはもう悲鳴を上げておかしくないと思う。でも悲鳴をあげればご近所迷惑。
それをフォローしてくれたのは悠真くん。既に目覚めていた悠真くんは、私の口を自身の手で押さえてくれたのだ。
「ごめんなさい、鈴宮さん。先に目が覚めてしまって、じっと見ていたから、起きちゃいましたね」
「いえ、丁度、夢を見終わったタイミングで……。悠真くんは目が覚めたということは……あまり熟睡できませんでした?」
「そんなことありません。ぐっすり眠れました。満足して、目が覚めました」
その言葉にホッとし、もう起きる時間なのかと尋ねると。まだ5時45分で、アラームをセットした6時まで、時間があるという。
ベッドで横になり、悠真くんと向き合っている……。
これは……ドラマやアニメで言うなら、神回では。ファンなら、悠真くんと向き合う相手を自分に脳内変換し、大いに盛り上がることができるだろう。
「……鈴宮さん、僕と付き合うこと、何がネックですか? こんなこと聞くの、上から目線ですよね。でも僕って、普通の男性とは違うから……。特殊な職業ですよね。きっとそこが気になっているのかなと」
不意に核心をつく質問をされ、目覚めたばかりの脳が、瞬時にフル稼働となる。
「そ、それは……」
でも実際、その点で悩んでいるのは事実だった。それを「そんなことないです」と嘘をつくのも……。よって素直に昨晩、悩んだことを打ち明けた。すると……。
「年齢のことは気にしないでください。それにどれだけ気にしても、これはどうにもならないことなので。僕は年齢で人を好きになるわけではないと思うんです。好きになった人がたまたま年上だったってだけですから」
そう言って悠真くんは私の髪を手櫛で撫でる。
「それにファンががっかりする……。それはどうなのでしょう。マネージャーさんによると、僕のファン、年上の女性も多いそうですよ。その年代のファンからしたら、年上の一般女性と僕が交際しているって知ったら……少し嬉しくないですか? 僕が逆の立場だったら、嬉しいですけど」
そういう発想ができるのね。でもそれは……その通りかもしれない。男性と違い、女性は若さと見た目で判断されてしまうことが多い。もし悠真くんがそこを気にせず恋に落ちたと知ったら、ファンとしては、なんだか嬉しいと感じるのでは?
「あと、胃袋を掴まれただけ、短期間で気持ちが冷めるのではっていう件ですけど」
悠真くんがその手で私の頬を包み、澄んだ瞳で私を真っ直ぐに見た。