テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
148
みぃ〜ฅ^•ω•^ฅ
5,703
Misia
100
聖次
932
「クビだ、って言ったのが聞こえなかったのか?」
投げつけられたコップから飛び散った水を被った中年の男は、拳を震わせて、心の底からむかっ腹が立っているのを抑えた。
「言っていることは分かる。だけど納得がいかない」
パーティに雇われて五年。彼は、それなりに荷運び人としての職務を全うしてきた。なのにリーダーは彼をクビだと言った。ひどい話がすぎると誰でも思う。
「いいか、シレント。これまで、あんたみたいな年寄りを使ってやった。恩を感じてもらうことこそあっても、そうやって睨まれる理由はないんだよ」
最近の若い子にしてみれば四十代も立派な老人なのか。シレントと呼ばれた男は、そんなふうに考えながら、確かについていけないと思うことは増えたと納得もする。若い子の趣味も流行りも彼には分からない。話を振られても適当に相槌を打ったり聞き返したり、退屈だと言われれば否定のしようがないのも事実だ。
だからといって、話し合いの席を設けるでもなくいきなり首は理解し難い。
「ディル……皆でずっとやってきたじゃないか。どうして突然、僕をやめさせるなんて。これまで十分なほどパーティには貢献してきたはずだろう?」
「あんたの代わりが見つかったんだよ。介護はおしまいってわけさ」
ディルの下卑た笑い。元々、女遊びの激しい青年ではあったが、それには目を瞑って来た。彼が相応の実力者であったのは間違いないし、誰かに迷惑を掛けたことは今まで一度もなかったからだ。
だが、連れてきた代わりの子が明らかに冒険初心者ですと顔に書いてあるような少女だとは、温厚なシレントでも、どうかしてると言わざるを得ない。緊張で震えてるじゃないかと心配にさえなった。
「その子が代わりになるのはいい。だけど、君たちの実力で入るダンジョンに行けば、間違いなく死なせてしまうよ。守りながら戦うのは楽じゃない」
「うるせえなぁ……! 俺がリーダー、俺に決定権があるんだよ!」
それを言われると、もう他に言うべきことはない。
ディルの傍にいる少女たちも、シレントから目を逸らす。
「わかった……。そこで言うなら、僕はここで降りるよ。応援はしてるから」
仲間だったふたりと新人の少女は何かを言いたげにシレントを見ていた。今の状況で言葉なんて掛けられないだろうなと理解を示して、そのうち会うことがあれば、話掛けるくらいはディルも文句は言わないだろう。そのときまで待てばいい。と自分を強引に納得させて、目を伏せた。
「じゃあな、おっさん。そこそこ稼がせてやったんだ、感謝しろよ」
「そうだね。じゃあ、頑張って」
うまく笑えなかった気がした。冷静さを保とうとするほど、取り繕った表情が剥がれ落ちているのが分かるくらい、シレントの笑顔は引き攣っていた。
たかが五年、されど五年だ。積みあげてきた関係が真実だと鵜呑みにして、ディルの根底にあるどす黒い部分にまったく気づけなかったのは、自分の落ち度だ。シレントは何度も自分の胸にそう言い聞かせたが、部屋を出た後も、ずっとそのことで胸の中がもやもやしたままだった。
冒険者の街アルカンの片隅で、彼はパーティを追放された。
何かが駄目だったわけではない。駄目だったとすれば年齢なのだろうか。ディルは21歳で、パーティに入れて連れまわしている娘たちも同じくらいだ。となると、ちまたに聞くハーレムというのに憧れていたのかもしれないと鼻で笑う。
本音を言えば、ぶん殴りたかった。だが、シレントもそこそこに歳を重ねてきている。あれくらいで暴力に出るような若さもなく、どちらかと言えば事なかれ主義になった。これもひとつの老いによる影響なのかもしれない。
荷運び人という仕事に、代わりがいると言われたことだけは虫唾が走るほど腹が立った。彼は、ディルは勘違いしてる。それに気づくときはきっと後悔してるだろうな、と少しだけ可哀想な気持ちになった。
なにせシレントの持つバッグはどんなものでも無限に入る。だから、どれだけ長時間、ダンジョンに籠っても平気だった。普通の荷運び人には無理だ。ましてや新入りは、初心者だ。自分の好みひとつで危険なダンジョンに連れていくのは正気の沙汰じゃない。殺すつもりだと言っているのと同じである。
「ま、どれだけ言っても……かな」
ディルが聞き分けが悪いのは前からだ。自分がいちばん強いという理由で、方針は常に彼の判断ひとつで決まってしまう。
助言をするとキレて騒ぐから、誰も何も言わなくなった。
仕方ない。そういう男についていった自分も悪いんだと諦めた。
しかし、嫌な気持ちはあまり収まらなくて、結局ギルド近くにある雑貨店で煙草を買った。もらってすぐに火をつけ、煙を肺に入れる感覚はとても落ち着いた。
「煙草は身体に悪いと思うぜ、おっさん」
「……君は?」
どこで買ったのか少し気になる、美味しそうなチュロスの匂い。背の高い悪人顔の娘が、豪快に齧りながらジッとシレントを見つめていた。
「レアナってんだ。かっこいい名前だろ」
とても気が強そうな悪人顔で、レアナの性格は言葉遣いにも出ている。
ほどほどに長い髪をポニーテールに纏めていて、顔が動くと合わせて揺れた。
「僕はシレントだよ。五年くらいパーティ専属の荷運び人をやってたんだけど、勝手な理由でクビ宣告さ。煙草でも吸わなきゃやってられない」
「ふ~ん、そりゃ奇遇。私もクビにされてきたとこだ!」
何も気にせず、レアナがけらけら笑う。
シレントは煙草をくわえたまま固まった。
「なんだよ?」
「いや、普通は怒ったり悲しんだりするもんじゃないのかなって」
「なんだ、そんなこと」
つまらない質問だなあと笑われてしまった。
恥ずかしくなって、シレントの顔が薄っすら赤くなる。
「おかしなこと言ったかなあ、僕は」
「そりゃそうだろォ。別に私が悪いとは思ってねえからな」
「……え、うん。だからこそ怒るんじゃないの?」
「違う違う。そりゃ他人を甘く見過ぎだぜ」
紙袋の中に残ったチュロスのくずをざらざらと口の中に放り込み、最後まで堪能する。くしゃくしゃに丸めた紙袋を投げては掴んで弄んだ。
「泣いても怒っても、あいつらはなんにもしてくれねえさ。だから、戦力外だって言われたら大人しく従う。ま、そいつらの見る目がないってこった!」
強い子だなあとしみじみする。堂々としていて立派で、見限られたことに不満を覚えていた自分とは大違いだと尊敬すらできた。
「せっかくだ、クビになったもん同士でギルドの酒場にでも行かねえか」
「これも何かの縁かもね。いいよ、僕みたいなおじさんで良ければ」
「なぁーに言ってんだか。おっさんの方が酒に付き合ってほしそうな顔だろ」
返す言葉もない。穏やかというよりは気が弱いだけなのだろうか、とシレントはトホホと泣きそうな顔をして、レアナに感謝する。
「じゃあ少しだけ付き合ってもらおうかな」
コメント
1件
いや~もうね、冒頭から胸がギュッと締め付けられたよ…!!😭💦 シレントさんの、長年尽くしてきたのに若いリーダーに「おっさん」呼ばわりでポイされる切なさがビシビシ伝わってきた。でもそこで腐らずに「応援してる」って言えるのがもう大人の余裕?いや、強がり?って感じで泣ける…。そんな時に現れたレアナ、見た目悪人顔でチュロス齧ってるギャップ萌えすぎるし、「戦力外だって言われたら大人しく従う。見る目がないってこった!」って台詞がめっちゃカッコよかった…!!!✨ クビ同士で酒場行く流れ、めっちゃ熱いバディ誕生の予感しかしないんですけど!? 続き気になりすぎる〜!!🔥