「……何これ?」
三神さんの部屋を目にした瞬間、動揺のあまり呟いた。
何も無い部屋。
人の住む為に必要なものは何も無いだけでなく、荷物置き場にすらなってない。
三神さんは、やはりこの部屋で暮らしていなかった。
ただ私に制裁を加える為だけに、ここへやって来たんだ。
胸が締め付けられるように苦しくなる。呆然とする私の足を、三神さんは再び拘束した。
「これは犯罪だと分かってる。でも君を許せないんだ……君は自分には何の非も無いと思ってる。自分の価値観が絶対で、合わなければ切り捨てていく」
私は抵抗も出来ずに、三神さんの話を聞いていた。
「初めは少し痛い目に遭わせるだけのつもりだった。だから歩道橋から突き落としたりしたけど……」
「あれは、三神さんだったの?!」
衝撃的な発言に、私は一際大きな声を上げた。
「そうだよ。あの時は偶然だったんだ。君を見かけて、怒りがこみ上げて突発的にやってしまった」
あの歩道橋での事件が、三神さんの仕業だったなんて……。
「あの後、君のことを調べて決めたんだ。君に自分の罪を自覚させるには、こうするしか無いって……」
「罪って……私は悪くない、あなた頭おかしいんじゃないの?」
そう言うと、三神さんは馬鹿にしたように笑った。
「自分は悪くないか……そう言って妹も拒絶してたな」
「……え?」
「この前、妹が来てただろ? 君は受け入れずに追い出してたけど……大声だったし耳を澄ましていたからね。よく聞こえたよ」
「盗み聞きしてたの?!」
様子を伺われていたと思うと、背筋が冷たくなる。私の非難をものともせずに三神さんは続けた。
「あの時、妹の話を聞き入れていればこの事態は避けられたかもしれないのにね」
「……え?」
どういう意味? やっぱり三神さんは雪香と関係あるというの?
三神さんは答えを寄越さないまま、私を置き去りにして部屋を出て行った。
玄関の扉が閉まるとすぐに、私は足枷を外しにかかった。
早く何とかして脱出しないと……。
春先とはいえまだ寒さは厳しい。こんな暖房も無い部屋でコートも無しに一晩過ごせるはずない。
引っ張ったり、力任せに取ろうとしたけれど、やはり頑丈でビクともしない。
無駄とはおもいつつも、何か道具は無いかと部屋の中を見回した。
だけど部屋の中はガランとしていて、やはり道具になりそうな物は何も無い。
私は落胆のあまり顔を歪めた。本当にここから出られないのだろうか。
こんな目に遭う程、私は酷いことをしたとは思えない。
三神さんは、精神がおかしくなってるのだろうか。
失望で体から力が抜ける。私は冷たい床に横たわった。
寒さに縮こまりながら、様々なことを考えていた。
この部屋に閉じ込められていたという三神早妃さん。
彼女は三神さんの妹なのだろうか。今はどうしているのだろう。
辛い目に遭ったのは確かだろうけど、大分前に引っ越したんだから今は解決しているんじゃないの? それなのに、何故三神さんは私を恨むのか。
憎むなら、彼女に実際危害を加えた相手が筋なのに、どうして私を……。
ただ隣室の異変に気付かなかっただけで、ここまでされるのはおかしい。
他に何か原因が有るのだろうか……そういえば、三神さんと私は以前会っていると言っていた。
その時何か有ったのだろうか。
それから、雪香の話を聞いておけば、この事態を回避出来たと言っていたけれど、どういう意味なのか。
雪香は私が三神さんに恨まれてると知っていた?
いくら考えても答えは出ない。
このまま放置されたら、私はどうなってしまうんだろう。
寒さでもう手足の感覚が無い。こんな状態がずっと続いたら……。
私がこんな目に遭っていると、気付いてくれる人は誰もいない。
その事実に胸が痛くなる。
雪香と蓮を煩わしいと感じて、二度と関わるなと言い拒絶した。
けれど、私を思い出しどんな事情にしろ気にかけてくれるのは、あの二人だけだった。それなのに、私は自ら二人の手を振り払ってしまった。
一人で大丈夫だと思っていた。
雪香の問題に巻き込まれなければ何も問題無いと。直樹と別れた時、誰も信じず頼らずに生きて行こうと決めた。
実際、人と関わらない様にしていたし他人に関心なんて持たなかった。
まさか、無関心さが原因で強い恨みを持たれるなんて……。
蓮に助けてもらって親しくなって、本当は誰かに側に居て欲しいと思っていた自分に気付いたところだったのに。
新しく生活を始めたら少しは変わりたいと思ってたのに、それも叶わないのだろうか。
そう思うと怖くて仕方なかった。
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