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第7.5話
軽く湯を浴びてから髪を乾かし、鼻歌を歌いながら自分の部屋の扉を開ける。一階がベーカリーで、その上がマリカを含めた家族の居住スペースだ。店じまいして従業員が全員帰った後、両親も芝居を観に行ったので、今夜自宅には自分一人である。
さて、何をしようか。家族ぐるみで懇意にしている菓子屋から買った飴を口に放り込みつつ、机の上に置いてある本を開く。少しずつ日中の気温が上がってきて夏の気配を色濃く感じるようにはなったものの、開け放した窓からはまだまだ涼しい夜風が流れ込んできている。
「……うん?」
階下から物音が聞こえた気がして、読んでいた本から顔を上げた。しばらく耳を澄ませてみたが、もう何も聞こえない。気のせいだろうか。
「もう、またクリストファーのところの悪ガキかしら」
時々、店を閉めた後にもかかわらず、売れ残りのパンを目当てに近所の子どもが忍び込んでくることがある。念のためにと本を閉じて一階の店舗の様子を見に行ってみたが、特に異常はないようだ。
「やっぱり気のせいかな」
自分の部屋へと戻り、再び本を手に取る。不意に、窓から入る風が気になった。びゅうと音を鳴らして吹き込んでくる。
「……一人だからって気にしすぎよね」
自分で苦笑しながらも窓を閉め、ベッドに寝そべって本の続きでも読むかと振り返った瞬間。
「がっ……!?」
頭部に強い衝撃を感じてベッドへ倒れ込んだ。何が起こったのかとっさに理解できず、仰向いたところを人の手で首を絞められる。
とても強い力だ。こぼれるのは蛙が潰れるような息ばかりで、助けを呼ぼうにも声にならない。
ぐう、かひゅう、と喉から息が漏れる。視界が点滅し、目の前に星が飛ぶ。首を絞める手を引き剥がそうとするも、まるで力が入らない。
遠のく意識の中で、自らの命の灯が消えていくのを、どこか他人事のように感じた。