テラーノベル
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謹慎中の自室。
私は机の上に広げた資料と、壁に貼った人間関係図を睨みつけていた。
最初の、毒事件。
文化祭の、魔獣暴走事件。
そして屋上での、あの自爆魔石。
点と点を並べてみれば、ひとつの流れが見えてくる。
(最初の毒事件は、リリアンヌへの攻撃に見せかけた、私への『警告』だった)
使われたのは、ウィステリア領由来の睡眠草。
前王妃派のエルベルト公爵家に被害を出し、同時にホテル・レストラン経営を始めて目立ち始めた私を牽制するため。
そこまでは、まだ分かる。問題は、その次だ。
文化祭の魔獣暴走事件。
魔力増強剤入りのおやつクッキー。
そして、屋上爆破。
(ここからは、明らかに段階が違う)
私だけじゃない。レオンも、アレクも、フローラも、リリアンヌも巻き込まれる可能性があった。最悪、誰かが死んでいてもおかしくない状況だ。
(つまり相手はもう、生ぬるい『警告』じゃない。明確な『排除』に切り替えている)
けれど、そこでひとつ引っかかった。
(ベラドンナにとって、私は本来、生かして利用した方が得なはずよ)
ウィステリア伯爵領の財務状況は、相変わらず良くない。
この国では女性に領地の継承権はない。父が亡くなれば、領地を継ぐのはベラドンナの息子――私の異母弟のナルシスだ。
つまり私を消す必要はない。
以前のように、成金の商人か、金持ちの老貴族に私を嫁がせて、援助を引き出した方が得だ。
(なのに、今は違う)
(つまり、この短期間に『私を今すぐ排除しなければならない理由』ができたってことね)
コンコン、と控えめなノックの音がした。
「差し入れのハーブティーとクッキーです」
フローラが、トレイを持ってトコトコと入ってきた。
部屋を見渡した瞬間、彼女が大きな目をさらに見開く。
「お姉さま……! 壁が、すごいことにっ……!」
「謹慎は、外回り禁止の在宅勤務みたいなものよ」
私はハーブティーを受け取り、不敵に微笑んだ。
「ねえフローラ。学院の図書館で、ここ数か月の『王室関連の新聞記事』をすべて集めてきてくれる?」
「はい! お姉様のためなら喜んで!」
一時間後。
王都の主要新聞社から地方の小さな新聞社まで、あらゆる記事を魔法複写機で写してきたフローラが戻ってきた。
「さすがフローラ、仕事が早いわね」
「お姉様のためにがんばりました。こちらです!」
ドサッと机に置かれた紙の束。
王都速報。
貴族新聞。
商業通信。
王室広報の写し。その中から、小さな新聞社がひっそりと掲載した、隅の小さな記事に私は目を止めた。
『国王陛下、体調不良により一部政務を休止。離宮にて療養へ』
「……あったわ」
ゲームの設定によると――
第二王子のレオンは、前王妃の息子。
前王妃は男爵家の出身で、王妃としては身分が低かった。けれど、国王陛下に深く愛され、レオンは王太子に立てられた。
だが、前王妃は若くして死去。
その後、後妻として王妃の座に就いたのが――ベラドンナの生家・マレフィカ侯爵家の出身であり、ベラドンナの従姉妹にあたる、現王妃だ。
国王陛下は温厚な人物だった。
けれど、生き馬の目を抜くような宮廷政治に長けているとは言いがたく、前王妃の死後、急速に力を増したマレフィカ侯爵家の圧力を跳ね返すことはできなかった。
現王妃に男児が生まれると、レオンは王太子の座から引きずり下ろされ、現王妃の息子が新たな王太子となった。
レオンは、第二王子に格下げされたのだ。
「……王位継承問題ね……」
レオン本人に、王位への執着はない。
けれど、王位継承は本人の意思だけで決まるものではない。
民衆の人気。
貴族の支持。
軍事力。
経済力。
(私と親しく、民衆の人気が高いレオン)
(私の背後には、王国一の軍事力を持つアレク──ベルシュタイン公爵家がいる)
(前王妃派のエルベルト公爵家も、こちらに寄り始めている)
(さらにアイリス領は、王国の観光事業を押さえつつある)
王妃派から見れば、私はレオンを王位に押し上げる可能性がある危険な芽だ。
レオンを直接潰せば目立つが、周囲の人間から潰すことならいくらでもできる。
部屋に、再びノックの音が響いた。入ってきたのは、レオンだった。
「バイオレッタ。例の『ハーレー商会』の出資者を調べてみたらさ……面白い名前を見つけたよ」
コメント
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このエピソード、とても興味深かったです。謹慎中の“在宅勤務”スタイルで、毒事件から魔獣暴走、自爆魔石までを繋ぎ、相手の意図が“警告”から“排除”へ変わったと推理する展開が巧みですね。特に「♡♡♡より生かして利用した方が得」と冷静に分析しながら、即排除が必要な理由を国王の体調不良や王位継承問題に結びつけるロジックが好きです。フローラの献身とレオンの“面白い名前”発言で次が気になります。