それから順調に五十嵐はトーナメントを勝ち抜いていった。
準決勝も危なげなく勝ち抜き、決勝へと進出を決めた。
「いよいよ明後日だね五十嵐」
「いやー流石だなお前」
「みんなで応援行くからね!」
「優勝しろよ五十嵐!」
クラスメイトたちに囲まれる五十嵐。
「おう!頑張るぜ!」と元気に答える。
「対戦相手誰だっけ?」
「あいつだよ。6組の後藤」
「げぇ、あいつ嫌いなんだよな」
「いっつも舎弟引き連れてオラついてて怖いよねー」
「そんな奴に負けんなよ五十嵐」
「誰だろうと負けねーよ!」と豪語する五十嵐を遠目に、雪乃は眠そうな目で時計を見た。
15時40分か。
美希が用事があるとかで先に帰ってしまったので、今日の放課後は勉強会をせず家に帰ろうかと思っていた。
〜タララタララタラタラン♪
そんな平穏な空気を切り裂くように、電話が鳴った。
「はい。じゃねーや、南無南無?」
『南無南無ぅ?元気ぃ?』
「はい。元気なんで切りますね」
電話はチーノからだった。
『待て待て、イタ電やないから別に』
「じゃあ何やねん」
雪乃が帰り支度をしながら訊くと、『暇やろ。ちょっと風紀室まで来てや』と言われる。
「は?暇じゃないんですけど」
『じゃあ待っとるから』
切られた。
あいつはほんとにそろそろいい加減にした方がいい。
まじかよ、帰ってイワンコと遊ぼうと思ってたのに。
雪乃はため息をついて、帰り支度を後にし風紀委員室へと向かった。
「おいチーノ人をおちょくるのもいい加減にしろよ」
不機嫌に風紀室の扉を開けると、そこにはデジャヴが広がっていた。
チーノ、ショッピ、佐々木が委員長のデスクを囲うように立っていた。
そして瀬戸も、デスクの上でパソコンを開いていた。
「…え、何このデジャヴ」
「おっすゆっきーええから早よ来て」
チーノに手招きされる。
私の扱い雑じゃね?と思いながら近寄る。
「雪乃先輩お疲れ様です!今日も美しいですね!」
「ルカくんおつかれ。ショッピくんも、何でまたいるの?」
「情報提供しに来たんやけど?」
さすが情報屋さん。
まぁどうせ暇だったからまた防犯カメラでもハッキングしてたんだろうけど。
「そうなんだよ草凪さん。今回もショッピくんがこの映像を見せてくれたんだけど…ちょっと厄介そうなんだ」
瀬戸がパソコンをこちらに向ける。
そこに映っていたのは、生徒同士によるポケモンバトルの映像。
「これは今回の最強トレーナー決定戦のトーナメント戦の様子なんだけど…」
「…これ、何かやってるね」
瀬戸が説明する前に、雪乃が映像を見て言った。みんなが驚いた顔で雪乃を見る。
「お前、よぉ分かったな」
「分かるでしょこんなもん。明らかにおかしい。ケッキングの“どくづき”がこんな軌道になるはずがない」
技が明らかにおかしいことに、一目で気付いた。
「さすが草凪さん。そうなんだ、ここをよく見て」
一時停止した映像の端を瀬戸が指差す。
「これって…カクレオンの模様?」
「そう。ここにカクレオンが潜んでるんだ」
いろへんげポケモンのカクレオン。
体の色を自由に変える能力を持つが、お腹のギザギザ模様だけは変えることができない。
なるほど、と雪乃は納得する。
カクレオンが姿を消して後ろからケッキングを手助けしていたのか。バレないように。