テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
47
1,455
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
sideR
「一緒に終わらせよう」
そう言った瞬間、自分の喉がわずかに震えているのが分かった。
――本当は、怖い。
元貴のためとか、そんな綺麗な理由だけじゃない。
ドアの向こうにある“それ”は。
かつて、僕を閉じ込めていたものだ。
名前もない、でも確かに存在する“声”。
優しくて。
甘くて。
逃げ場みたいで。
そして――全部を奪う。
「……っ」
一歩、ドアに近づく。
手を伸ばす。
触れる直前で、止まる。
頭の奥で、囁きが蘇る。
「やめなよ」
「また壊れるよ」
「せっかく出られたのに」
昔、何度も聞いた声。
今は、はっきりと自分の中から聞こえる。
違う。
“まだいる”。
消えてなんかいない。
ただ、静かにしていただけだ。
「……そうだよな」
小さく呟く。
完全に克服したなんて、思っていなかった。
でも。
ここまで残ってるとは思ってなかった。
「僕、まだ怖いんだ」
正直に言葉にする。
誰に聞かせるでもなく。
自分に。
ドアの向こうにいる元貴に。
⸻
sideM
「僕、まだ怖いんだ」
ドア越しに聞こえたその言葉に、息が詰まる。
涼架が?
あんなに普通に見えてたのに。
あんなに落ち着いてたのに。
「でも」
続く声。
「それでも行くよ」
その一言が、強く響いた。
部屋の中の“それ”が、少し歪む。
「やめときなよ」
そいつが笑う。
「きみも壊れるよ?」
「元貴も巻き込むよ?」
耳障りな声。
でも。
もう、前みたいには飲み込まれない。
「……来るよ」
俺は小さく呟く。
「涼架は、来る」
⸻
sideR
ドアノブを、握る。
冷たい。
現実の感触。
それなのに、頭の中は過去に引き戻される。
閉じこもっていた部屋。
誰にも会いたくなかった日々。
あの声に、包まれていた時間。
「楽になれるよ」
「全部やめていいよ」
「ここにいればいい」
――あの時。
あの声に、どれだけ救われたかも知っている。
だから、完全には否定できない。
それが一番厄介だ。
「……でも」
ぎゅっと、力を込める。
「それじゃダメなんだよ」
言い切る。
あの頃の自分に。
今の自分に。
そして、ドアの向こうの元貴に。
「楽なだけじゃ、前に進めない」
心臓がうるさい。
怖い。
それでも。
「僕は、外に出たから」
ゆっくりと、ドアノブを回す。
「今度は、僕が行く番だ」
⸻
sideM
ガチャ、と音がした。
ドアが、開く。
光が差し込む。
その向こうに、涼架が立っていた。
少し息を切らして。
でも、まっすぐこっちを見ている。
同時に。
部屋の“それ”が、大きく歪んだ。
「……来ちゃったか」
涼架の声で、涼架じゃない声。
二つが重なる。
「ねぇ」
“それ”が言う。
「また閉じ込められたい?」
涼架は、一歩中に入る。
止まらない。
逃げない。
「……正直に言うね」
少しだけ苦笑して。
「怖いよ、めちゃくちゃ」
でも。
そのまま、もう一歩進む。
「でもさ」
俺の隣まで来て。
静かに立つ。
「それでも、こっちに立つって決めたから」
⸻
sideR
“それ”と、目が合う。
昔の自分を見ているみたいだった。
あの時の、自分の一部。
否定しきれない、弱さ。
「……消えろとは言わない」
ゆっくり言う。
「でも」
一歩、前に出る。
「主役は譲らない」
“それ”が笑う。
歪んで。
揺れて。
「じゃあ、どうするの?」
その問いに、少しだけ考える。
そして。
「一緒にいる」
そう答えた。
「でも、従わない」
⸻
sideM
涼架の言葉に、“それ”が一瞬黙る。
その隙に、俺も言葉を重ねる。
「……俺も」
喉が震える。
でも、言う。
「怖いの、なくならない」
正直な気持ち。
「でも」
涼架を見る。
ちゃんと、そこにいる。
「一人じゃないなら、耐えられる」
その瞬間。
部屋の空気が、少しだけ変わった。
“それ”の輪郭が、揺らぐ。
完全に消えたわけじゃない。
でも。
さっきまでみたいな“支配”は、もうない。
⸻
sideR
元貴の言葉を聞いて、少し笑う。
「うん、それでいい」
完璧に勝つ必要なんてない。
消し去る必要もない。
ただ。
飲み込まれなければいい。
それだけで。
「……終わりじゃないけどね」
正直に言う。
「でも」
元貴を見る。
「もう、前みたいにはならない」
⸻
部屋の隅で、“それ”は静かに座り込んでいた。
もう、笑っていない。
ただ、そこにあるだけ。
⸻
sideM
「……なんか、拍子抜けだな」
思わず言う。
涼架が笑う。
「現実って、そんなもんかもね」
窓の外を見る。
ちゃんと朝が来ている。
あの頃と違う。
閉じた世界じゃない。
ここは、外と繋がっている場所だ。
⸻
もう、ドアは閉じない。
怖さが消えたわけじゃない。
でも。
それを抱えたまま、開けていける。
今は、それでいい。