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夜中の変な時間に起きてしまい気分転換に外に出て風に当たっていると、リサイクルセンター付近で個人医通知が鳴った。気を引き締めて急いで向かう。
「おっ来てくれた〜ぐち逸先生や、こんばんは。」
「お待たせしました、貴方は面白人間の…鮫島フラムさん。すぐ治しますね。」
「ありがとうございます、いてて…」
「出血、挫傷…?見た所周りに何も無いですがどうかされたんですか?」
「急に心無きが殴りかかってきて、手も足も出ずボッコボコです。」
「あぁそれはお気の毒に。」
「ありがとうございます、全くですよホンマに。もうリサセンで作業する気も無くなりました。」
「急に襲いかかってきますからね…はいこれで治りました。どこか送って行きましょうか?」
「良いんですか!?うわ助かるぅ!さっきとある人にタイヤパンクさせられちゃって。そしたらJTSまでお願いしてえぇですか。」
「勿論です、乗ってください。」
ほんの少ししか話した事が無いのになんだかそんな気がしない、気さくで親しみやすい人だ。
「そういえば救急隊じゃなくて個人医に救助要請した理由って聞いても大丈夫ですか?何かやましい事をしていた訳では無いですもんね。」
「ん?個人医さんに治してもらった事無いから、どんなんなんかなぁって。」
「なるほど。私はいつでも呼んで貰って構わないんですけど、一般的には犯罪者が呼ぶ医者みたいです。」
「そうなんすよねぇ。だからいつも救急隊に助けて貰ってるんすけど、1回やってみたくなって。」
「命の危機って時に誰に救助されるか選ぶなんてのもおかしな話なんですけどね。中には高額請求したり犯罪者のみ助ける、なんて個人医もいるかもしれないので気を付けてください。」
「ええぇ怖いな…先生は優しくて良かったぁ。」
サングラス越しに見える目は穏やかに、ホッとしたように笑う。人柄なのか話していると不思議と安心感に包まれていった。
「先生はどこから来たとか、なんでこの街に来たとか聞いてもえぇですか?」
「分からないんです、私はここに来る以前の記憶が無くて。何らかの理由で倒れていて気付いたらこの街にいました。」
「そうなんや…ごめんなさい、変な質問して。」
「いえ全く気にしてないので。むしろこちらがすいません、お気遣いありがとうございます。」
「でもそんな大変な状況でお医者さんやるって、すごいっすねぇ立派や。」
「…いやそんな立派とかでは、医者をやってた事は覚えてたから流れでというか。」
面と向かってこんなにハッキリと褒められるのはあまり慣れてなく、こそばゆい感じがしてつい謙遜してしまう。
「鮫島さんはそういった事お聞きしても?」
「俺は親に身体改造されてナノチップ埋め込まれて、日本で研究対象にされそうになったのを逃げてきたんすよね。」
「それはまた…貴方も中々壮絶な経験をされてるんですね。」
「まぁそのおかげでこの街に来れたしこの身体活かしてミュージシャンできてるし、結果オーライかな。」
「そうやってポジティブに捉えられるのは良いですね、見習いたいです。」
「そんな大層な事じゃないっすよ、ポジティブにしてないとしんどなるから無理やりな時もあるし…先生は本当に記憶無くなったの、全く気にしないでいられてます?俺も普段はなんも考えてないけど時々冷静になると親は何でこんな事したんだろう、実の子供にどうして、って考えてまうんすよね。」
「……それは…」
それはぐち逸も同じで不意に自分の本当の名前、性格、人となりすら分からない事への恐怖感や喪失感に襲われ、何もかもが分からなくなりグチャグチャになった感情に支配される事があった。
「たまに、あります。考えたってどうしたって何にもならないのに、自分の中での正解が分からなくなると言うか。」
「そう、考えたって何にもならないのにそう思えば思う程余計考えちゃって坩堝に嵌って。どうすれば良いのか分からんくなる。」
「感情のコントロールができていないと解釈すると、自身の未熟な部分なのかもしれませんね。」
「あーなるほどなぁ。未熟か、そうなんかもな…なんか湿っぽくなっちゃってごめんなさい。」
「いえ、有意義な時間でした。また今度身体を使ったパフォーマンスも見せてください。」
「そりゃもうぜひ!ありがとうございました、おやすみなさーい!」
車から降りたフラムは笑顔で両手を上げて見送ってくれた。予想外に深い話をしたが似た境遇に親近感を覚え、元気と勇気を貰えて良い気持ちで眠れそうだ。