テラーノベル
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長編ミステリー
警察官の若井さんと大森さん、探偵の藤澤さんが事件の真犯人を暴く物語、開幕。
令和7年10月8日未明
世間を騒がせ続けた連続殺人犯が死体で発見された。
数年にも及ぶ大掛かりな捜査を経て明かされた真実は、あまりにも酷で、醜くも美しい、
1人の人間の「生きた証」であった。
平成30年6月21日_
梅雨空が灰色に沈む中、都内のマンションの一室にて三件目の殺人事件が起きた。
午前5時46分。被害者は某有名企業に勤めている一般女性。
死因は喉をかき切られたことによる失血死。
外部からの侵入の痕跡はなく、部屋中に設置された監視カメラには、犯人は勿論のこと、手がかりすら一切映っていなかった。
「今月でもう二件目か…」
ベテラン警察官の若井滉斗は、なす術のない現状に重苦しい溜息をついた。
「失礼しまーす、…あ!若井さーん!」
関係者以外立ち入り禁止のテープの間をくぐり抜けて部屋に入ってきたのは、今回の事件で依頼を受けた探偵、藤澤涼架。
「藤澤さん、ご無沙汰してます」
「今回もまた“アレ”ですか」
「…そうですね」
今月で発生した二件、それから先月の頭に発生した最初の事件である一件。
被害者に共通点はなく、動機は全くもって不明。
…が、ただ一つだけ、共通点がある。
「若井さん、この言葉の意味わかります…?」
「…さぁ、俺にはさっぱり」
三件の殺人事件の共通点
それは、部屋の壁に血で書かれた奇妙な言葉
『鐘響くは街に、禊のように』というもの。
鐘が響く街とは?禊とは?
犯人は、何を伝えようとしている?
そもそも単独犯なのか?複数犯なのか?
計画的犯行か?何か被害者に恨みを持っているのか?
ぐるぐると散らかった思考の渦に呑まれそうになる。
考えれば考えるほど、果てしなく続く疑問に押し潰されてしまいそうだ。
「…ほんと、頭痛くなるわ」
藤澤は一瞬何かを考えるように視線を揺らがすと、いつものおどけた調子に戻り、奇遇ですね、と呟いた。
「ここに居ても埒あきませんから、ぱっぱと写真撮って署に戻りましょ」
「…ですね」
飲み残しのあるコップ、時間が止まった時計
部屋に残る一つ一つの見えない痕跡を、
犯人への糸口を、見逃さないように
丁寧に一枚一枚写真に収める。
ある程度写真が撮れた頃、そろそろかな、という藤澤の言葉と共に、その場を後にした。
「お、お二人さん」
署に戻り、空腹を満たすために食堂に向かうと、同期であり幼馴染の元貴がいた。
「久しぶり、って言いたいところだけど、この前会ったばっかだね」
「そっすね〜、お疲れ様です、藤澤さん。
顔色悪いっすよ、もしかして寝れてません?」
元貴はこの事件の担当ではないから、そんな軽口が叩けるんだろうな…
くそ、こいつもこの事件の担当になればいいのに…
「ほんと意地悪だよね、元貴くんは。寝れるわけないでしょーが」
「はは、ですよね〜」
元貴は目を細めながら笑うと、俺のほうを見た。
「若井も、久しぶり」
この野郎…
「昨日会ったろ馬鹿」
「あれ、そーだっけ?笑」
けらけら笑う元貴の頭を少し強めに叩いた。
「いった!若井さいてー!!」
「うっせ、こちとら事件で疲れてんだよ」
「…ああ、あの事件ね」
急に真面目な態度になった元貴に、
こいつも変わらないな、と思う。
「…若井はさ、あの事件どういう意味だと思う?」
「意味?」
「そう。なんか伝えたいことがありそうじゃない?…犯人さんは」
「ん〜、伝えたいこと…?」
「難しいこと聞くね、元貴くん」
「藤澤さんは?なんだと思う?」
「う〜ん、…俺は、何かの復讐なんかじゃないかなぁって思ってる」
「ほぉ、なるほど。若井は?」
「…ん〜、俺は誰かに見つけてほしいんじゃないかと思うな」
「どういうこと?」
「…誰か、何かに言いたいことがあるんじゃないかな。もしくは、してほしいことがある、とか……?」
「…へぇ、そうだね、それもあるかもね」
「急になんだよ」
「いや、な〜んか不思議な事件だなぁと思ってね」
死んだ目をして話す所も、変わってねぇな。
〈備考〉
世間知らずとは__
経験が浅く、世の中の事情にうといこと。また、そのような人を指す言葉。
コメント
2件
絵画の歌詞が散りばめられている...!!またもや神作の予感♪(((o(*゚▽゚*)o)))