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「止めてじゃねぇよ。本当はこうされて内心喜んでるくせに」
「喜んでなんて――」
「――おっと、あんま大きな声出さねぇ方が良くねぇ? 今日はもう親父も継母さんも居るんだしさぁ」
「――っ!」
「分かったら声、抑えろよ?」
「ちょ、そう思うならこんなことしないで……」
「やだね。お前が分からねぇから分からせてやるんだろ? 俺は悪くねぇ」
「そんな……」
「されたくねぇなら、今ここで誓えよ。合コンでのことは逐一俺に報告する。一次会終わったらすぐ帰ること。その後俺と過ごすことを」
「…………」
結月に組み敷かれたまま選択を迫られる。
こんな状況下の私に拒否権は無い。
結月の部屋の向い側は両親の寝室だから、このままここで何かされるのは困る。
もはや『イエス』としか答えることが出来ない状況に追い込まれた私は観念して、
「……分かった。言う通りにするから……退いて」
結月の要求を飲むことになってしまった。
「初めからそう言えばいいんだよ。それじゃ、約束守れよな。ほら、さっさと部屋から出てけよ。俺はもう寝るんだから」
私から退いた結月は冷めた表情を浮かべながら私を追いやった。
本当、どこまでも自己中な男。
部屋を出た私がドアの溜め息を吐いていると、
「あら、葵、何やってるの? 結月くんの部屋の前で」
階段を上がってきたお母さんが声を掛けてきた。
「お、お母さん!? いや、ちょっと結月に借りてた雑誌を返しに行ってたの」
「あらそう。そんなことより明日も学校なんだから夜更ししないで早く寝なさいよ」
「う、うん、分かってるよ。おやすみ!」
びっくりした私は慌ててその場を後にして自室へ戻った。
さっき、あのまま結月に身体を触られていたら、危なかった。声が漏れて、聞こえてたかも……。
そう思いながらベッドに倒れ込んだ私は、結月の部屋での出来事を思い返して安堵した。
「……クリスマス……結月と、泊まり……」
彼氏でもない結月とクリスマスの夜を二人きりで過ごすことになるなんて思いもしなかった。
しかも、泊まりでなんて。
「……どうしよう……」
いつもは家で、お母さんや継父さんにバレたらどうしようって考えながら抱かれているから気が気じゃないけど、クリスマスはホテルだから何も考えなくていいんだと思うと気は楽だけど。
「って、そういう問題じゃないよね……。はあ、合コンだって逐一結月に報告しなきゃならないし、面倒だな……」
クリスマスのことを考えるとただただ気が重くなっていく中、私は結月の機嫌を損ねないよう当日までの日々を過ごしていくことに。
そして、クリスマス当日。
「葵も結月くんも、今日は友達の家に泊まるのよね?」
夕方、共に出掛けようとしていた私と結月に今日の予定の確認をして来るお母さん。
「う、うん」
「継母さんは父さんと二人きりのクリスマス、楽しんでよ」
「もう、結月くんったら。二人も、お相手の家にご迷惑にならないようにね」
「うん、分かってるよ。それじゃ、行ってきます」
「行ってきます……」
爽やかな笑顔の結月とは対照的に気乗りしない私の表情は曇ったまま、お母さんに見送られた私たちは家を出た。
駅までの道のりを並んで歩いていく。
「俺は近くの満喫に居るから、きちんと連絡しろよ?」
「……分かってる……」
「つーか、その格好さぁ、俺的には嬉しいけど、合コンに着てくのは面白くねぇんだけど」
「なっ、別に、結月の為に着てる訳じゃないし、これはただ単に気に入ってるだけだもん……」
私の今日の格好は膝より少し上くらいまで長さのある白いニットワンピースに、黒のロングブーツ。
上にはショート丈の黒いダウンを羽織っている。
「スカート、短過ぎ。それじゃあ誘ってるようにしか見えねぇんだけど?」
「そ、そういうつもり、ないよ……。っていうか、このくらい普通だし……」
「とにかく、男に隙は見せるなよ?」
「見せないよ、そんなの……」
彼氏でもないくせにいちいち指摘して来ることにうんざりしつつ、ひたすら駅まで歩いた私たちは共に同じ電車に乗り込んだ。