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GO GO
これはナニの合図なのだろうか。
ちらりとそんなことを頭に過らせつつ俺は寝室に急いだ。
「いっちばーん」
俺は予想が当たっていることを願いながらベッドへと横向き加減で
ダイブした。
「にっばーん」
そこへ上から重なるように桃がダイブして最終的に俺の身体の上から
ずり落ちて横に横たわる格好になった。
俺たちの視線が絡まる。
そして桃が誘うように目を閉じた。
俺はそっと桃の唇に口づけを落とした。
そうして俺たちは甘いキスを堪能し終えた頃、互いの服を脱ぎ4年振りの
抱擁と愛撫を交わし、飢え乾いていた肌と心に潤いを注いだのだった。
もう叶うことなどないと思っていた行為に泣きそうになる。
そんな俺に桃が抱きついてきて甘く囁く。
「俊ちゃん、ありがとう。私を奥さんにしてくれて。
俊ちゃんってモテモテだったから、選んでもらえるか、ずっと心配だった。
プロポーズしてもらった時はすごくうれしかったな」
そんな可愛い桃の台詞に感極まり俊は泣いてしまう。
「どうしたの、泣いたりして」
「桃がそんな可愛いことを言うからさ……って言いたいけど、今、目に
ゴミが入ってチクってしたんだ。桃、こちらこそありがとうだよ。
俺って桃にそんなに愛されてたんだ」
「まさか、知らなかったとか?」
「知ってたけど、それほどとは……知らなかったカナ」
桃が自分を憎んでいた頃の記憶が戻るまでの、期間限定の儚い幸せだと
分かってはいるが、俊は桃に愛されていた時間、愛されている今この時を
想い、うれしくてうれしくて涙が止まらなかった。
ごまかす為に桃を抱き寄せて彼女の首筋に顔を埋め、泣き顔を隠した。
「俺は付き合ってた時から今までずっと桃一筋だから」
以前の桃が聞いたら絶対信じてくれなさそうな愛の言葉を伝える。
「きゃぁ~、あの頃の不安だった自分に教えてやりたいわぁ~。
俊にめちゃくちゃ愛されてるよって、私、俊ちゃんの一番なんだよって」
身体がきしんで痛くなるまで二人はひとつになりたいと、いつまでも
抱き合い、大切な愛溢れる時間を過ごした。
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今回の桃の記憶障害の原因がストレスからなのか、はたまた薬の服用のせいなのか、
本人が記憶をなくしてしまっていて分からないことだらけ。
風邪薬に至っては常備している市販のもので、いつも喉に痛みをチクっと
感じたら即飲みして治していた。
そして今回も記憶をなくしたあとすっかり風邪の虫が去っていたため、
両親どころか、本人さえも自分が風邪薬を飲んでいたことなど知らなかった。
ただ、その後、様子見していたものの一週間が過ぎても記憶が戻らないことから
桃は病院に行くことにし、近所にある心療内科へと足を運んだ。
結果は外的要因も見当たらないため、焦らずに普通の生活を続ける中で
何かを切欠に記憶が戻るかもしれないので気長に様子見しましょうと言われて
終わり、桃は拍子抜けした。
だが、こういうのは薬や手術ですぐにどうのこうのと、即効性を求めるものでも
ないこともよく分かっていた。
ここのところ、直近の4年間の記憶が抜け落ちていとはいえ、伴侶のことも
子供のことも、そして両親のことも認識できているし、奈々子を産んで数か月の頃
までのことはちゃんと覚えている。
すべてを忘れているわけじゃなし、家族の顔が分からないわけじゃなし、
気に病む必要はないのよと桃は自分を鼓舞する。
そうこうしつつ、愛すべき娘と夫との生活が穏やかに過ぎていった。
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半月が過ぎた頃、桃は右脚の付け根付近に違和感を感じるようになる。
変な病気だったらどうしよう。
でもこういうのって意外とストレッチなんかが効用あったりするのよね。
自彊術という健康体操で小学館などからも出ているし、
もっと古くからは保険組合などから出されている『いきいきストレッチング』のような
ストレッチに関する書籍は多数あるので、それなりにそういった類の本は需要があり
人気があるのだろう。
◆(留意事項―時代が2000年代以前のことで、現在のように簡単に
Youtubeなどを利用できる時代ではないことが前提になります)
骨折や流血するような怪我でもなく、ただ痛みを伴うというような症状の見受けられる
病理って、痛み止めを飲み一時的に痛みを止めたりすることと、あとは冷やしてみたり
温めてみたりして様子を見る、またはストレッチのように動かすことで病気に寄り添うしか
ないのかもしれない。
そしてそれでも痛みが生活を圧迫するほどのものになった時、手術する道を
選択しなければならないのかもしれない。
記憶を一部なくした後、幸いにも一時的に痛みを感じずにいられたのだが、
痛みの再発した桃はあーでもないこーでもないと、自分の痛みについて
いろいろと頭を悩まして数日間を過ごした。
本を購入してストレッチしたり、痛み止めの湿布を貼ってみたり。
性急に結果が出るようなものでもないのかもしれないがあまり芳しい結果が
出なかったため、一度専門の医師に診てもらって、どのような病気なのか診断を
あおがなければと思い、桃は整形外科の病院に駆け込んだ。
この時は母親に車で連れて行ってもらった。
全く歩けなくなってしまったからだ。