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◇桃の病気
娘を幼稚園まで送り届けたその足で、近所にある整形外科クリニックへ
連れていってもらった。
衣類の上からレントゲンを撮り、痛み止めと湿布薬を渡されて帰ってきた。
初めての整形外科での受診だったため、あれが良い医師の処置であったのか、
言葉かけだったのか、頭を捻るしかなかったのだが……。
ほとんど説明らしい説明もなく、いきなり『手術するかー』の一言だった。
リハビリルームも院内にあったけれど、リハビリの[リ]の字も出なかった。
その代わりというか、いくつかのストレッチの図の書かれた用紙を手渡された。
私の疑問は『手術、どこのなんだ? 大腿骨あたりなのか?』
思ったが訊かなかった。
痛み止めが嘘のようにどっさり。
毎日律儀に飲んでたら薬の影響で死ねそうなレベルだった。
痛み止めの服用に関しては、死にそうなレベルまでは我慢して
ストレッチをして凌ぐことに決めた。
しばらくの間、家事ができない状態が続いたが、母や俊、そして奈々子にも
お手伝いしてもらい、私は日々を過ごした。
土、日になると、動いてこなす家事は夫がほとんどやってくれて
感謝しかない。
そしてそのうちに嘘みたいだが、全く動けないという状態からは
脱却できたのだった。
それほど熱心にストレッチもやってはいなかったのだが。
病気の進行状況というか、症状の出方は一進一退だった。
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奈々子の幼稚園の送迎は、母が頑張ってくれている。
調子のいい日にはゆっくりとだけど慎重に歩いて休み休み食事の下ごしらえをしたり、
洗濯機を回したり、とにかく脚の調子を見て日々の生活を焦らず脚になるべく
負担を掛けないようにしてマイペースで過ごすことを心掛けるようにした。
そんな生活にも少しずつ慣れ一か月が過ぎた頃、私は再度、整形外科を
訪れた。
本当にここの医院の先生には呆れる。
看護師に案内された部屋には先生の椅子と患者の椅子とがあり、朝一で
受診する私が先生を待つこと5~6分。
カーテンを開けて先生が奥の部屋から診察室へ入室。
『宜しくお願いします』と挨拶した私に無言の間。
『この人何も言わず、無言で診察にもなってない診察という名目だけで
診療報酬の点数をもぎ取ってこの時間を終わらせるつもりなのか?』
焦れた私は訊いても訊かなくてもすでにどうでもよい境地ではあったが、
社交辞令として「まだ痛みを感じる時もあるのですが、どうすれば……」
と話し掛けた。
「痛みの元の股関節を手術しないと治らないからね。
しないのなら、痛み止めと湿布薬出しておくから」
『いえ、痛み止めは腐るほどあるのでいらないから』
そう言いたかったがそれを許さない雰囲気があったため、私はこの言葉を
飲み込み、処方された薬を近くの調剤薬局で受け取り母の運転する車で
帰った。
医師免許と医院を開業しているからといって、あんなので診察したことにして
点数をつけて収益にするんだ。
患者に対するやさしさなど、微塵も窺えず……最低~!
あんな全く患者の気持ちに1mmも寄り添えない医師など必要ないよっ。
この日、次に掛かる病院は別のところにしようと決意した。
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その後一か月、脚の状態は一進一退ではあるが歩けないという状況からは
抜け出せたみたいで、長い距離を歩くことは無理だったが家の中を歩いて
家事をする分には慣れも手伝ってか十分で、脚も気持ちも落ち着くことが
できた。
そして本当にたまたまなのだがマンションのロビーで顔見知りの仕事帰りの
近所の人に会い、久しぶりなこともあり立ち話をした時のこと。
脚の話をすると、なんとその人の妹が同じような病気だと聞く。
それで妹さんが通っている医院を教えてもらって
私は行ってみることにした。
私が通っていた医院よりは少し遠方だったけれど、先生がやさしい人で
説明や指導が丁寧だと聞く。
行かない手はない、よね。
私は母親に頼んでまたまた整形外科を訪れた。
脚回りが痛かったのでてっきり股関節が原因かと思っていたら痛みの原因は
他にあると説明を受け『心配しなくても、たぶん治癒しますよ』と
言ってもらえた。
ほんとに最初に掛かった医師の手術しないと治らない発言はなんだったのだろうと
怒りを覚えたけれど、終わりよければ全てよし……だよね。
今は直すことだけを考えて、食生活などにも気をつけ、脚や背中、首筋などの
調子を見ながらストレッチやマッサージで筋肉をほぐし、適切な枕選びで
寝姿勢を整えたりと効果的な改善を図りながら、丁寧な日々を一歩一歩
重ねていこうと思う。
新しい病院で安心できる説明を受けるまでの、手術しないと治らないと
言われていた期間、不安で胸が押しつぶされそうだった私を精神的にも
物理的にも支えてくれたのは俊ちゃんだった。
家のことや奈々子のこと、随分フォローしてもらってる。
立ったり座ったりがキツイので風呂掃除やトイレ掃除も、しゃがまないと
できない部分は率先してやってくれるのですごく助かる。
私もできないできないって、甘えるだけじゃなくて道具を上手く利用して
できる範囲のことは頑張ってる……けど、フォローが全くないのと、
かなりフォローしてもらえるのとでは、精神的物理的負担がぜんぜん
違うから、有難い。