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「ほら、なんとか開けたぞ」


ヒースクリフの声と同時に、堅牢なシャッターがギィィと軋みを上げて持ち上がっていく。 ここは、危険物が積まれていたとされるトラックの荷台。いつ爆発するかわからない時限爆弾のような場所に、大人たちの一行が慎重に集まっていた。


何重にも施されたロックに手こずりながらも、ようやくこじ開けられたその先。漂う緊張の中、ついに中身が明らかになろうとしていた。


“さて、どうなってるかな”


静かに先生が呟く。


シャッターが最後まで上がりきった瞬間、冷たい風が吹き抜ける。だがその視線の先にあったのは――。


「……何もないですね」


「ちょっと? 空っぽじゃない!」


思わず誰もが拍子抜けしたような声を漏らす。


確かに、開かれた先には闇が広がっているだけだった。見渡しても荷物らしいものは見当たらず、ただぽっかりと空いた空間だけがそこにあった。


“……まあ、入ってみようか”


先生がそう言って、最初に足を踏み入れる。 続いて、仲間たちが一人、また一人と暗い荷台の中へと進み込んでいく。


「まだ暗いですね。誰か、懐中電灯とか持ってませんか?」


その声に応えるように、先生が手にしていたタブレットを素早く操作する。ほどなくして、端末の先端が白く光を灯し、即席のフラッシュライトとなって闇を照らし出した。


“はい、これで見える?”


「ありがとうございます」


タブレットの光が照らす先、床はセリカが乗せられていたトラックと同じような、重厚な金属製だった。壁もまた同じ構造で、機密性を意識した造りがうかがえる。 光の筋がその奥をなぞるうちに、何かが視界に引っかかった。


「おっ、なにかありそうだよ?」


コンテナの一番奥。そこには、ひときわ存在感のある段ボール箱がひとつ置かれていた。 目を凝らしてみると、人ひとりがすっぽり入るほどの大きさで、周囲には何重にも粘着テープが巻き付けられている。明らかに“普通ではない”梱包だった。


「アレが例の危険なモノか?」


“そうなるだろうね”


タブレットを持ちながら先生は肯定した。タブレットの画面には反応ありと表示されている。


「それじゃっ、私が運ぼうか?」


「あんまり刺激しないように、気をつけてくださいね?」


ここでロージャが率先して運搬を担うと提案した。仲間たちも特に不満はなく、そのままの流れで、彼女が繰り出されることになった。


「よっ……待って、思ったよりも重くない!?」


“はは……私が手伝おうか?”


どうやら箱が思っていたよりも重かったらしく、苦戦している様子だった。先生が手伝ってあげようと声を出したが、彼女が突然ぴたりと止まった。


「ロージャさん?そんな急に止まって……」


「ねぇ、これカチカチ鳴ってない?」


そう言って振り向いたロージャの顔はどこか青ざめていた。


「カチカチって……」


ヒースクリフが低く呟いた声がより一層空気を重たくする。全員の意識が再びロージャが必死に持ち上げようとしている箱へ集中する。


“うーん、時限爆弾かな?”


「だったら危なくねぇか?」


時限爆弾だと聞いてヒースクリフが、危機感を覚える。しかしその感情は、イシュメールの発言によって長く続きはしなかった。


「仮にそれが本当に時限爆弾だとして……。誰かに運ばせる前提で作られているなら、わざわざ時間ギリギリに設定する理由がありません。運搬中に爆発する可能性があるものを、わざわざ二重の装甲に載せて送るでしょうか?」


「ああ?そっか」


拍子抜けしたヒースクリフの声が響いた。とりあえず言えることは、今すぐに先生達に身の危険が迫ることはないだろうといことだ。


「だけど、先生がガチで危ないって言ってたから、ここで解除しないといけなくない?」


「まあ、そうですね」


イシュメールは一歩前に出ると、慎重に箱の側面へと手を伸ばし、貼り付けられた封印テープ の下に隠された端末らしきものを指先でなぞった。


「ここで開封しますか?」


“うーん……”


状況は切迫しているというのに、先生は珍しく言葉を濁した。いつものような明快な判断は、そこにはなかった。


“いや……従来の方法で、これを本当に解除できるのか……?”


それは、ただの躊躇ではない。 目の前の箱には、キヴォトスで培われた常識が通じない気配があっ た。


「ロージャさん、EOD爆発処理出来ますか?」


「EOD?うーん……アレがないと……」


危険物の処理について、終わらない議論が繰り広げられている中、先生は再びタブレットを取り出す。


“アロナ、爆弾処理ってできる?”


タブレットの画面が一瞬揺れたかと思うと、ホログラムのアロナがふわりと浮かび上がる。目をぱちくりと瞬かせ、少し考え込んだような表情を浮かべた。


「爆発物の制御プロトコル……えっと、検索中です……。――ありました!先生、処理は可能ですが……内部の物体の正体がどうしても特定できません!」


“なるほど、続けて”


先生はアロナの話を流し聞きながら、その箱へと近づく。


“箱に付属されているこの端末……これがジャミングしている原因かも?”


それは先程イシュメールが触っていた端末。端末の画面には『SealJam現在稼働中』と書かれている。


“これって……”


「えーっと……『SealJam』……?検索結果に一致する正式な規格や製品情報は見つかりませんでした。つまり――おそらく、どこかの企業が秘密裏に開発・使用していた非公開の技術ーー」


ドシャァァン!


アロナが言い切る直前、その端末が突然ヒースクリフによって叩き壊されたのだ。


“ヒ、ヒースクリフ!?”


「あん?こっちの方が手間がかからないだろ?」


バットの先に砕けた破片をくっつけたまま、肩に担ぎ上げて得意げに言うヒースクリフ。

「……壊されてしまいましたね。でもなるほど、粘着テープと端末は連動していたようです。封印の機能が失われ、同時に内部の物体も特定可能になりました」


“よし、もう一度スキャンお願い。こっちは開封を始めるから”


先生がそう言うと、ロージャが斧を手に取って粘着テープを容赦なく切り裂き始めた。幾重にも重ねられたテープの層は次々と剥がれ落ち、ついに残り一層となる。


「よし、これで最後!」


意気揚々とロージャが最後の層に刃を入れた、その瞬間――。


「って、うわああっ!?」


バランスを崩したのか、箱の中から何かが勢いよく飛び出してきて、ロージャを直撃。彼女はそのまま床に倒れ込んだ。


“ロージャ!?”


「い、いたた……私は大丈夫。でもこれ、上に乗ってるの何?」


彼女の問いに、全員の視線が自然とその“何か”に向けられる。


「お、おい……これって……」


「え、えぇ……間違いないですね……」


“えっ?ちょ、どうしたの皆……?”


先生だけがその場の空気についていけずにいると、ヒースクリフがぽつりと口にした。


「時計ヅラじゃねぇか……!」


“と、時計ヅラ……?”


そう呼ばれた存在は、赤いロングコートを羽織り、頭部の代わりに赤い懐中時計のような装置が嵌め込まれていた。そして後頭部──いや、時計の裏側からは、何故か黒煙と金色の炎がぼうっと立ち上っている。 その異様な姿は、どこかキヴォトスに存在するロボット型住人を彷彿とさせるものだった。


「えぇ!? ダンテがいるの!?」


ロージャが驚いたように声を上げ、時計の頭を持つ人物の名を呼んだ。しかしその“ダンテ”と呼ばれた存在は、微動だにしなかった。


「……気絶してますね」


イシュメールが慎重に様子を見ながらそう判断する。


“えぇっと、知り合い……なの?”


「おう、オレらの管理人だが」


先生の問いに、ヒースクリフが勢いよく応えた。


“管理人?前いた場所の上司だったの?”


「まあ今もそうですけどね……はい」


今度はイシュメールがそう返事した。


「っと、うーん……どうしよっか? ここで起こしてみる?」


下敷きにされていたロージャが、ダンテをそっと横へ転がして立ち上がりながら、少し困ったように言う。そのやり取りを先生は少し離れた場所でぼんやりと眺めていたが、ふと何かを思い出したようにタブレットを手に取り、アロナを呼び出す。


“アロナ、ちょっといい? どうやらこれはあの子たちの知り合いっぽいけど……君の捜査結果は?”


「はい、先生……えっと、確かにこの個体は、先ほど観測された未登録エネルギーパターンの発生源と一致しています」


しかし、アロナの声はどこか歯切れが悪かった。


「……ただ、そのエネルギーを至近距離で受けたにも関わらず、外部に異常反応や障害の兆候が見られないのが……正直、ちょっとおかしいです」


“それだけの影響を受けたなら、普通は……時計が……いや、違うか”


「んじゃあ、今すぐ起こした方がいいだろ?」


「起こすって……まさか」


カキン!


直後、金属を打つ甲高い音が鳴り響いた。ヒースクリフのバットが、ダンテの“時計”に軽く命中していたのだ。 そして……。


ボォォォォォォン!?


“うわぁっ!? 今度は何だ!?”


突如、ダンテが立ち上がった。 殴打の衝撃に反応するように、甲高く響く汽笛のような音を鳴らし、びくんと全身を震わせる。まるで寝ぼけた人間が叩き起こされたかのように、素早く手を床についた。片膝を立て、もう一方の腕で体を支えながら、滑らかな動きで立ち上がる。 その仕草には機械的なぎこちなさはなく、目覚めたばかりの“誰か”のような人間らしさがあった。


ゆっくりと周囲を見回したダンテは、自身の頭部――先ほど殴られた箇所に手を添え、次いでヒースクリフの方を見やる。

そして、ぐわんと空気を震わせるような音が再び響いた。


〈ボォォォォォォン!?〉


その音は、先ほどよりも低く、そしてどこか怒気を帯びていた。


「お前がさっきので起きなかったからだろ!?」


ダンテの“声”に対するかのように、ヒースクリフが逆ギレ気味に怒鳴る。


……ん?今のって、会話……してるのか?


先生が困惑する中、再び音が鳴る。


〈カチカチカチカチ……〉


「いやぁ〜、でもよかったよ。ダンテをここで見つけられて〜」


今度は、呆れたように時間を刻む音を鳴らすダンテ。それに対してロージャが、当然のように会話を続けた。


えっ……?待って、もしかして……私だけ聞こえてない?


仲間外れにされたような妙な疎外感が、先生のお腹をきゅっと締めつけた。


〈カチカチカチカチ〉


“えっ!?”


不意にダンテが、まっすぐこちらを指差した。 突然話題を振られた先生は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「ああ、あの人は……こちらの世界で“先生”と呼ばれている人です」


イシュメールがそう説明すると、ダンテは再び先生の方へと視線を向け、その姿をじっと見つめた。 頭の懐中時計がカチカチとリズムを刻む中、彼はしばらく何かを確かめるように沈黙し――


やがて、何かに納得したように小さく頷くと、無言のまま片手を差し出した。 それはまるで、握手を求めるような自然な仕草だった。


〈カチカチカチカチ〉


……これは、「よろしく」って意味、なのかも?


そう理解した先生は、そっと手を差し出す。 そして、懐中時計の男と静かに――その手を握り合った。


“よろしくね、ダンテ”


ピロ!


何だかいい感じにまとまりつつあったその空気を、唐突な電子音が引き裂いた。


“あっ、私のか”


先生は慌ててタブレットを取り出し、画面を点ける。するとそこには――


「先生!ヘルメット団が攻撃を開始しました!こちら5人で応戦中です!」


切羽詰まったアヤネの声が響いた。

どうやら、外ではちょうど今、ヘルメット団との交戦が始まったらしい。


“分かった。こっちも例の物を回収できたから、そっちへ向かうよ!”


そう返してタブレットの電源を切ると、すぐに仲間へと視線を向ける。


「おっ?やっとおっ始めるのか?」


“うん、みんな!助けに行くよ……あと、ダンテもね?”


〈カチカチカチカチ〉


「ついていくよって言ってます」


こうして先生一行にダンテも加わり、ついに戦場へと向かおうとした――その時。


ドオオオオオオオン!


突如として、頭上から強烈な衝撃が降ってきた。


「まずい!逃げーー」


いち早く異変に気づいたロージャが、先生たちを押しのけながら叫ぶ。だが、その警告は爆発音にかき消された。


「ちっ!早くずらかるぞ!」


一同は爆風と火花が吹き上がるトラックの内部から飛び出す。背後で何かが爆ぜる音に背中を押されるように、床を蹴って駆け出した。


ようやく安全圏に逃れた――そう思えたその瞬間だった。


ドオオオオオオオン!


第二の衝撃が、上空から地を叩きつけるように炸裂する。赤熱したミサイルが着弾し、トラックは火柱ごと呑み込まれた。


爆風は外にいた先生たちにも容赦なく襲いかかり、身体を横に弾き飛ばす。


コンクリートの破片、焼けついた空気、土煙。


耳鳴りの中、先生は地面に転がりながら、思わず叫ぶ。


“……っ、みんな無事!?”


砂と煙が宙を舞いまくる砂漠の中。視界を確保できず、辺りを見回すことのしかできない。


「先生!」


そんな中、誰かが先生の名を叫ぶ声が耳に届く。直後、荒れた地面を蹴る足音がこちらへ向かってくる。


“ホシノ……?”


その声は若く、切迫していた。間違いなく、ホシノのものだ。


「急に先生がいたあたりが爆発して……! みんなは無事なの!?」


“いや、分からない……”


答えながらも、先生の胸の奥に重いものが引っかかっていた。


――言うべきだろうか?


爆発に巻き込まれたあのトラックには、ロージャが最後まで残っていた。彼女の体は頑丈ではない。銃撃ひとつで命が危うくなることもあるほどだ。ましてあの衝撃では……。


喉の奥が詰まり、言葉が出ない。


“いや、何とかみんな逃れた……と思う”


先生は生徒たちの心に深く傷をつけないよう、何とか取り繕う。


「そう……」


その言葉に隠された意図が分かってしまったのか、ホシノは暗い顔をしてそっと返した。


「おい、生きてるか!?」


「はい、なんとか……!」


あの衝撃から逃れていたヒースクリフとイシュメールが遠くで叫んでいた。特にこれといった重症はくらっていないらしい。


「ダンテ……!巻き戻せますか?」


〈カチカチカチカチカチカチカチカチ〉


「何ですかそれ、聞いてないですよ!?」


何やらイシュメールとダンテが会話しているようだが……相変わらず、先生には、大事な部分が聞こえてこない。


混沌に包まれる中、何か大きいものが接近してくる物音が砂塵が舞う何処から鳴り出す。


「まずいっ!もう来た!」


ホシノが叫び、感覚に任せて彼女の愛銃であるショットガンが火を噴く。銃声が砂塵を割き、わずかの間、視界が開けた。見えたのは、こちらへ向かってくる戦車だった。


「ほらっ!さっさと立って!巻き添えにされちゃうよ!」


“あっ、うん!”


先生はホシノが差し出した手を掴み、よろめきながらも立ち上がる。


〈カチカチカチカチカチカチカチカチ〉


その瞬間、さっきよりも速く、激しく刻まれる時間の音が耳に届いた。そして……次の刹那。


「ふっ!」


“イシュメール!?”


「待って、それはーー」


ドォォォォォォォォン!

イシュメールが突然先生たちに体当たりし、押し飛ばす。その直後、視界が白く染まり、耳をつんざく爆発音が空間を裂いた。


まさに、あの時と同じ――いや、それ以上の閃光と衝撃だった。


何度も揺れる地面に尻をつくホシノと先生。


「待って、イシュメール先生 は……」


何か悟った、いや悟ってしまったホシノの呟きが聞こえた。その言葉にはっとした先生は、爆発した地点に目を向ける。


ーーそこにイシュメールの影はなかった。


ドドドドドツ!

そのとき、どこかで何かが立て続けに発射されるような轟音が響いた。


「ん!先生、ホシノ先輩!」


砂嵐をかき分けて、シロコが先生たちのもとへと駆け寄ってくる。その背後には、彼女のドローンがプロペラの音を鳴らしながら浮かんでいた。


砂煙の中から、再び足音が近づいてくる。


「……ったく!砂だらけだ……ああもう、耳に入る!」


文句を言いながらも、ヒースクリフが現れる。服は所々焼け焦げていたが、足取りはしっかりしていた。


「無事だったんだ……!」


“ああ、よかった……”


先生とシロコが安堵の表情を浮かべた。しかしーー。


〈カチカチカチカチ……〉


ヒースクリフの後にダンテが追っていたのだ。


「……!?」


その光景を見たホシノは突然、目を見開いて敵意を向けたのだ。


“ホ、ホシノ?”


突然様子が変わってしまった彼女を見て、先生は何があったのか問いかけたが……ホシノは反応しない。


――ゴゴゴゴゴ……


不意に地鳴りのような音が響き始める。砂の奥から、再び現れる戦車の影。今度は確実に、こちらへ照準を向けてきていた。


「ちっ、まだ来るってのかよ……!」


シロコのドローンが戦車へ向き、ミサイルの発射の準備をする……が、間に合わない。


「先生、後ろに!」


シロコが叫ぶと同時に、戦車の砲口が閃光を放った。 発射音と共に、空気が裂ける。


瞬間――。


〈カカカカカカッ!〉


「くそっ時計ヅラ……どうなっても知らねぇぞ!おい先生、立ってろよ……!」


ヒースクリフが身体を投げ出すようにして、先生の前へ飛び込む。


ドゴォォォン!


炸裂音と共に土煙が巻き上がり、周囲は一瞬、何も見えなくなる。


“ヒースクリフ……!?”


衝撃に耐え、やっと晴れ始めた視界の先には――砲口が大破した戦車。そしてその傍らには、無残にひしゃげたバットが転がっていた。


「うそ……ヒースクリフ……?」


揺れる瞳。絶望のにじんだ声で、シロコが名を呼ぶ。だが、それに応える声はもうなかった。


気がつけば、あれほど激しかった爆発音も、いつの間にか静まっていた。戦車の沈黙が、戦闘の終結を物語っている。


――だが、それと引き換えに失ったものは、あまりに大きかった。


「せん、せい……」


“……”


「これって……夢、だよね……?」


先生がゆっくりと横へ振り向くと、項垂れるシロコがいた。表情はよく見えなかったが、その影から涙が流れていくのが見える。受け入れ難い現実を受け、悲願となる。彼女は 膝をつき、大粒の雫を落としながら、呆然と呟く。


ヒースクリフ。イシュメール。ロージャ。 戦いの果てに、彼らはもうこの場にはいない。 残酷すぎる現実は、否応なしに理解できてしまう。


「どうして……どうして、どうしてぇぇ……っ!!」


誰よりも激しく泣き喚いていた彼女は、ついに崩れ落ちるように地面に身を伏せ、誰もいない虚空に向かって、声が枯れるほどに叫び続けた。


「私が……助けてあげられなかったから?私が……?」


その悲願は遂には自責となる。彼女は、砂を掴む手をより一層強く握った。


「……やっぱりあいつのせいだ……」


“……ホシノ?”


不穏な発言に思わずその場所へ視線を向けた先生。その先には、より一層煌めかせ、より鋭くなった両目が虚空を見ていた。


「あの野郎……先生達を殺して……」


そのどす黒いほど融合した様々な負の感情が宿る目が、砂、バット、シロコ、戦車……ダンテへ辿り着く。


ダンテは微動だにせず、ただ凄惨な出来事があった場所をずっと眺めていた。


「……このっ……大人がぁ!!」


突然ホシノが、溜まった憤怒を爆発させ、ダンテの元へ素早く近づき、愛銃のストックでダンテを殴り倒した。


〈ボォォォォォォン!?〉


殴られたことに、困惑したのか、懐中時計の頭から汽笛が鳴り響く。


「お前がっ!ヒースクリフ君を……イシュメール先生を……!遂に……殺しやがったな!?」


彼女は暴れる時計の胸ぐらを掴み地面に押し倒す。さらに愛銃の銃口を頭へ押し付け、いつでも殺せると言わんばかりの姿勢を取ったのだ。


「本当に大人ってやつは、いつも自分勝手だ……!助けるだの、守るだのほざいて……

勝手に死んで……全く私たちのことを考えて……!」


ダンテを睨みつけ、涙混じりの憤怒をぶつける。


まずい、そろそろ一線を越えそうだ。


まずいと確信し、先生がホシノへ近づきホシノを制止させようとした。


“やめるんだホシノ。あなたまで抑えられなくなったら……!”


「黙ってて先生……こいつは……やっちゃいけないことをしでかしたから……」


しかし、少女はもう、引き返せる境界線の手前まで来ていた。 拳を震わせ、銃を握るその手には、もうかつての冷静さは残っていない。


「私は……絶対に許さない。あんたみたいな大人も、ゲマトリアも……私たちを陥れた奴らも……!」


その怒声と共に、指に引き金がかかる直前まで迫っていた。そのときーー。






カチッ。


「ホシノ!」


「うるさいな……黙っ……えっ?」


ホシノの肩を掴みもう一人の手があった。傷だらけの褐色肌の男の手だった。


間違いなく、その手の正体は死んだはずのヒースクリフだ。


「嘘っ……なんで……目の前で……」


彼女のダンテの襟を掴む手の力が抜け、緩くなっていく。今目の前で起こっていることに理解が追いつかないからだ。


「その……なんだ?お前が掴んでる時計ヅラがやったことだ」


説明が難しかったようで、簡潔に、だがあまりにもぶっきらぼうに、ダンテがやったと話す彼。


「えっと……先生?大丈夫ですか?」


“イシュメール?”


突然、肩を掴まれ思わず振り返った先生は、自分の目を疑った。彼の眼前には、ヒースクリフと同じく庇って命を落としたはずのイシュメールが外傷もなく立っていたのだ。


“は……?え……何が起こっているんだ?”


「まぁ、無理もないですね。誰も夢に思ってない事ですから」


ヒースクリフと同様、淡々と話すイシュメールはどこか現実味を帯びなかった。


「……」


「はは……この子、私の腕の中で丸まって動かなくなっちゃってけど……」


今度は、下敷きになったはずのロージャがなんともないように、丸くなってしまったシロコを抱えながら歩いてきた。


「……先生。私たちがおかしいのかな……?」


“……はは。もうどっちがおかしいか、分からなくなっちゃったよ……”


もう何が起きてるか明確にできなかった先生とホシノは、もう笑うしかできなかった。


「皆さーん!何だか音沙汰が無くて来てみましたけど……えぇ!?」


いつの間にか舞っていた砂塵が消え去り、残っていたアビドスの生徒達がこちらへ向かってくる。


「あらっ?一体何が起こったのですか?ホシノ先輩とシロコちゃんが泣いてて……」


「ちょっ!?何コレ!?何が起きたの!?てか、誰なのよあんた!?」


今までの経緯を知らない3人にとって、ホシノ達が泣いていて、知らない人?が突っ立っている状況は明らかに異変だと察知した。


〈カカカカカカッ〉


「ふむ……後で話すって言ってますが……」


“うーん、私も同感かな……なんか急に疲れが……”


「意味が分からないわ……」


……こうして、セリカ救出(兼ダンテ救出?)作戦は……まぁ無事に終わり、気まずい空気の中、アビドスへ戻る事になったのだ。

Limbus company × Blue archive クロスオーバー小説

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コメント

4

ユーザー

ダンテが合流したってことはここから蘇生&人格&E.G.O解禁かな?やったねヒース!これで自己紹介の時にナメられまくった鬱憤を晴らせるね! 尚蘇生する度に生徒達は曇りに曇りまくる模様

ユーザー

な、長い!よくこんなに長く書けますね。私は途中で何を書くか忘れて書けないから羨ましい…すいませんが今回の話から見たので解りませんがイシュメール…どっかで聞いたことが有るような? 取り敢えずこれからも製作を頑張って下さい!

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