テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「可愛さ余って」
🧣→←🌵 両片思い
※このお話はnmmnです。読まれる際は界隈ルールを厳守の上、外部持ち出しや無断転載は厳禁です。
ぐちつぼは久しぶりにらっだぁとご飯を食べに来ていた。らっだぁ行きつけの定食屋で、らっだぁおすすめメニューをそれぞれ注文した。
二人だけで外出するのはいつ以来だろうか。ぐちつぼが誘えばらっだぁは絶対来てくれるのに、連絡をためらってしまうのはらっだぁにどう思われているのかが怖いからだった。
意を決して誕生日にプレゼントしたおそろいのマフラーをいつも巻いてくれる理由もぐちつぼにはわからない。しかし「嫌われてはいないのだろう」は、裏返したところで「好き」とは確定できない。今日も一緒にいられる幸せだけを噛み締めて、ぐちつぼはぼんやりと定食の白米を口に運んだ。
「なに、なんか考え事?」
「なんでもないよ」
よほど上の空だったのだろう、じっと顔を覗き込まれていることに気づいて首を振る。義務のように茶碗の中身を空にしようとしていると、その間もずっとらっだぁが顔を見ていた。
「……なんだよ」
「いや、食べ方面白いなと思って」
「ハァ?」
「だってほら、ほっぺにご飯ついてる」
子供ならまだしも、指摘されて一気に顔が熱くなった。慌てて顔に触れるぐちつぼを制するように、らっだぁの白い指が伸ばされる。
「ら、らっだ……ぁ?」
思考が目まぐるしく脳内をかき回す。指が近づくにつれて胸がはち切れんばかりに高鳴って、
「イテテテッ、なんだよ?!」
予想は大ハズレ、らっだぁの指はぐちつぼの頬を軽くつねった。
「ははは、顔おもろ」
「なんでだよ?!取ってくれんのかと思ったのに!」
ドキドキしてしまったのが恥ずかしくて、ぐちつぼは大声を出して頬をさする。
「残念だったね、もっと下、顎の方だよ」
「あぁ……?んだよ、このへん?」
「反対反対、左側」
「あ゛ぁ?!左って言っても人それぞれの主観だろ、どっちから見てだよ」
「ん?俺から」
「なんでらっだぁからなんだよ!」
らっだぁに言われるままに手で顔を探って、やっと米粒をつまみ上げた。ホッとしているぐちつぼを見てらっだぁは顔を押さえて明後日の方向を向いている。それから向き直って、おもむろにぐちつぼの髪の毛をワシャワシャ撫でた。
「良かったね~お弁当取れたね」
「や、やめろよッ、髪!!セットしてきたのに!」
「ごめんごめん、……く、ふふふっ」
手櫛で必死に髪を直しているぐちつぼを見てまだらっだぁは喉の奥で笑っている。らっだぁに会うからとせっかく整えてきた髪をかき乱され、しかしぐちゃぐちゃにしてきたのは当のらっだぁで、ぐちつぼはこの憤りをどこにぶつけたらいいのかわからなくなってしまった。
「……俺のこと嫌いなのかよ」
「え?なんて?」
「なんでもないよ、本当に育ちがいいな」
「でしょ?」
「褒めてねぇんだよ」
言いたいことはいくらでもあった。しかしどうしようもなく好きだからこそ、ぐちつぼはらっだぁに何をされても結局許してしまうのだった。
*
きっと嫌われてはいない。しかし「嫌われてはいない」の向こう側がどうしても見えてこない。
ぐちつぼは意を決してらっだぁを遊びに誘ってみることにした。場所はデートスポットの定番、水族館。告白すらしていないのでデートですらないが、らっだぁが本当は自分をどう思っているのか、それを少しでも見通すことができればと思っていた。
「久しぶりだわ、水族館なんて」
「確かに、俺もいつ以来だったかな」
照明を落とした館内を、青い水槽から溢れる光が照らしている。プロジェクターで映し出されたゆらゆら揺れる波の中、二人で並んで歩くのは夢のようだった。
「誘ってくれてありがとね、さすがにぼっちの俺でも一人じゃ絶対来ないわ」
「そうだよな、俺も、ら、らっだぁ、と、行ってみたくて」
「ふーん……そうなんだ」
勇気を出して言ってみた言葉に返ってきたのは妙に落ち着いた声だった。どんな顔をしているのか見てやろうとしたが、らっだぁは顔を背けていてぐちつぼと目を合わせてくれない。
「お、俺ペンギン見たいんだけど、いいか?」
これはアレか、やはり脈がないということか。不穏な空気を感じながらもぐちつぼは明るく振る舞って看板を指差す。
「ペンギンいいじゃん、行こうよ」
「よっしゃ決まりだぜ!」
緊張を隠すように大股で歩き出すぐちつぼの後ろを、らっだぁはのんびりついて行った。
平日の夕方で客足が少なく、ガラス間際の最前列でペンギンを見ることができた。エサやりの時間も終わり、ペンギンたちは好き好きにゆったり泳いだり陸上で眠ったりしている。
「見てあれ、あの緑の輪っかつけてる子、ぐちつぼに似てない?」
らっだぁが目を輝かせている。指差す先を追いかけると、肩に緑の標識をつけたペンギンがスポットライトの光の中で首を縮めて目をウトウトさせていた。
「どこがだよ」
「何も考えてなさそうで図体デカいところとか。あ、起きた、かわいい~」
「は?どこがだよ、……痛ッてぇ?!」
ぐちつぼが勢いよく覗き込んだ拍子に、透明なアクリルガラスに額をしこたまぶつけた。ズレた眼鏡を直して頭を抱えるぐちつぼの横で、何故からっだぁも顔を押さえている。
「……ほんとお前腹立つわ、殴ってもいい?」
「は?なんでだよ」
「もう許せない、おりゃー」
「なんでだっての?!」
腕を小突かれ、まさに泣きっ面に蜂だった。ますますらっだぁの行動の意味がわからなくてぐちつぼは混乱し続けていた。しかし肘が軽く触れ合う距離に二人はいて、それが近づきはしないが離れることもない。
結局距離感がわからない。どう思われているのかはもっとわからない。珍しい魚の水槽の前でぐちつぼがウンチクを述べればらっだぁが手を叩いて喜んで、面白い顔の魚を見ては「お前に似てる」といい出してぐちつぼが怒る。深海魚を見て調理方法について議論し、でもやっぱりまずそうという結論に至った。
夢中になって近づきすぎて肩がぶつかり、真剣に水槽を見ているうちに遠ざかり、駆け寄ってきてまた肩がぶつかる。心地よくももどかしい距離感だけがそこにあった。
*
廊下を曲がった先に照明の落とされたクラゲコーナーがあった。暗い室内で透き通るクラゲたちが七色のライトで照らされ、まるでオーロラのように水の中で揺らめいている。
「うわ~クラゲ、かわいーん」
他に客もなく貸切状態だった。らっだぁが水槽に駆け寄ってガラスを指でつついている。つつかれてもクラゲは我関せず、ゆらゆら揺れている。
「めっちゃいいね、こういうライトアップのやつ」
「そうだな、綺麗だぜ」
そういいながらもぐちつぼが見ているのはらっだぁの横顔だった。暗闇で鮮やかな光に浮かび上がる姿は綺麗で、好きになった理由の半分くらいがそこにあった。
「クラゲって可愛いなぁ、好きだわーこういうの」
好き、という言葉でぐちつぼは我に返った。自分以外の対象へは容易くかけられるその言葉が、悔しくないといえば嘘だった。
「……らっだぁって、俺以外には普通に可愛いとかいうんだな」
「え?」
ぽつりとこぼれた本音に疑問符が返ってきた。聞こえてしまった焦りで心臓が高鳴ったが、一度堰を切ってしまった言葉が続けて飛び出した。
「だって俺にはいつもなんかその、い、意地悪ばっかりでさ!」
口に出してからしまった、と思った。ひがみにもほどがある言葉だった。こんな言葉を叩きつけても困らせるだけだろう。
ぐちつぼは恐る恐るらっだぁの顔色を窺った。しかしぐちつぼが思ったのとは違い、らっだぁは目を丸くして口をあんぐりと開けていた。
「いじわる……?」
「ご、ご、ごめん、なんでもねぇよ!忘れてくれ!!」
「え?!だって、だってさ、意地悪だなんてそんな、その」
大きく手を振るぐちつぼの前で、見たことがないくらいらっだぁも動揺していた。
不意にらっだぁの手がぐちつぼの顔に伸ばされた。また鼻でもつねられるのだろう、そう覚悟した。
しかしその手は優しく髪を撫で、それから頬にそっと添えられた。
頬も手のひらもひどく熱い。呼吸の整わない時間が無限のように過ぎる。クラゲだけが二人の横をのんびり泳いでいる。
「ちょ、なんッ、なんで?ふ、振り払いなよ、ちゃんと!」
「へ?!あ、イヤ、その」
大げさな身振りでらっだぁが手を引き剥がす。ぐちつぼも事態が理解できずただ目をぱちくりさせた。
「なにやってんのお前!」
「な、なにってらっだぁのほうだろ、なんだよ?!」
「だって嫌でしょ、こんなさぁ」
「嫌って、そ、それは」
「嫌でしょ?!」
「なにがだよ!!」
「なにって、こういう、その……本当はこうしたかったけど、そんなのやべぇやつやん!!」
「は?今なんて……?」
「だからずっと、本当は、………」
勢いで吐き出されていた言葉に急激にブレーキがかかる。言うはずのなかった本音が正面衝突して大事故を起こしている。
らっだぁの頬が赤くなって見えるのは水槽のライトアップのせいではない。とっくにつま先まで真っ赤になったぐちつぼは言葉の続きを待つ。
「本当、は……?」
「……お前が可愛すぎて耐えられなくて」
「か、か、かわいい……?!」
「そうだよ、本当に可愛いんだよぐちつぼって!仕草もさぁ、自信満々に喋っているところもだし、もう本当に可愛すぎて自分を抑えられないくらい」
「は、ぁ……?!」
とてつもない告白をぶちまけられて、ぐちつぼは呼吸するのもやっとだった。多幸感が閾値を超えて思考が止まってしまった。後ろの水槽でクラゲが揺れるたびに足元まで不安定にふわつくようだった。
言うだけ言ってらっだぁは両手で顔を覆っている。恥ずかしさと目の前にいる愛しく可愛い生きもの、その両方への衝動に必死で耐えていた。
指の隙間からちらりと盗み見たぐちつぼは、茹でダコより真っ赤になって口をただパクパクさせている。───食べてしまいたい。紅潮したほっぺを引っ張って、不機嫌な顔にさせてやりたい。そうしなければバランスが取れない。欲望のままに湧き上がる愛しい衝動を抑え込めるのは、正反対の攻撃性しかない。
「……この気持ちを直接言ったらお前、困るだろうから抑えておきたかったのに」
らっだぁは顔から両手を下ろし、憔悴したようにぐちつぼを見た。ぐちつぼは何度も瞬きをした。この短時間で投げかけられた会話の内容を、茹で上がった脳が時間をかけて理解する。
細かいことが色々あったような気がするが、結論から言うと自分の想像の何十倍も、らっだぁはぐちつぼを好いていた。それが全てだった。
嫌われてはいないどころか、らっだぁが実は暴走する本音を強く抑え込まなければならないほどの感情を抱いていることを知ってしまった。
「ごめんね、意地悪だと思われても仕方ないよ」
「違う、聞いてくれらっだぁ」
深呼吸してぐちつぼはらっだぁを真剣に見た。らっだぁの気持ちを知った以上、自分も伝えないわけにはいかない。
「あのな、らっだぁ、本当は俺も……」
突然、たくさんの足音と話し声が聞こえた。暗いクラゲコーナーに大勢の客が入ってくる気配がした。二人はもつれる足で慌ててコーナーから飛び出した。
外の館内照明は眩しかった。顔はまだ赤く、体温が上がったせいで目はカラカラで、まばゆい世界がおぼつかない。
めまいがするような時間だった。ともすれば夢かもしれない。虹色の水の中をたゆたうクラゲのように、あまりにも幸せな時間が幻だったような気さえする。
熱に浮かされふらつく足取りの中、しかし二人は知らぬ間にお互いの手を強く握り合っていた。
ーーーーーーーーーー
友達と水族館に行ったら恋人になって帰ってきた話。
キュートアグレッションいいよね、の話だったんですが普通に好きな子に意地悪する話になったような気もしている(反省)
🧣🌵の普通の話を書いたらここに入れていこうと思います。
コメント
6件

おわあああああ好きです😭🫰🏻🫰🏻💕💕 もう尊すぎて尊すぎてます、いつもありがとうございます……😭💘 キューアグ良いですよね… 文章で一つ一つの仕草がぽんって頭ん中に浮かびます最高です🥳💖

ぅお〜〜〜ッッッ!!!!✨✨💕 初心だ、!キューアグだ、!流石に設定からもう、神確なんですよっ🪽✨ お二人がこんなに尊いなんて、!! この神作品タダで見ていいんですか、っ?!💕💕 お揃いのマフラーのくだりとか配信で言ってたやつじゃないですか…🤦♀️🫶 ぐちさんも、可愛すぎます🫶💕😭 本当にありがとうございます!! 大好きです!!!!(泣)✨
777
356
32