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聞くところによると、工藤家はほぼほぼ匠平のところと似たり寄ったりの状況ゆえ
再構築を目指していたようだが、今回加納家が同じような目に遭っていたことを
知るにつけ、更に夫の主張を信じることができるようになり、夫婦仲は元に戻り
つつあるそうだ。
そしてもう一組の菊池家では、淳子に嵌められたのは同じだったのだが
そのあと2回、最初の1回と併せて計3回、誘惑に負けて淳子と致してしまい、
こちらは妻から三行半を突き付けられているらしい。
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三行半を夫に突き付けている菊池貴子は先ほど留飲を下げる前に、ちゃっかりと
結婚する気で座っている小泉を目にした時、よくもまぁ、よその家庭を壊して
おきながらいけしゃあしゃあと、高学歴、高身長のイケメンと結婚しようとして
いるのかと思うと発狂しそうになっていた。
側に誰もいなければ、そして小泉のした悪事と相殺されるなら自分は彼女に
気硫酸をぶっかけてやりたかった。
それくらい自分には彼女への憎しみがまだ消えていない。
冷静に話せた自分を褒めてやりたかった。
そして、自分は被害者であると、堂々と妻たちに話していた夫を持つ
工藤や加納の妻たちが羨ましくて堪らなかった。
『私の夫は最低だ』
悲しくも零れ落ちた言葉ひとつ。
これから自分の心と同じように季節も寒い季節に向かうけれど、暖かい季節を
迎える頃には元気になっていると信じて進んで行こう、そんなふうに帰り道、
貴子は 思うのだった。