テラーノベル
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涼ちゃんとのカフェでの会話から数日後、元貴の心は少しだけ、けれど確実に軽くなっていた。
「好きすぎて困る」という感情は消え去ったわけではないが、
それを恐れるのではなく、自分の一部として受け入れられるようになった。
そして、何より、その感情を滉斗に伝えたいという衝動に駆られていた。
翌日。バンド練習が終わり、元貴は滉斗の家に直行していた。
いつものように宅飲みをする準備をする滉斗の背中を、元貴は後ろからそっと抱きしめた。
「ん? どうした、元貴」
不意の抱擁に、滉斗は驚きながらも、その温かさを受け止めるように、元貴の腕に自分の手を重ねた。
元貴は、滉斗の背中に頬を擦り寄せながら、小さな声で囁いた。
「ねぇ、滉斗。……僕ね、もう、滉斗なしじゃ生きていけないくらい、大好きだよ」
普段のツンツンしている彼からは想像もできないほど素直で、そして切実な愛情表現。
その言葉に、滉斗の身体がピクリと震えた。
冷蔵庫から取り出そうとしていたビールの缶が、カタンと小さな音を立てた。
「……元貴?」
滉斗が振り返ると、元貴は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに目を伏せていた。けれど、その腕はしっかりと滉斗の腰に回されていて、離そうとはしない。
「っ、な、なに、照れてんの? 俺だって、言う時は言うんだからね」
元貴は、焦りながらもどこか嬉しそうな声でそう言った。
彼の可愛らしさに、滉斗の胸は温かいもので満たされる。
滉斗はゆっくりと元貴の方を向き、その頬に手を添えた。潤んだ瞳が、まっすぐに滉斗を見上げている。
「……ありがと、元貴。俺も、元貴のこと…同じくらい大好きだよ」
そう言って、滉斗は元貴の唇に深く優しいキスを落とした。
そのキスは言葉以上の愛を伝え、二人の絆をさらに強く結びつけた。
元貴はそのキスに身を委ねながら、この上ない幸福感に包まれていた。
その数日後、今度は若井滉斗が涼架を呼び出していた。
場所は、前回と同じカフェ。
涼架はいつものように穏やかな笑顔で、滉斗の向かいに座っている。
「どうしたの、若井? 元貴と何かあった?」
涼架の問いに、滉斗は淹れたてのコーヒーを一口飲み、小さくため息をついた。
その表情には普段の冷静さはなく、どこか困惑と、そして深い愛情が入り混じっていた。
「涼ちゃん……元貴が、可愛すぎるんだ」
滉斗の言葉に、涼架は目を丸くした。
前回とは逆のパターンで、今度は
滉斗が「好きすぎて困る」ならぬ、
「可愛すぎて困る」という相談を持ちかけてきた。
「ええっ? 可愛すぎるって、どういうこと?
なんか同じような話、前もしたような気がするなぁ。」
涼架が純粋な好奇心で問いかけると、滉斗は少しばかり気恥ずかしそうに、けれどしびれを切ったように話し始めた。
「だってさ、元貴、普段はクールぶったり、お調子者だったりするだろ?
それなのに、二人きりになったり、ちょっと甘えたりする時のあの顔。あれは、もう反則でしょ!?」
滉斗は、昨夜の元貴の言動を思い出したのだろう。
頬が微かに赤く染まる。
「昨日なんて急に後ろから抱きついてきて『もう、滉斗なしじゃ生きていけないくらい、大好きだよ』って言われたんだよ?
なんだあれ!可愛すぎてもう、どうしていいか分かんなくなんの!」
普段は落ち着いている滉斗が、身振り手振りで元貴の「可愛さ」を熱弁する様子に、涼架は思わず吹き出した。
「わー! なんか想像つくー! 元貴、そういうとこあるもんねぇ」
「だろ!? もう、その溢れんばかりの感情を、俺に全部ぶつけてくるのね!?
嬉しいんだ、嬉しいんだけど、なんか、俺の方が元貴に全部持っていかれそうで……」
滉斗は、幸福な困惑といった表情を浮かべている。
元貴の自己肯定感が低いことを知っているからこそ、彼からのストレートな愛情表現は、滉斗にとって何よりも嬉しいものだった。
しかし、その純粋で爆発的な愛の大きさに、滉斗自身が圧倒されている部分もあったのだ。
「元貴、俺を照れさせるようなこと、平気で言ってくるんだよ? 今までは逆だったのに。
なんか、俺がもっとしっかりしなきゃって思うし、もっと元貴のこと、リードしてあげたいって思うんだけど……」
滉斗はそこまで言うと、大きく息を吐いた。そして、涼架にまるで助けを求めるかのような視線を向けた。
「涼ちゃん、どうしたらいいと思う? 俺、元貴が可愛すぎて、もう仕事に集中できなくなりそう!」
滉斗の真剣な悩みに、涼架は満面の笑顔で応えた。
「んー! それはもう、仕方ないんじゃないかなぁ!」
涼ちゃんのあっけらかんとした返答に、滉斗は思わず拍子抜けする。
「仕方ないって……」
「だって、元貴がそんなに若井のこと好きになったのって、若井がそれだけ元貴を幸せにしてあげてるってことなんだよ!
だから、元貴が可愛すぎるって困ってるのも、それだけ元貴が若井のこと愛してるってことの証拠なんだから、もう、お互い様ってことだよね!」
涼架の言葉は、いつものように天然で、かつ本質を突いていた。
滉斗は、涼架の言葉の意味をゆっくりと咀嚼し、ふっと笑みがこぼれた。
「……確かに、お互い様、か」
「うんうん! だからね、若井。元貴が可愛すぎるって困ってるのは、もう諦めるしかないんだよ。
その可愛さを、余すところなく愛してあげなよ!それが、元貴も一番嬉しいことなんだから!」
涼架はにこやかにそう言って、滉斗の肩をポンと叩いた。
彼の言葉は、滉斗の心の重荷をすっと取り除いてくれた。
「……涼ちゃん、ありがとう。なんか、スッキリした」
滉斗は、心から感謝の気持ちを込めて言った。
涼架は二人の恋の守り神のように、いつも温かく、的確な言葉で二人を包み込んでくれる。
「いいんだよー! 僕、二人のこと応援してるからね!
なんかあったら、またいつでも相談してね!」
涼架はそう言って満面の笑みを浮かべた。
彼の言葉に、滉斗は安心したように笑った。
平和なの書きたかったから書きました‼️
無自覚あざと大森とその可愛さに翻弄される若井、良すぎる
コメント
5件
背中から抱きついて小さな声でって……あざとすぎて、本当に貴方は無自覚にやってますか?と小一時間位問いただしたいです。笑 互いに想いが溢れて悩むお話ってのが初々しく、どちらも可愛いすぎて拝読中、口角が上がりっぱなしでした。素敵なお話ありがとうございました♡♡
えすきてんさいですか!