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窓の外は、あの日と同じような激しい雨が降っていた。
28歳になったリオは、キッチンで手際よく3人分の夕食を準備している。
8年前、ずぶ濡れで樫の木の下に固まっていた12歳のサンウォンとアンシンを連れ帰った時、リオはまだ20歳の学生だった。
自分の生活も精一杯だったはずなのに、震える四つの瞳を見捨てることがどうしてもできなかった。
サ「……リオ、手伝うよ」
背後から低く落ち着いた声がして、サンウォンが隣に立った。
177cm。
自分よりわずかに背は低いが、かつての「ひょろりとした少年」の面影はない。
リ「ありがとう、サンウォン。 じゃあ、お皿を並べてくれる?」
サ「うん。……今日のリオ、少し疲れてるね。首のあたりが凝ってる」
サンウォンが自然な動作で、リオのうなじに手を伸ばす。
冷たい指先が肌に触れた瞬間、リオの背中に小さな電流が走った。
以前なら「お疲れさま」という子供らしい労わりとして受け取れたはずの仕草が、今はなぜか、獲物の急所を確かめるような執拗さを孕んでいる気がして。
リ「あ、大丈夫だよ。ちょっと座れば治るから」
リオがさりげなく身を引くと、サンウォンの瞳の奥が、一瞬だけ鋭く、深く沈んだ。
サ「……そう。ならいいんだけど」
そこへ、リビングからもう一人の足音が近づいてきた。
ア「あー! サンウォン、またリオを独り占めしてる」
アンシンがふにゃりと笑いながら、リオの背中に正面から抱きついてきた。
178cmの体躯は、もはやリオの胸元にすっぽり収まるサイズではない。
リ「アンシン、危ないよ。今火を使ってるんだから」
ア「だって、雨の日はリオが恋しくなるんだもん。ねえ、覚えてる? 僕たちを拾ってくれた日のこと」
アンシンがリオの肩に顎を乗せ、耳元で囁く。
甘い声。
けれど、リオの腰に回された腕の力は、甘えというにはあまりに強固で、逃げ場を塞ぐような意志を感じさせた。
リ「……忘れるわけないだろう。二人とも、本当に小さくて」
ア「僕はあの時から決めてたよ。大人になったら、今度は僕がリオを『守る』って」
アンシンが、リオの耳たぶを鼻先でかすめる。
リオは、心臓の鼓動が早まるのを感じた。
それは「親」としての喜びではなく、本能が警鐘を鳴らすような、未知の感覚だった。
食卓を囲んでも、違和感は消えなかった。
二人は甲斐甲斐しくリオの世話を焼く。
まるで、リオが自分たちがいなければ何もできない存在であるかのように。
サ「リオ、口元にソースがついてる」
サンウォンが指でそれを拭い、あろうことか、その指を自分の舌でなぞった。
リ「っ、サンウォン! 行儀悪いよ」
サ「え? 自分の親みたいな人のものだよ。汚くないでしょ?」
サンウォンは無機質な、けれどどこか熱を帯びた瞳でリオを見つめ返す。
隣ではアンシンが、楽しそうにその光景を眺めながら、テーブルの下でリオの膝に自分の足をそっと重ねてきた。
彼らを「子供」として育ててきた8年間。
けれど、目の前にいる20歳の男たちは、リオが注いできた無償の愛を、全く別の、もっとドロドロとした執念に作り替えてしまったのかもしれない。
リオは震える手でグラスを掴んだ。
雨音に紛れて、誰かの低い、満足げな吐息が聞こえた気がした。