「猫系だったら、愛したよ」
その言葉が、頭の中でぐるぐると回る。
学校の帰り道、ひよりはいつもと違って桐生の後ろを歩かず、少し距離をとっていた。
――猫系だったら、愛されたのに。
じゃあ、今の私は?
心の奥にぽっかりと穴があいたみたいで、胸がぎゅっと締めつけられる。
「……なに、急に静かじゃん」
ふいに、桐生が立ち止まった。
振り返った彼の表情は、いつも通りの無表情。でも、その奥には微かに戸惑いが見える。
ひよりは、無理に笑ってみせた。
「えへへ、ちょっと疲れちゃった」
嘘だった。だけど、本当のことなんて言えない。
「犬系のくせに?」
冗談めかした口調。でも、それが余計に胸に刺さった。
「……うん」
桐生はしばらくひよりを見つめたあと、ふっと視線をそらした。
「なら、もう帰るか」
「……うん、そうする」
それだけ言って、ひよりは踵を返した。
いつもなら「また明日ね!」としっぽを振るみたいに笑うのに。
今日はただ、背中を向けて帰った。
次の日。
ひよりは、桐生と一緒に登校しなかった。
家を出る時間を少しずらしただけなのに、すごく寂しくなった。
でも、昨日の言葉を思い出すたびに、胸が痛くなった。
「おはよー、ひより!」
クラスメイトの声に、ひよりはパッと顔を上げた。
「おはよ!」
明るく笑う。それだけは、今まで通りに。
でも、桐生の席を見ることはできなかった。
「……あれ、ひより。今日、高坂くんと一緒じゃなかったの?」
クラスの女子が不思議そうに言う。
「え? ああ、たまたまね!」
ひよりは笑ってごまかした。
だけど、桐生は違った。
いつもなら気にしないはずなのに、じっとひよりを見ていた。
まるで、懐いていた犬が突然そっぽを向いたみたいに。
それが、ほんの少しだけ、彼の心をざわつかせていた。
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こんにちは