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「……蓮くんって、ずるいよね」
そう言われたのは、ちょっと前の放課後だった。
夕暮れの公園。
髪の長い、よく遊んでた年上の子がぽつりと口にした言葉。
「最初から分かってた。蓮くん、誰にでも優しいって。
それが全部、“特別”じゃないってことも」
「……ごめん。俺、ほんとにそういうとこダメだよね」
蓮は、遊びで付き合ってきた女の子たちに対して、
いつもちゃんと目を見て話して、ちゃんと笑って、
ちゃんと名前を呼んで、ありがとうって言ってた。
血を飲むときも、優しく、痛くないように。
怖がらせたことなんて一度もない。
でも――
「それでも、俺、ちゃんと“大事にしてた”つもりだったんだ」
「うん。分かってる。
蓮くん、誰にでも優しいのに、誰にも期待させないようにしてたよね。
“本気にはならない”ってちゃんと分かるように、ずっと距離を保ってた」
「……それでも、傷つけてたでしょ?」
「ちょっとだけね。
でも……それよりも、蓮くんが誰かを本気で想ったって知れて、よかったかも」
「……理央くんって子?」
「……うん」
彼女はふっと笑って、手首を押さえた。
「最後に、吸っていいよ。
“ちゃんと大事にしてもらった”って、私が思えるようにしてくれたし」
「……ありがとう。
でも、もう血は飲まないことにしたんだ。
…あいつだけで、もう充分だから」
「ほんと、バカみたいに一途だねぇ」
笑いながら、でもその目はどこか寂しげだった。
「蓮くんって、誰のものにもならなそうだったのになぁー。でも、決めたんだったら その子のこと、ちゃんと幸せにしてあげてよ 」
「……うん。大事にする。
そのために、全部終わらせてるとこ」
「そっか
じゃあ、……私からも、ちゃんとお別れ言わせて。
楽しかったよ、ありがとう。蓮くん」
「俺も。ありがとう」
──蓮はその日、もう一度だけ深く頭を下げた。
遊びだったかもしれない。
でも、誰のことも軽く扱ってきたつもりはなかった。
優しさで包んで、でもその奥には絶対踏み込ませなかった。
なのに――理央だけは、最初から心が揺れた。
たった一滴の血の味で、感情が掴まれて。
まるで不審者でも見てるような目で「近づかないでください」って言われるたび、
もっと近づきたくなって。
スマホを見れば、理央からのメッセージ。
「迎えに来ないでください。今日くらい一人で歩けます」
でも、それが本心じゃないって、知ってる。
蓮は少しだけ笑って、上着を羽織った。
「……行こ。理央のところに」