「有夏、気持ちよさそ……。そりゃ俺もナマがいいよ。有夏と俺の間にたとえ0.02mmであっても邪魔があるなんて耐えられない」
振り返った有夏が、やや呆れたように顔を顰めていたからか、幾ヶ瀬は我に返ったように声のトーンを落とす。
「でも、有夏の身体に負担をかけるのは俺だって辛いんだよ? ナマと変わらないくらいに薄いやつだってあるし、逆に突起のついたやつなんかもあるから、色々試してみてもいいんじゃない?」
「突起って……え、なにが?」
許容量を超えたらしい。
何の話だと言わんばかりにポカンとしている。
「だからコンドームにイボがいっぱい付いてて、擦ると刺激がってやつ」
「うわぁ……なにそれ」
有夏の目元が険しい。若干引いているのが分かる。
「買ってこよっか?」
「いいよ!」
「いいって使っても良いってこと?」
当然わざと言っているわけだが。
違う違う、いらないよと、可愛く慌てる有夏の姿を見たいがために。
もっとも実際は「死ねよ、変態」と罵られただけだが。
「わ、分かったよ、ゴメン。他のことはそうでもないのに、有夏はセックスのこととなると恥ずかしがり屋さんになるね」
「セッ……はずか……? うっ」
「今日だってせっかくこの前の娼館の続きしようと思ってたのに、有夏が恥ずかしがるから」
「恥ずかしがったつもりはねぇけどな!」
全力で拒否ったつもりらしい有夏は、憐れむように目を細めて幾ヶ瀬を見やる。
「今度は他の客編をしようと思ったのに」
「編って……」
「有夏がちゃんとノれるように色々考えてたんだけど。どう?」
「どうって聞かれる意味が……」
「イクセさんが仕事忙しくて来られない時に、前からアリカを狙ってた男か半ば強引に……」
「キモっ!」
叫ぶ有夏に布団をかけてやりながら、幾ヶ瀬はだからごめんってと言って笑った。
それから「あっ!」と声をあげる。
「そうだ。イクセさんじゃないけど、俺も来週出張なんだよ」
「は?」
「1泊2日。有夏と離れるのが辛いから断ったんだけど、店長が分かってくれなくて……」
「……そりゃ店長もびっくりしただろな」
「有夏、寂しい思いさせるけど……」
「あー? はいはい、だいじょぶ」
有夏の声が軽い。
幾ヶ瀬が覗き込むと、彼は両手で自分の顔を隠す。
手首をつかんで強引に開くと、有夏はニヤニヤ笑っていた。
「……有夏、何が楽しいの?」
「あ、いや別に。1泊2日さみしいなーっと。淋しいからゲームでもしようかな。それともゲームかなっと。ドラクエかなぁっと!!!」
自由な生活を想像して浮かれているらしい。
幾ヶ瀬は脱力した。
「有夏だって俺がいないと困るでしょ」
それは確かだろう。生活全般で、幾ヶ瀬は有夏の全てを握っている。
「別に平気。1泊くらい。それに幾ヶ瀬、社蓄時代はしょっちゅう出張してたじゃん。コックにもそんなのあるんだ」
「……あの頃のは出張じゃなくて、単に帰れてなかっただけ。20時間ぶっ通し勤務とか普通だった」
幾ヶ瀬、遠い目で宙を見つめる。
「……あの頃はろくに家に帰れず、有夏に淋しい思いをさせたね」
「や、有夏、全っ然!」
隠しきれてないその笑顔に、幾ヶ瀬はため息をつく。
「まぁいいか。甘いものでも食べる?」
「おー、いいねー」
「ぜんざいでも作るか」
軽く唇を合わせてから、幾ヶ瀬は立ち上がった。
「小豆ゆでるから1時間ほど待ってね」
「は?」
そこから? 有夏が絶句した。
「覗いた時は事後でした」完
「カラフル」につづく
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