テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
yn視点
今日は朝早くから外部のスタジオでの撮影があり、俺はおさでいと共に通勤ラッシュの中、満員電車に乗っていた。2人でドアの近くの場所に並びながら立ち、たまに会話もしながらいつも通り向かうはずだった。
突然、腰の下の方に誰かの手が当たったような気がした。最初の一回はたまたまか、と思えていたがそれが二回三回四回、、とこうも触られると流石に疑いざるを得ない。でも、「痴漢だ!」と騒ぎになると今後の予定に支障をきたすし、なにより隣にいるおさでいに同情されたくなかった。俺は心を無にして、スマホに集中した。
「やなとさん?体調悪い?大丈夫?」
俺の異変に気づいたのか、おさでいが俺の顔を心配そうに覗き込んだ。
「全然大丈夫!ちょっとボーッとしてただけ!」
俺が顔に笑みを貼り付けてそう言うと、おさでいはそっか、とだけ言ってまた電車の窓に視線を戻した。
こいつは抵抗しないと思われたのだろう。時間が経つにつれどんどん触られる頻度が増え、触る手つきも手が掠る程度だったのが形を確かめるようにじっとりと触られるようになった。スマホの画面を見ていても、文字が全く頭に入ってこない。
気持ち悪い。全身の毛が逆立つような感覚がする。気にしたくないのに嫌でも気になってしまう。でも触られ続けられるより、ここで騒ぎ立てて、男なのに?という目で見られる方が嫌だった。この電車にリスナーさんが乗っている可能性だってあるし、隣におさでいだっているこの状況で誰かに助けを求める勇気は俺にはなかった。
手すりを握りしめ、歯を食いしばりながら、俺は必死に耐えた。絶対にバレてたまるものか。そう心に決めて俺はぎゅっと目を瞑った。
os視点
俺は外の景色を眺め、今日のボケはどうしよう、なんて考えながら電車に揺られていた。
隣にいるやなとと業務連絡や雑談など、ちょっとしたことをたまに話しながら眠い目を擦り動画撮影に向けて必死に頭を起こしていた。
ふと、やなとの様子がおかしいことに気がつく。俺との会話に対しての歯切れが悪く、下ばかり向いている。どうしたのだろう?と思い俺は声をかけた。
「やなとさん?体調悪い?大丈夫?」
そう聞くと、やなとはちらっとこちらに視線を向けて作ったような、引き攣ったような笑顔をして大丈夫!と答えた。見るからに大丈夫では無さそうだったが、本人が隠したいことなら無理に聞く必要もないと思い気付かないフリをした。
しかし、時間が経つにつれ、やなとの元気はどんどんなくなっていった。やなとは帽子を深く被り直し、手すりを指の先が白くなるほどの力で握りしめていた。時々、ビクッと体が震え、顔を歪ませた。
流石に心配になった俺はやなとにもう一度声をかけようと、やなとに顔を向けた。すると、やなとと異常に距離が近い男に気がつく。そいつの手を目で追うと、衝撃的な光景を目の当たりにした。俺は怒りで頭が真っ白になった。その男の手をへし折ろうと手を伸ばした。しかし、ここで騒ぎにしていいのか?とふと頭に浮かぶ。やなとがここまでして必死に隠したのは、きっと周りにバレたくなかったからだ。
「ちょっとごめん」
俺はそう言って、やなとと男の間に無理矢理割り込んだ。そして、後ろの男を殺意に似た怒りを込めて睨みつける。すると、男は慌てたような、怯えたような表情で手を自分の背に隠し、視線を逸らした。俺は、やなとがどこの馬の骨かも分からない男に触られたのが許せず怒りが収まらなかった。腹いせに、思いっきり男の足を踏みつける。男は、ゔっと汚い呻き声を上げ、足を引きずりながら逃げるようにその場から離れていった。
「大丈夫?」
やなとにそう声をかけると、やなとは小さく頷いて俺の服の端をぎゅっと握った。
駅につき、2人で電車から降りる。やなとはドッと疲れたようにしながら俺に話しかけた。
「ありがと、おさでい。助かった。痴漢されたのとか初めてだからびっくりしちゃった」
なんて困ったように笑いながら話すやなとを見て、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「ごめん、気づくの遅くなって」
「いやいや!やめてよ!おさでいが謝ることじゃないでしょ!俺、きっとおさでいがいなかったらずっとあのままだったと思うし、、!」
やなとはそう言いながらこちらを見上げる。
「いや、やなとさんはもっと自分大事にしてよ!可愛いんだから!」
と優しくデコピンをすると、やなとは今度こそ安心したように微笑んだ。俺が一緒でよかったと心から思った。やなとがあのまま触られ続けるなんて考えたくもない。やなとは俺のなのに。
、、、?
ん?俺の、、?、なんて自分の考えに自分で疑問を持つ。いやいや、やなとは誰のものでもないから!何思ってるんだか!なんて自分自身にツッコミを入れる。
「おさでい?」
やなとが心配そうに尋ねる。俺はハッとして、ごめんごめんなんて言いながらやなとの頭を撫でた。自分から無意識に触れてしまっていることにふと気がつく。あ、俺って。今更自分の気持ちに気がついた。だからやなとが別の奴に触られてあんなに腹が立ったのか、と全て繋がっていく。なんだかそう思うと急にドキドキしてきた。俺、やなとの目にかっこよく映っていただろうか。
メンバーとの集合場所に向かう途中、やなとは耳を真っ赤に染めて、真っ直ぐ俺を見つめながら少し小さな声で恥ずかしそうにこう言った。
「あ、おさでい。その、、かっこよかったよ、、?」
俺はそれからやなとの隣でどんな顔をして歩いたか、覚えていない。