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バレンタイン当日、俺はコンビニのバレンタインコーナーで頭を悩ませていた。
世の中はバレンタイン一色に染まり、チョコチョコチョコ!な雰囲気である。この日に恋が実る者が多いのは、バレンタインに魔法でもあるからなのだろうか。
俺もその魔法に乗っかろうと当日に思い立ち、チョコを買おうとコンビニまでは来たものの、バレンタインって女の子から男にチョコを渡すことが多くない?なんて考えが出てきてしまい、なかなか買う勇気を出せずにいた。
チョコを渡すなんてほぼ告白みたいなものでは?友チョコって言って渡せばいいかな?なんて色々考えたが、結局買う勇気は出ず、手に取れたのは数百円にも満たない23円の小さなチロルチョコ3つだけだった。
バレンタイン当日でも、もちろんすにすて㌠にはダンスレッスンがあり、メンバーとも、そして俺の片想い相手のやなととも過ごす時間があった。
スタッフさんからチョコを渡されることもあったが、「好きな人いるんでごめんなさい」とすべて断った。
まぁ、俺自身は日和って全然渡すことは出来なかった訳なんですけど。
練習中も、やなとの鞄に入った他の人から貰ったであろうチョコレートが気になって仕方がなかった。
レッスン終わり、水でも飲もうと俺は自販機の方へ向かった。自販機の前にいるやなとの姿がパッと目に入る。声を掛けようとしたが隣に女性のスタッフさんがいることに気がつき、足を止める。
角に隠れてコッソリ聞き耳を立てると、2人の仲良さげな会話が聞こえてくる。
「やなとさんってすっごくダンスお上手ですよねー!」
「いえいえ、そんな、、!ありがとうございます!」
「あ、そういえば今日バレンタインなのでこれ!」
女性が鞄からチョコを取り出したのだろう。ガサゴソと音が聞こえてきた。
「え!いいんですか!?ありがとうございます!」
嬉しそうなやなとの声が聞こえてきて、胸がチクリと痛む。
2人の弾む会話を聞きながら俺の気分は地に落ちていた。
会話が終わったのだろう。女性のコツコツというハイヒールの音が近づいてくる。盗み聞きがバレぬように逃げようかと考えるが、そんな気力も出なかった。
角から出てきた女性と目が合う。俺の顔を見た途端、なんだか怯えた表情をして軽い会釈をしながら走り去っていった。
まさか、と思い俺は自分の顔をスマホで確認した。そこにはいかにも不機嫌です、といった物凄い形相の顔が映っていた。やなとに会うのにこれはいけないと思い無理やり笑顔をつくる。深く深呼吸をしてから、俺はやなとに声を掛けた。
「やなとさん?」
やなとがパッとこちらを振り向く。
「あ、おさでい!おさでいも飲み物?」
なんていつものように微笑むやなとを見て、少し心が落ち着く。
「うん、てかやなとさんチョコ貰ったの?」
「あっ、そうなんだよねー!色んなスタッフさんから貰ったよ!」
と言い、やなとは沢山のチョコレートを俺に見せる。
「やなとさん、リア充絶対許さないマンじゃなかった?」
なんて聞くと、
「まぁ、全部義理だから!」
と、やなとは笑って答えた。
見るからに本命のチョコレートもあるが、きっと彼は気づいていないのだろう。いや、気づかないフリをしているのかもしれない。俺達はアイドルだから基本恋愛はご法度だ。
「おさでいはなんか貰った?」
と、質問される。
「くれようとする人はいたけど断ったよ。俺、好きな人いるから。」
「なーんだ。貰ってなかったらイジろうと思ってたのにー。」
俺、今結構大事な事言ったよね?と不満に思うが、口を尖らせながら文句を言うやなとは可愛いので、満足してしまう。それから数秒経った後、やなとが声を上げた。
「ん?ちょっとまって!おさでい今なんて?」
「好きな人いるからチョコはもら「え!?」
やなとの大声で俺の言葉が遮られる。
「いや、さっき言ったじゃん!やなとさん時差ヤバすぎでしょ!」
やなとらしいなと思い、思わず笑みが溢れる。
「え?!だれだれ?」
「言うわけないでしょ、やなとさんすぐバラしそうだし!」
俺はやなとの頬を突きながらそう言う。
「いや、俺信用なさすぎでしょ!言わないよ!」
「言わなくても嫌なのー!」
「えー」
文句を垂れつつ、やなとは意外とあっさり諦めた。
俺とやなとは飲み物を買い、ベンチに腰をかけながら雑談を続けた。やなとが高そうなチョコを頬張っているのを見て、数十円のチロルチョコなんて渡す気は無くなってしまった。
「なんか、おさでい今日ちょっと顔怖くない?」
やなとに揶揄うようにそう聞かれる。
「え?マジで?」
他の人から貰ったチョコを食べるやなとを見て嫉妬していたのが顔に出てしまっていたのだろうか。それとも、渡せない自分に腹が立っていたのだろうか。
「あ、もしかして好きな人にチョコ渡せなかったとか?」
「え、いや、そうじゃなくて、!えーと、!」
図星をつかれて上手く誤魔化しが出来ない。
「絶対図星じゃん!分かりやす!」
なんて、やなとがケラケラと笑う。そんな所も可愛いと思ってしまうのだから、もう俺の負けなんだと思う。
「おさでい、俺にチョコはないの?」
ふざけて言っているのは分かっている。でも、そんなに可愛く言われたら渡しざるを得なかった。
「やなとさんちょっと手出して」
「え!用意してくれてるの!?」
なんて、やなとは目を輝かせながら俺に手を差し出した。俺はポケットに入れていたチロルチョコを握り、やなとの手の上に置いた。
「まあ、チロルチョコだけどね」
と笑うと、やなとは幸せそうにそれをギュッと握って微笑んだ。
「全然嬉しいって!貰えると思ってなかったし!ていうか、俺が3つも貰っちゃっていいの?他のメンバーとかにもあげた方が、、」
「やなとだけだから」
俺は勇気を出してそう言った。すると、やなとは少し照れたような、嬉しそうな表情をして、へー、とぶっきらぼうに言う。俺はそのむず痒い空気に耐えきれず、おふざけに走ってしまう。
「でも、なんか腹立つから1個は俺が食べる!」
俺は、やなとの手からチロルチョコを1つだけひょいっと掴んだ。包み紙を剥がし、口に入れようとする。すると、やなとがギュッと俺の手首を掴んだ。
「やなとさん?」
「もうそれ俺のだから!」
そう言って俺の手を自分の口の前まで持っていき、パクッとチョコを食べた。
やなとの唇が俺の指先に少し触れる。指先にやなとの息がかかると同時に、俺の全身に熱が走った。全神経が指先に集中される。やなとの体温が、感触が、息が、次第に俺を溶かしていった。きっと俺は今、人に見せられない顔になっている。それが自分でも分かった。
「や、やなとさん?」
恐る恐る聞くと、やなとは顔を真っ赤にしながらこちらを見つめて恥ずかしそうに笑った。
「うわ、今の、ちょっと恋人っぽかった、?」
「何言ってんの、やなとさん、、」
俺はやなとを直視する事が出来なかった。気恥ずかしくてどうしようもなかった。
「お、俺もう行くね、!」
やなとはそう言って俺の手首を少し名残り惜しそうに離したあと、立ち上がって数歩進んだ。しばらくして、立ち止まったやなとはちらっとこちらを振り返り、少し悩んだようにした後こう言った。
「おさでいからのチョコが1番美味しかったよ、」
それだけ言うとやなとは走り去っていった。たった23円のチョコが、やなとには一番だったらしい。
俺はやなとが居なくなった後、その場にしゃがみ込んだ。少し湿った指先を見つめながらため息をつく。この有り得ない程の胸の高鳴りもバレンタインの魔法によるものなのだろうか。
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