テラーノベル
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その日の帰り、榊は何も聞いてこなかった。 いつもみたいに隣を歩いて、
たまにこっちを見て、
でも、事件の話は一切しなかった。
それが逆に苦しかった。
家に帰っても、動画が頭から離れない。
画面の端に映った自分。
青ざめた顔。
何もしていない。
ただ立っていた。
「……っ」
吐き気がした。
洗面台に手をつく。
鏡の中の自分が、妙に知らない顔に見えた。
その時。
スマホが鳴る。
榊だった。
『開けて』
心臓が嫌な跳ね方をする。
カーテンを開ける。
またいた。
街灯の下。
黒いパーカー。
もう驚くより先に、安心してしまった自分がいた。
玄関を開ける。
「……何」
「顔やばい」
「お前のせいだろ」
「うん」
否定しない。
榊はコンビニ袋を持ち上げた。
「ゼリー買った」
「いらね」
「食わないと倒れる」
勝手に家に入ってくる。
俺は止めなかった。
部屋に入ると、榊は床に座った。
「お前ん家、落ち着く」
「なんで」
「静かだから」
俺もベッドに腰掛ける。
沈黙。
エアコンの音だけがする。
「……なあ」
俺は小さく言った。
「俺、水野を殺したのかな」
榊は少し黙った。
「殺してはない」
「でも」
「お前、ああいう時動けなくなるタイプだから」
胸が痛んだ。
図星だった。
昔からそうだ。
誰かが揉めてても止められない。
空気を見て、黙る。
見てるだけ。
「……最低」
吐き出すみたいに言う。
「俺」
「うん」
「否定しろよ」
「嫌」
即答だった。
思わず笑いそうになる。
こんな時なのに。
「でも」
榊が続ける。
「俺、お前のそういうとこ嫌いじゃない」
「は?」
「弱いくせに、平気な顔するから」
榊が近づく。
ベッドに片手をつく。
「放っとくと壊れそう」
距離が近い。
逃げた方がいいのに、動けない。
「……お前、ほんと変」
「知ってる」
榊はそこで、不意に真顔になった。
「でもさ」
「?」
「水野が落ちた日」
空気が変わる。
「屋上にいたの、お前だけじゃない」
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橘靖竜
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