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卑劣な騎士の言葉を聞きながら、リオは指が痛いことに気づいた。そういえば怒りの余り、無意識に地面を|掻《か》いていた。指が動く。魔法が使える。どうする? リオはそっと辺りの様子をうかがう。近くに葉が生い茂った大きな木がある。葉っぱで目くらましをかけるか…。
小さく息を吐き、騎士に気づかれぬよう指を動かそうとしたその時、「待て」と背後から低い声がした。
リオは動きを止め、騎士二人が振り向く。
「なんだおまえ?俺たちは忙しいんだ」
「誘拐か強姦か知らんが、その者を返してもらおう」
「は?これは俺のツレなんだが?」
「ほう?そうなのかリオ」
聞き覚えのある声に、リオもゆっくりと振り向いた。そして緩慢な動きで首を横に振る。
「もしや薬を飲まされたのか?顔色が悪い」
今度は首を縦に振る。
黒いマントにフードをかぶった背の高い男が、「おいで」とリオに向かって手を差し出した。
しかしリオが手を出すよりも早く、騎士達が男に殴りかかる。男はするりと攻撃をかわし、二人の騎士の背中を強く蹴った。
「くそっ!何しやがるっ」
「品がない。この州におまえ達はいらぬ。おい」
男が軽く手を上げる。すると闇の中から似たようなマントとフードをかぶった三人が出てきて、二人の騎士を素早く縄で縛り上げた。二人の騎士は喚こうとするけど、猿ぐつわまでされて声が出せない。
三人は、男に小さく頭を下げ、騎士達を連れて闇の中へ消え去った。
リオは安堵した。心底安堵して、意識が飛びそうになる。
「おい、大丈夫…じゃないな。リオ、おまえの宿はどこだ?」
「…やっぱり、ギデオン…だ。ありがと」
「礼は後だ。宿は?」
ギデオンが簡潔に聞く。
リオは何とか意識を保ちながら、角を曲った所の店の、さらにその奥の小さな家だと、途切れ途切れに告げた。
そしてギデオンが「わかった」と頷いたのを確認すると、ほっと息を吐き目を閉じた。
リオは夢を見ていた。
母さんがいるから、夢だとわかった。
一族が暮らす、小さな村。父さんは物心つく前には亡くなっていて、顔もぼんやりとしか覚えていない。母さんは基本は優しかったけど、魔法の使い方を教える時だけは、厳しかった。魔法は、悪いことにも使えるからだ。魔法を使えば楽だけど、余程のことがない限り使わないよう、決して人に見られないよう、きつく言われた。魔法が使えることが知られたら、悪い人に利用される。リオの一族がここまで減ったのは、悪い人が利用するために|攫《さら》っていったからだとも。だからリオ、大切な人を守る時以外は、なるべく魔法を使わないでねと、何度も何度も言い聞かされた。