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虐待表現強くあります
ドンっ、と勢いよく音が鳴る。
「ぅ”っ、ぁ、すいませ、て、蘇枋さん!?」
「とっ、やぁ、にれくん。お急ぎだね。」
楡井を難なく支えたのはこの”家”にて、楡井となにかと共に行動をすることが多い蘇枋隼飛だった。
「あ、えと、すいません。これからお風呂ですか?」
「あぁ、いや。にれくんの抱えていた子供が落し物をしていったからそれを届けようと思ってね。なにか焦っているようだったから落ち着いてから届けようとしてたんだ。」
蘇枋の手には小さなメモ帳があった。雨でふやけているが小さい割にそれなりの枚数がついているタイプ。それは楡井がよく使っているマル秘ノートと酷似していた。
「あっ!それ!ありがとうございます!ちょうど探すところで…」
「そうだったんだ。ならちょうど良かった。」
ありがとうございます、と楡井が軽く会釈をする。
「にれくん、さっきの子供はまだいるのかい?」
「え、あぁはい。」
「なにがあったのか、聞いてもいい?」
まぁ、いきなり焦った様子で知らない女の子を抱いていたら気になるよな…と思いつつ女の子を拾ったわけとメモ帳を探していた理由を話した。
「…なるほど、じゃあ詳しくはこれからその子に聞くんだね。」
「はい、蘇枋さんも来ますか?」
「いや、さっきの話を聞く限りあまり人馴れしてなさそうだし、あんまり人数が多いと怖がらせちゃうだろうから辞めておくよ」
そう言って蘇枋は小さく手を振ってまた後でね。と、一言零しこの場から去っていった。なんと気遣いのできる男なのだろうか。これがオレの師匠、カッコイイ。
ハッと思いクルリと項を返してことはと女の子のいる所へと駆け寄る。
「すいません、遅くなりました。蘇枋さんが持ってました。はい、これですか?」
女の子はパァっと目を見開き嬉しそうにする。お目当てはこれだったらしい。
「…メモ帳?」
「はい、多分この中になにか書かれてるんだと」
ことはが楡井に問いかける横でメモ帳を手に取った女の子はパラパラとメモ帳をめくっていく。するとピタッと動きを止めてこちら側に1枚のページを見せてくる。雨でふやけて見えずらいが読めなくは無い。
そこには…
拝啓、この子を拾ってくれた誰かへ
私たちはこの子を育てることが限界です。
私たちはこの子が生まれた時から気味が悪くて仕方がありませんでした。左右で色の違う髪も目も。
最初は愛そうと努力しましたが周りの目線に耐えきれず、夫は酒に溺れこの子に暴力を振るい、私も暴力に走ってしまいました。そのせいかこの子は喋ることが出来ず、歩くこともままなりません。親失格なのはわかっています。
虐待をしたのに警察にも行けない自分たちの弱さを呪いたい。
だから、この子を誰か、拾って愛してくれることを願っています。
身勝手をごめんなさい。
もし、この子を拾って愛してくれるのならば、この子を、どうか、よろしくお願いします。
この子の名前は”遥”です。よろしくお願いします。
…あぁ、この子は捨てられたのか。この子を愛すことのできなかった親に。愛したかったはずなのに。愛すことができなかったのか、この親は。
なんとも言えない怒りと、悲しみが湧いてくる。両親も限界だったのだろうとわかるから。でも、それでも、暴力に走ってしまったから。何も悪くないこの子に。
でもきっと、本当に愛したかったんだろうな。苗字はなく、下の名前のみをここに記載している。きっと、自分たちの子供だと思われたくないから、ではなくて、きっと、自分たちを忘れて新しい名前で、苗字で、幸せに暮らして欲しいのだろう。それに、名前は親から子への最初のプレゼントと言われているから自分たちから送る。最初で最後の愛をここに残しておきたかったのだろうな、と、思う。
チラリと遥、という名の女の子に目を向ける。相変わらず目は虚ろでどこを見ているのかよく分からなかった。
「…遥」
ことはが小さく呼びかける。ピクっと女の子が反応を示した。
「…そっか、遥の事情はわかったよ。ねぇ、にれ」
ことはが言わんとしていることがわかってコクリと頷いた。
「遥さえ良ければ…家の子にならない?」
遥と呼ばれた少女は大きく目を見開いたあと小さく「…ぇ、?」と声を発した。
続く