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 急いで着替え食堂へと降りると、既に貸し切り状態となっていた。

 ギルドの扉の前にはデカイ馬車。その周囲には規制線が張られ、騎士団が守っているという物々しい雰囲気。

 さすがは王女と言うべきか。こんな村に大層な大名行列で来たもんだと感心するばかり。

 早朝とはいえそれだけ目立てば、村人たちが何事かと集まって来るのも頷ける。


 そんながらんとした食堂内。席はいくらでも空いているのに、相変わらずヒルバークだけは立っていた。

 皆が着席しているテーブルには、これ見よがしに開いている椅子が一つ。

 そこに俺が着席すると、タイミングよく飲み物が運ばれてくる。


「お……おおお……おまたせ……しししましたぁ……」


 すさまじいドモリを発したのはレベッカ。どうやら相手が王女だと知り、緊張している様子。

 トレーに乗っている飲み物がカタカタと揺れていて、倒さないかと不安に駆られる。


 全ての飲み物をテーブルに置くと、「ありがとうございます」とリリーに言われ、レベッカは幸せそうにカウンターへと下がっていった。


「九条、一つ聞きたい。魔法書は二冊あったのか?」


「いいえ。燃やされるまでは一冊しかありませんでした。|曝涼《ばくりょう》式典で渡したものは新しく作り直した物です」


「作り直した!? いったいどうやって!?」


 あまり言いたくはないのだが、|曝涼《ばくりょう》式典でのことを思えば隠していても仕方がないと諦める。


「頭蓋骨から人をよみがえらせることが出来ます。しかし、それは厳密に言うと人ではない。時間制限もあります。アンカース家の皆さんには悪いと思ってますが、バルザックさんの頭蓋骨を見つけてよみがえらせ、魔法書を書いていただきました。それだけです」


 驚愕の声が場を包む中、ただ一人、ミアだけが動じていなかった。

 それもそのはず、人を生き返らせることができるのは、神聖術の適性を持つ者——それもほんの一握りの者だけが扱える奇跡の魔法とされている。

 それが死霊術でも出来るというのだから、驚くのも無理もない。


 しかし、神聖術の|完全蘇生《リザレクション》と死霊術の|死者蘇生《アニメイトデッド》。結果こそ似ているが、その本質はまるで異なる。

 |完全蘇生《リザレクション》は、死後間もない者の魂がまだ肉体を離れていない状態でのみ作用し、完全な命の復元を可能とする。

 一方の、|死者蘇生《アニメイトデッド》はそうではない。

 頭蓋骨に残るわずかな情報を読み取り、それをもとに肉体を再構築。かつての魂を強引に呼び戻しその肉体へと憑依させるのだ——。

 それは蘇生ではなく、再現に近い。まるで、神の奇跡を模倣するかのような、禁忌の術だ。


「じゃあ、もし今ここでバルザックをよみがえらせてと言えば出来るの?」


「出来るか出来ないかと言われれば、出来ます。望まれるなら吝かではありませんが、できれば乱用は避けたいと考えています」


 人を蘇らせることは、確かに可能。だが、それはあくまで“望む者”のための術。

 よみがえることを良しとせず、安息を求める者もいるのだ。その眠りを妨げることはしたくない。


 皆がネストの顔色を窺う。バルザックに会えるのならば、直接礼を言いたいと思っているのだろう。

 その判断は、アンカース家であるネストに一任しているようだ。

 俺からは言い出さなかったが、人目に付かぬ所であれば会わせてもいいとは思っていた。

 急なお願いにもかかわらず、魔法書を書きあげてくれたバルザックへの礼にもなると考えていたからだ。


 しばらく思案していたネストだったが、結局は首を横に振った。


「……止めておくわ。今回はその為に来たわけじゃないもの。九条、もしこれから先バルザックと話す機会があったら、アンカースの末裔が感謝していたと伝えておいてもらえるかしら?」


「ええ。わかりました」


 ネストとの話が一段落すると、リリーが取り出したのは派閥の証。蒼く透き通るサファイアの指輪だ。


「手を出して下さい。九条」


 そうはいかない。何の為に返したと思っているのか……。

 派閥に入っていても勧誘はやって来る。その予防にと派閥に属してはいたが、もう王都に足を向ける事もないだろうし、俺には無用の長物だ。


 頑なに手を出さず、無視を決め込んでいた。

 そのうち諦めてくれるだろうと思っていたのだ。……だが、それがいけなかった。

 そろそろ諦めたかと視線を向けると、リリーは悲しそうな表情で潤んだ瞳を向けていたのだ。


 一粒の涙が派閥の証に零れ落ちる。

 それにはさすがの俺も、焦りを隠せなかった。まさかこれしきの事で泣くとは思わなかったのだ。

 辺りは既に敵だらけ。仏頂面で俺を睨む皆の気持ちは一つ。「王女を泣かせた責任を取れ」……皆の顔は、暗にそう言っていた。

 王女の涙に勝てる奴なんかいないだろ! 十分すぎるほどのチートである。


「はぁぁぁ……」


 俺から漏れる盛大な溜息。場を納める為とでも言うべきか、全面的に降伏。仕方なく手を差し出した。

 それを見たリリーは笑顔になると、嬉しそうに指輪をはめてくれたのだ。


「これからもよろしくお願いしますね。九条!」


「ははは……」


 ほんの少しの後悔。俺の引きつった笑顔からは、乾いた笑いしか出てこなかった。



「じゃあ、次は私ね。九条にプレゼントがあるの」


 ネストがそう言うと、一本の棒のような物を取り出した。

 それは少し細めの筒状の入れ物。何かの書状が入っていると見受けるが……。


 差し出されたそれを受け取り、中を確認する。

 ポンッという聞き覚えのある音と共に出て来たのは、グルグルに巻かれた一枚の書状。

 細かい文字で埋め尽くされたそれは、何かの利用規約と見紛うほどだ。


「これは?」


「それは権利書。あの炭鉱とダンジョンのね」


「……は?」


 突然の事で思考が止まり、情けない声が漏れる。


「ブラバ家は没落したわ。自分の部下が王女を手にかけようとした。それに私達にしていた嫌がらせなんかも認めたの。それで、ブラバ家の領地を国が一時的に預かり、私達アンカース家は魔法書の返還と共に新たな爵位と領地を賜った。それがこの周辺で、コット村はアンカース領の仲間入りをしたってわけ」


「……はあ……」


「今現在持ち主の登録されていないダンジョンと、それに繋がる炭鉱を九条名義で登録したの。その権利書がそれ。これで名実共にあのダンジョンはあなたの物だわ。なぜあのダンジョンに固執するのか分からないけど、自分の物にしちゃえば侵入者が来ても大手を振って追い払えるでしょ?」


 あまりにも突然で、あり得ない話。規模がデカすぎて頭に入ってこなかった。

 要は土地をくれると言いたいのだろうが、そんな奇特な人がいるとは思えなかったのだ。


「あのダンジョンが俺の物? そんな訳ないでしょ……」


「嘘を言ってどうするのよ。私の事が信じられない?」


「はい」


 俺の世界では、美味しい話はまず詐欺を疑えというのが鉄則。

 仮に詐欺でなくとも、それに付随する見返りを警戒するのは当然だ。


「……正直ちょっと傷ついたわ……。でもそれを言うならお互い様じゃない? 私達から見れば、お金に興味がなかったり、死人を生き返らせる方が信じられないんだけど?」


「九条。私が保証します」


 リリーが嘘を言っているようには見えない。王女という立場上信じることはできるのだが、俺は何も求めてはいないのだ。

 ただブラバ家が没落し、アンカース家が復興する。それだけの事だと思っていた。

 乗り掛かった船だからと手伝っただけ。それがこんな形で返ってくるとは思わなかったのである。


「本当にいいんですか? 後から何かおかしな契約を迫ったり、脅迫されたりしませんか?」


「同じ派閥の仲間に、そんなことする訳ないでしょ? それでも、まだ足りないかしら?」


「いえ! 十分です……。……ありがとう……ございます……」


 安堵したと同時に、素直に嬉しかった。感極まりながらも必死にそれを堪え、不器用に感謝の言葉を口にした。

 それ以外に、言葉が出なかったのだ。


「あ、そうそう。一つ忘れていたわ。杖に入っていた手紙。これも預けるわね? バルザックの思いはちゃんと届いているわよ?」


 そう言ってネストが差し出したのは、一枚の丸まった小さな紙きれ。それはバルザックが妻に宛てた手紙だった。


『親愛なる我が妻よ。こんな生き方しか出来ない私を許してほしい。私に貴族は似合わない。泥臭い冒険者こそが私なのだ』


 ネストは、人差し指をクルリと回して見せた。

 その意味を理解し裏をめくると、表面のガサツなものとは違う綺麗な筆跡で一言。


『あなたと一緒になったことを後悔したことは一度もありませんよ』と。


「その手紙をバルザックに渡してあげて。きっと喜ぶわ」


「ええ。わかりました」



 頃合いだろう。リリーがパンパンと手を叩くと、スッとその場に立ち上がる。


「丁度よい時間ですね。私達はそろそろお暇しましょう。これ以上はギルドにも迷惑が掛かりますしね」


「またな、九条」


 皆が馬車へと乗り込み、ヒルバークが軍馬へ跨ると先頭へと踊り出る。

 リリーが名残惜しそうにカガリをモフモフした後、さわやかな笑顔を俺へと向けた。


「九条、またいつでも王都へいらして下さい。その時は歓迎しますから」


 その返事も聞かずに、馬車へと乗り込んだリリー。


「全体進めぇぇ!」


 ヒルバークの号令で馬車はゆっくり動き出す。

 俺とミアは、村の西門まで同行すると、そこで皆を見送った。

 轍を残し、小さくなっていく馬車。カツカツとリズミカルな音色を響かせていた蹄の音も、次第に耳から遠ざかる。


「――良かったですね。ちゃんとメッセージは届いていたみたいですよ?」


 それは独り言ではない。バルザックは俺の隣にいたのである。

 その姿が見えるのも、その声を聞くことができるのも、俺だけなのだ。


 堪えていた涙が止めどなく溢れ、バルザックは歯を食いしばりながらも慟哭していた。


「お兄ちゃん、誰とお話ししてるの?」


「いや、なんでもない。こっちの話だ」


 ミアが俺の顔を不思議そうに見上げるも、それを誤魔化すようにミアの頭を優しく撫でる。


「さてと、腹減ったな。飯にするか?」


「うん!」


 俺が手を差し出すと、ミアは当然のことのようにその手を取り、カガリと共にギルドへと歩き出した。

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