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 深夜、遠くから風に乗って聞こえてくるウルフの遠吠えで目が覚めた。

 俺の隣には幸せそうにスヤスヤと眠るミアと、キツネの魔獣カガリ。

 バスケットの中に毛布を敷いたカガリ専用の寝床は特注サイズな為、その大きさは普通のペット用の三倍ほどで、狭い部屋が更に狭く感じる。


 あれから二週間が過ぎた。ここは長閑な農村。相も変わらず穏やかな日々が続き、特に事件が起こるわけでもない。

 だが、俺たちが王都スタッグへ旅立っていた間に、ひとつだけ変化があった。


 ――“流れ”の冒険者たちが、目に見えて減ったのだ。


 理由は明白。彼らの目当てはミアとカガリ。俺たちが留守にしている間に興味を失ったのか、少しずつ姿を消し、今ではギルドの利用者数は当時の半分以下にまで減っていた。

 とはいえ、初期の頃に比べればまだ賑わっている方。

 かつては依頼が山積みで、処理しきれずに悲鳴を上げていたギルドも、今ではすっかり落ち着いている。

 仕事の取り合いもなく、各々が自分のペースで任務をこなす――まさに順風満帆といえる状態だった。


 肝心の俺はというと、今では“困った時のピンチヒッター”に落ち着いている。

 掲示板の依頼を受けることはなく、何かあった時のために村を守る護衛として常駐している――そんな立ち位置だ。

 プラチナのプレートは悪目立ちするので首には掛けず、ポケットの中にひっそりと忍ばせている。

 そもそも、それを誇示するつもりはないし、何より――「この村にはプラチナがいる。なら別の街に行こう」と他の冒険者たちが離れていく可能性もゼロじゃない。

 流石に全員がいなくなるという事態にはならないと思うが、俺一人で全ての依頼を処理するのはどう考えても無理なのだ。


 しかし、そんな俺の考えを真っ向から否定する出来事が起きた。


 二度寝を決め込んだあと、食堂で朝食を取ろうと階段を下りていた時――。

 カイルに呼び止められたのだ。


 それが、俺の安穏とした日々を揺るがす出来事の始まりだった。


「あっ、いいところにいた九条」


「ん? 何だ?」


「いや、大した用事ではないんだ。今日は村の見張りを俺と他の冒険者で引き受けることになったから、九条は休んでいいです……いいぞ」


 村に帰ってきた時、カイルは俺に対して敬語を使っていた。

 俺がプラチナだという事と、騙していた事で後ろめたさがあったのだろう。

 とはいえ、そんなことされてもこちらが気を使ってしまうだけである。なんとか説得して普段通りでいいという事にはなったが、まだその名残が垣間見えた。


「そうか……。なら今日はゆっくりさせてもらうよ」


「ああ。そうしてくれ」


 食堂ではレベッカとソフィアが何やら談笑していた。

 レベッカが俺に気が付きソフィアから目線を逸らすと、それを追ったソフィアとも目が合う。


「あっ、九条さん」


「おはようございますソフィアさん」


「えっと……」


「何か?」


「……いえ、なんでもありません。では、私はこれで失礼しますね」


 最近のソフィアはいつもこうだ。顔を合わせると何か言いたそうな素振りを見せ、結局は何も言わずに去って行く。

 考えられるのは仕事の関係の話だが、ああ見えてソフィアは仕事に対しては真面目だ。言い辛いことでも仕事となればハッキリと言うはずである。

 金銭に関する可能性も考えられるが、お金に困っているようには見えないし、そもそも貸したところでこんな村じゃ使う所も限られている。

 とすると残る答えは一つ。俺に惚れてしまった可能性だ!

 ……と言いたいところではあるが、恋する乙女の顔という感じでもない。

 それがどういうものなのか万年独身の俺には見当もつかないが、謎は深まるばかり……。


 ひとまずソフィアのことは保留し、運ばれてきた朝食に舌鼓を打ちながら今日の予定を考える。

 急遽休みになってしまったが為に暇なのだ。だからと言って、これといった用事もない。

 ならば散歩がてらにダンジョンに足を運んでみるのも悪くない。正式に俺の物になったのだ。百八番に教えてやれば喜ぶかもしれない。

 ネストから預かったバルザックの手紙をダンジョンに保管しておこうと思っていたので、丁度良い機会。


 食事を終え準備を整えると、物見櫓で警備の仕事に従事していたカイルに声を掛けられた。


「九条。どっかいくのか?」


「ああ。折角の休みだしちょっと散歩に……」


 そう言って振り向いたその時、あり得ない物が見え絶句した。

 門扉の隣に目新しい木製の看板が設置されていたのだが……。


『プラチナプレート冒険者の住む村! コット村へようこそ!』


 そこに書かれている文字を見て硬直していた俺を、カイルは不思議そうに見ていた。


「どうした九条?」


 カイルの質問で我に返る。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?」


「何かあったのか!?」


 俺に釣られ、急ぎ真下を見るカイルだったが、返って来た返事は期待外れ。


「何もないじゃないか……」


「この看板はなんなんだ!?」


 看板というワードを聞き、ようやく意味を理解した様子。


「……えっ!? ソフィアから聞いてないのか?」


「こんなもの聞いてない! どういうことだ!」


「えぇ……。そんなこと俺に言われても……」


 ソフィアが俺に言い出せずに躊躇していたのは、このことなのだろう。

 事のあらましをカイルに聞くも、ソフィアが答えるの一点張りで聞く耳を持たない。

 仕方がないのでダンジョンに行く予定を早々に切り上げ、ギルドへと戻った。


「ソフィアさん! どういうつもりですか!?」


 両手でギルドのカウンターを叩くと、向かいにいたソフィアはビクンと肩を跳ね上げる。


「ああ。……見ちゃいました?」


「見ちゃいました? じゃないですよ! 説明して下さい!」


 悪戯が見つかってしまった子供のようにおどおどするソフィア。

 バレてしまっては仕方ないと諦めたソフィアは、全て話すと約束したうえで場所を変えようと提案してきた。

 そのままここで話せばいいじゃないかとも思ったのだが、冷静になって周りを見ると、俺の剣幕に驚いた冒険者達がこちらをまじまじと見つめていたのだ。

 その突き刺さるような視線に耐え兼ね、俺はソフィアを連れてギルドの外へと退散することにしたのである。


「で? あの看板はどうしたんですか?」


 ギルドの裏庭でソフィアの尋問を開始する。


「九条さんが王都にいる頃、私の所にスタッグギルドへの出頭命令が来たんです。九条さんのプレートを偽った件だと聞かされたので、私はスタッグへ出発する前に、村の会合で最悪村からギルドが撤退する事になってしまうかも――と、お話ししました。しかし九条さんの計らいで最悪の事態は逃れ、ギルドを辞することもなく戻って来れました」


「そうですね。その仕打ちがこれですか?」


「ゔっ……ごめんなさい……」


 ソフィアは申し訳なさそうにするも、その表情は少し引きつっていた。


「それでですね……。九条さんよりも先に戻ってきた私は村のみんなに経緯を報告したんです。そうしたら村の皆さんは凄い喜んで……。その空気に呑まれてしまって……」


「ちょっと待ってください。報告って言いましたけど、何と報告したんですか?」


「そのままを説明しました。ギルドが存続することと、九条さんがプラチナであったこと。そしてそのまま村で活動を続けて下さることです」


 なんとなく読めてきた。

 通常プラチナの冒険者は王都にホームを置くことになる。だが、俺だけが特例でコット村での活動を許された。

 それを村の為に生かそうとしたのなら、あの看板も頷ける。


「それを聞いた皆さんは舞い上がっちゃってですね……。プラチナの冒険者が唯一住んでいる村、という事で村おこしが出来ないかと……」


 話を理解するにつれて、強張っていた俺の顔は徐々に億劫になっていく。


「ソフィアさんもその話に乗ったんですか?」


「まさか!? そんなはずないじゃないですか! 九条さんに迷惑が掛かると思って止めましたよ!」


 慌てたように手を振って否定するソフィア。


「じゃあ、なんでこんな事に……」


「がんばって止めたんですけど、結局九条さんの名前を出さなければ問題ないだろうという事で決まってしまいまして……」


「いや、そう言う問題じゃないでしょう……」


 俺が溜息をつくと、ソフィアは地面に視線を落とし申し訳なさそうに項垂れる。

 恐らくソフィアは、俺の説得を頼まれただけなのだろう。ここでソフィアに何を言ってもしょうがない。


「……ひとまず止めてもらうために村長の家まで行きましょうか」


「えっ!? 今からですか? 後日という訳にはいきませんか?」


 何やら焦り出すソフィア。それを見て不審に思うも、そうではないとすぐに考えを改めた。

 そういえばソフィアはまだ仕事中。にも関わらず、時間を作っているのだ。

 流石に村長の所まで同行してもらうのは無理か。


「忘れてました。まだ勤務中ですよね。村長の所には一人で行くので、ソフィアさんは仕事に戻ってもらってかまいませんよ?」


 しかし、ソフィアは大きく首を横に振るとそれを拒んだ。


「いえ、是非ご一緒させてください!」


「まあ、ソフィアさんがよければ、俺はいいですけど……」


「じゃあ行きましょうか! 村長の家には私が案内しますから!」


「はぁ……わかりました……」


 小さい村だ。村長の家の場所くらい俺でも分かるのだが……。

 まあ、俺が知らないと思って親切心で案内してくれるというのだろう。

 俺はそれに甘んじて、ソフィアの後をついて行った。

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