私は一見何の変哲もない高校生、小鳥遊唯と言います。
周りとの違いをあげるとすると、陰キャなこととモテ体質なことです。
モテ体質のせいでなんやかんやあって、共学への進学は難しいということで、女子校に入ることになりました。
そして今日は入学式! 鮮烈な高校デビューを飾り、青春ライフを謳歌するのだ!!
―――息苦しい、つらい、帰りたい
なんで私がこんな所に…場違いも甚だしい。
周りを見渡せばキラキラ女子だらけ。陰キャの私とは全てが対極。
単細胞生物の私なんかが、人間のみなさまと混ざろうなんて無理があったんだ。
ミジンコはミジンコらしく慎ましく生きていこう…グッバイ私の青春…
「あれ南さんじゃない?」
「ほんとだ!かっこよすぎ」
うわっ眩し。凄い美人がいるなぁ、あれが噂の南琴梨さんか。
勉強も運動も完璧で、そして圧倒的なビジュアル。一気にクラスの中心に…凄いなぁ
私とは住む次元が違うな。
ここにいると陽のオーラで私が灰になってしまう。あそこに逃げよう…
―――屋上に来てしまった。
中学のときにお世話になった場所。
生き返るー! 人が少なくとても落ち着く。
今日は無理だったけど明日から陽キャになろう。陽キャに囲まれて生活すれば、自然と脱陰キャできるはずだ。
今はこの音もなく、無限に広がる空に身を任せよう。
あーポカポカ陽気で眠たくなってきたな。これで私の陰のオーラを浄化してくれないかな太陽さん。
屋上で1人を満喫していると誰かが私の世界に入ってきた。
「あの、私も混ぜてもらってもいいかな」
耳を優しく刺激する甘い声のほうを振り返ると、そこには南琴梨さんがいた。
な、なぜこんなところに…いまごろ陽キャ特有のインスタ交換会をしているはずでは!?
「どうしてこんなところに南さんが?」
「ちょっと息苦しくなってね。屋上で息抜きをしようと思って」
意外だ…
「意外だね、慣れてそうだけど」
「そんなことないよ。人の期待を背負ってばかりで、毎日パンクしそうだよ」
てか今私、学年1の人気者と一緒にいるんだよね。ヤバい急に緊張してきた。
面白い冗談とか話とかしたほうがいいのかな?
「疲れてるなら私がハグで癒してあげるよ。小鳥遊セラピーなんちゃって!」
失敗した!!完全にこれではないことだけは分かる。
陰キャすぎてまともな会話の仕方が分からないよ。恥ずかしい、穴があったら入りたい…
この沈黙がとにかく気まずい。
あー誰か私をこのまま突き落として下さいます…ほんと切実に
「じゃあお願いしようかな」
めっちゃ気を使ってますやん。ほんと申し訳ないです。
「じゃあするよ南さん、えい!」
全校生徒のみなさんごめんなさい。私なんかが南さんとハグなんかを。
この事実がバレたらクラスで晒し首にされるよね。
てか私、緊張でめっちゃ汗かいてるけど臭くないよね?
そろそろ離さないと、私なんかが南さんを汚したら…切腹ものだ。
「小鳥遊さんありがとう…凄く癒されたよ」
なんて眩しい笑顔だ!たしかにみんな好きになるわけだ。
…今がチャンスじゃね?学校1の美女と仲良くなれたら、高校生活安泰でしょ。
脱陰キャ…これを逃す訳にはいかない。
「あの!南さん…私と…友達になってください!」
「小鳥遊さん…ありがとう…これからよろしくね」
あっさりokをもらえた。今日で全ての運を使った気がする。
神様ありがとう!!見ててね立派なリア充になるから
「そういえば下の名前まだ聞いてなかった」
「唯、小鳥遊唯です」
「唯ね…改めてよろしく」
「そろそろ教室に戻るけど、唯も遅くならないうちに戻ってきてね」
いきなり名前呼び。これが陽キャ…私にはハードルが高いな。
それにしても南さんは天使のような優しさだなぁ。友達だって実感が全く湧かない。もしかして幻覚?
唯が事の流れが幻覚なのでは?と疑っている一方で、南琴梨は階段で悶えていた。
―――小鳥遊唯…可愛すぎない!?
急にハグとか言われてビックリしたけど、あの優しく包みこむようないい匂い。
全身柔らかくて凄く気持ちよかった。あと顔にずっと胸が当たって……
女の子どうしハグなんて、普通なのになんでこんなにドキドキするんだろう…なんだろうこの気持ち…
唯のことを考えると心音が高鳴ってしまう。
***
もう放課後か…結局友達は1人しか出来なかったな。受動的でいたら友達は出来ないよね。
まあ南さんと友達になれただけで、お釣が貰えるくらい凄いことなんだけど。
自分から周りの人に『友達になってください』なんて言えたら今頃陰キャなんてやってないし。
それにしても南さんの周りにはもう人だかりができてる。私も輪に入れば自然と溶け込むことが出来るかな?
いや誰からも気づかれずに終わるのがオチだ…
机に突っ伏し自己嫌悪に陥ってると、視界が暗くなる。誰かが私の前に立っているようだ。
目線を上げると南さんが私の顔を覗き込んでいた。
ビックリして思わず飛び上がってしまった。
な、何か話すべきか?でも…
南さんがいると自然と視線が集まってくる。私はその光景に萎縮してしまい、開きかけた口が固く閉ざされてしまった。
すると彼女から話しかけてきた。
「どうしたの唯?一緒に帰ろ」
「へ?」
思わずマヌケな声をだしてしまった。
「なにキョトンとしてんの。早くしないと置いていくよ」
そう言うと彼女は教室から出てしまった。
私も急いで荷物をまとめて教室を飛び出した。
早足で南さんに追いつき、疑問をぶつけた。
「どうして私なんかを帰りに誘ったの」
「なんでって、私たち友達でしょ?」
その言葉を聞いた私は全身に衝撃が走ったような気がした。
言葉どうしでの『友達』ではなく、目に見える形としての『友達』を知ったからである。
「私たち友達なんだよね」
「そうだね、友達だね」
「そっか…私と南さんは友達」
今まで抱いていた緊張や不安、そして中学のときのこと。全ての感情がぐちゃぐちゃなって、思わず涙を溢してしまった。
最悪…子どもみたいな泣きかたしてるし。今の私絶対ブサイクだし。
すると彼女は私の涙を手で払い、そのまま強く手を握ってくれた。
「いまは嫌なこと全部忘れて、私と帰ることに集中して。そうすれば楽しい気持ちになれるでしょ」
小さく頷き、私が少し落ち着くのを待ってから帰路に向かった。
途中なんども南さんが話しかけてくれたけど、私はなにも返すこともなく、自分から話すことも出来ずにいた。それでもずっと手を繋いでくれた。
「もうすぐ家だから大丈夫。送ってくれてありがとう…」
「いいよ、私が勝手にしてることだから。それより明日は元気な唯を見せてね!それじゃあまたね」
そうして彼女は元気よく手を振り走って帰っていった。私はただ見つめることしかできなかった。
***
その日の夜、私はベッドの上でボーッと天井を見ていた。
今日は南さんに、たくさん迷惑をかけてしまった。一応謝っておかないと。
唯は滅多に開かないLINEを開き、恐る恐るメッセージを送った。
『今日はみっともない姿を見せてしまい、大変申し訳ございませんでした。これからはこのようなことで、迷惑をかけないよう精進していきます』
ピロン
『大丈夫だよ!明日からよろしくね』
なんて暖かい人なんだ!!
家族以外からのメッセージに感動してひたすらニヤニヤする小鳥遊唯であった。
こうして小鳥遊唯の新たな学校生活がスタートしたのであった。
だがこのときの小鳥遊唯はまだ知らない。美女による百合ハーレムに巻き込まれることを…
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