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暫く宛もなく歩きながら移動していたものの、ふとギルバートはある場所にエリスを連れて行こうと思いたつ。
「エリス、行きたいところがあるからリュダに乗って移動しよう」
「……はい」
もう何度かリュダの上に乗っている事もあり、乗り降りがスムーズになったエリスはギルバートの言葉に頷くと彼の手を借りてリュダの上に跨り、間髪いれずにエリスの後ろに座ったギルバートは手綱を握って何処かへ向かってリュダを走らせ始めた。
「あの、何か、お買い物ですか?」
「いや、そういう訳じゃない。お前に見せてやりたい場所があるんだ。エリスなら、きっと気に入ると思う」
それだけ答えたギルバートはそのまま前を見てひたすらリュダを走らせていくので、これは着いてからのお楽しみという事なのだろうと悟ったエリスはそれ以上聞く事をしなかった。
それから数十分、木々に覆われた森を抜けた先には綺麗な花が咲き誇る野原が現れた。
「綺麗ですね」
「なかなかの景色だろう?」
「はい! ここが、私に見せたかった場所ですか?」
「ああ。 お前が教えてくれた丘に比べると大した事は無いかもしれないが、ここも人があまり来ない、落ち着ける場所だ。心を休めるにはいいところだと思ってな」
言いながらリュダを止めたギルバートは先に降りると、エリスに手を差し伸べて降りるよう促した。
そしエリスはリュダから降りると、辺りを見回しながら普段あまり見かけない種類の花が咲いているのを見つけて興味津々で鑑賞する。
そんなエリスを眺めたギルバートはここへ連れてきた事を良かったと喜び、リュダに持ってきた水を飲ませてからしゃがんで休むようにとの意味を込めて身体を撫でてやる。
撫でられたリュダは意図を理解してその場にしゃがんで眠る体勢を取ったので、そんなリュダに寄りかかる形でギルバートも腰を下ろした。
「夕方まで好きに過ごすといい。花を摘んでも構わないし、シートとブランケットを持ってきているから、眠くなったら横になっていてもいい」
声を掛けられたエリスは少し悩むような素振りを見せながらもリュダに寄りかかるギルバートの隣にやって来ると、
「あの、私もここに座っていいでしょうか?」
そう遠慮がちに尋ねた。
エリスの言葉にギルバートは微かに微笑むと、
「ああ、いいぞ」
手招きをして自身の隣に来るよう促した。
「ブランケット、使うか?」
「いえ、大丈夫です。リュダの体温が暖かいですから」
「そうか」
リュダに寄り掛かり並んで座る二人。
ギルバートは持ってきた本を取り出すとそれを開いて読み始める。
一方エリスはというと、腰を下ろした場所からすぐ横に生えている草花を眺めたり、空を見上げたりと自然を満喫しているようで笑顔を滲ませている。
それから三十分程過ぎただろうか、自然を堪能したエリスはだんだん眠くなってきたのか、何度か小さな欠伸をするとそれに気付いたギルバートは、
「眠いなら少し寝た方がいい。夜、あまり眠れていないだろう?」
夜中に何度となく目を覚ましている事に気づいていたギルバートはそう声を掛けた。
「……はい、でも……眠ると、怖いんです」
「悪夢を見る事がか?」
「それもありますし、無いって分かってはいるんですけど……また襲われたらと思うと、どうしても怖くなるんです」
トラウマというものは、そう簡単には消えない。
受けた者の心に、深く刻まれてしまうものだから。
そして、それを他人が癒せる事もなかなか出来ない。
「そうだな、身体の傷はいつか癒えるが、心の傷は消えない……そしてそれは受けた者にしか分からない苦しみだな」
「……はい」
「俺にも、お前の心の傷を全て取り除いてやる事は出来ない。それが凄くもどかしいと感じている」
「ギルバートさん……」
「それでも、俺はお前に寄り添いたい……少しでもお前が安心出来る環境を作ってやりたい。その為にも、もっと、俺を頼ってほしいと思っている」
「私は、今でも十分ギルバートさんを頼りにしていますよ?」
「いや、恐らくお前自身も気付いていないんだろう、お前はまだまだ自分一人で抱えている事が殆どだし、遠慮している事ばかりだ」
「…………」
「誰にも頼らず一人で生きていかなければならない、そういう環境に置かれていたから仕方のない事かもしれない。俺もそうだったから、よく分かる」
「ギルバートさんも?」
「ああ。俺には頼れる人間はほぼいなかったし、自分の力で何とかするしかない状況だったからな。俺が唯一心を許せていたのはリュダだけだった」
言いながら眠るリュダを撫でるギルバート。
エリスは思う。
彼は、どのような人生を歩んできたのだろうと。
けれど、今それを聞くべきではないと感じ、それを口にする事はしない。