目を覚ますと何処かの屋敷の縁側で私は、起きた。何処だろうと思いキョロキョロしていると手元に折り鶴と折りかけの千代紙が落ちていた。どうやら折り紙をしている最中にうたた寝をしていたようだ。いつから眠っていて今は、何時なんだろうと思い、空を見てみるとちょうど夕暮れに入ったばかりの頃合だろうと思った。まずは、この屋敷を順に見て行くことにした。今居る縁側を見ても何もない。屋敷の真ん中にある中庭にも松が有るだけで何も無い。広間になっている所は、本当に何も置いていないし、人が居た形跡も無かった。炊事場を見ても道具が置いているだけで誰もいない。風呂場を見ても水が張っているだけで使った跡もない。最後に仏間らしき部屋を見てみると仏壇は、あったが其の中に居る仏像の形が少し異様だった。阿修羅像の様に腕が沢山有るのは、別にいいが腕の見た目と頭の形が変だった。腕の形が蜘蛛の脚になっていて頭が蛇になっていた。蛇の神様なら沢山居るが腕が蜘蛛になっているものなんて今迄見たことが無いし、これが仏像と言うのも何だか変だ。其れに仏壇の飾り物は、蝶が舞っている姿に見えるように作られ、飾られている。その他の仏具の側面には、蝶の成長の過程が美しく刻まれていた。仏間を見終えたからこの屋敷の周りの探索に取り掛かろう。屋敷の外を出て最初に見たのは、普通の街並みの広い道。その道を進んで行くと十字路に出た。何故か迷うこと無く右側の道に足を進めた。この道の先を行くと鳥居の道、千本鳥居のような道があった。この千本鳥居の道は、何処に続いているのだろうかと思い足を進めてみた。だが、歩いても歩いても千本鳥居の紅い道が続いていた。彼此一時間この道を歩いている中、自分の横を見て見た。鳥居と鳥居の間から見える景色は、入る前の街並みではなく桜並木だ。桜並木から降り注ぐ桜吹雪が鳥居の道の石畳を薄桜色に染めている。そんな所を眺め乍ら、ゆるりゆるりと歩いて行った。ずっと見ていると桜の頭の所々が葉桜になっているのを見た。足を進めて行くと共にどんどん青葉が増えて行き、遂には、夏の桜の景色になって行った。夏の陽射しが差し込んで地面が緑色の曼荼羅模様になっている。鳥居の石畳にも鳥居の影と共に木の葉の曼荼羅模様が写っている。桜の木々の幹には、蝉達が停っている。蝉達の声が耳をつんざくように入って来る。ワシャワシャと一生懸命になって鳴いている。夏の景色になっているのに鳥居の内側は、本当に涼しい。そんな事を考え乍ら歩いて行くとどんどん空が夜の帳を下ろしてきた。蝉達の声から夏風の声に変わった。風が木の葉を揺らして涼し気で静かな声で「茶摘み」を歌う声がした。その歌を聴いているうちに風の声と共に鈴虫、こおろぎ等の夏虫の演奏会が聞こえ蛍が四方八方飛び回っている。先へ進む事に木々が少なくなり芒が現れてきた。演奏会が終わり芒が風に揺れて芒同士を擦り合う音が聞こえてきた。秋の風物詩の登場だ。芒と鳥居の頭の上に朧月があった。ぼんやりとしている光が鳥居と芒を照らしている。ずっと眺めていると芒の数が一つ二つと消えて行き、灰色と白色の桜が降る世界になっていた。一面真っ白になっていき少し肌寒くなった。冬になったんだと思った。鳥居の頭に真っ白な雪が積もって来ていた。鳥居の隙間にある雪に触れてみた。降り積もって直ぐなのだろう。触ってみるとふわふわとしていて冷たいのに温かさを感じた。その雪を使って雪兎や雪だるまを作って鳥居の横に寄り添う形で置いた。そんな事をし乍ら道を進んだ。先を進んで行く事に雪が降らなくなった。肌寒さも無くなり鳥居の道以外何も無くなった。暫くすると右と左で鳥居が別れていた。迷うこと無く、川の流れのようにすぅっと右に向かって足が動いた。その道の先を見ると最初に見た屋敷の中庭から屋敷の中に通じる道になっていた。鳥居の道を出て中庭に出た。屋敷に入って一つ一つの部屋の中を見て回っても変わりは、無かった。屋敷を出て十字路を目指して走った。十字路迄来て迷うこと無く右側の道へ足が進んだ。やっぱり千本鳥居の道があった。走る足は、止まることなく進み続けた。
紅い鳥居の道。
桜吹雪の春鳥居。
蝉時雨と陽射し曼荼羅の夏鳥居。
月夜の演奏会の秋鳥居。
白銀色の雪の冬鳥居。
鳥居だけの道。迷う事無く、右側の道に進む。最初の屋敷の中庭に出た。また進んだ。同じ事の繰り返し。繰り返し。繰り返し。何処まで進んでも、走っても疲れることが無く、終わりが見えなかった。いつまで続くんだと無意識に頭の中で思い始めた時、変化があった。今迄何十回百回以上と繰り返した十字路の道の右側では無く、左側の道に進む事が出来た。左側の道は、何も無かった。ただただ薄暗い道があった。その先へ進んだ。どんどん空間に自分の身体が溶けていくような気がして心地が良かった……。
目が覚めた。
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