テラーノベル
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吉田仁人の部屋には、毎日必ず目に入る場所がある。
本棚でもない。
テレビでもない。
ベッドでもない。
デスクの端に置かれた小さなトレイ。
その上には指輪がひとつ。
なくしたくないから。
そう言って外ではほとんどつけない。
嘘ではない。
本当に大事だからだ。
指輪を手に取る。
輪郭を親指でなぞる。
そして、気づけば唇が触れていた。
「……何やってんだ俺」
好きな相手にもらった指輪にキスするとか。
重症だろ。
「……ほんと最悪」
苦笑する。
見るたびに思い出す。
渡された日のこと、
笑った顔、
交わした言葉も。
全部。
26歳にもなって、10年以上同じ人を好きでいるなんて。
しかも相手は男で、
同じグループのメンバーで、
きっと一生言えない。
そう思っていた。
指輪を指にはめる。
いつもならしないことだった。
なのに今日は無性にそうしたくなった。
明日からしばらく会えなくなるから。
その時、
『ピンポーン』
突然チャイムが鳴った。
こんな時間に誰だ。
時計を見る。
22時過ぎ。
不思議に思いながらインターホンへ向かう。
モニターを見た瞬間、仁人は固まった。
「……は?」
今、一番会いたくて、
そして一番会いたくなかった人が、そこにいた。
コメント
1件
読み終えました。トレイの指輪から始まる導入、すごく好きです。「なくしたくないから」つけない、でも唇が触れてしまう——その矛盾に、仁人の10年以上の想いがぎゅっと詰まってる。深夜22時に訪ねてくる「一番会いたくて、一番会いたくない人」……もう続きを読まずにはいられません。丁寧な伏線の配置、巧いなあと唸りました。
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