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夕日が街を赤黒く染め上げる頃、アホライダーは重い足取りでワンルームの和室へと戻った。
畳の上には、かつて「自分」を脱ぎ捨てようともがいた痕跡が、無残に散らばっている。
引き裂かれた本、ひっくり返った家具、粉々になった置物。彼はその残骸を片付けることもせず、ただ唯一形を保っている「こたつ」の前に腰を下ろした。
そしてタバコに火をつけ、窓から差し込む夕日が、銀色の仮面に長い影を落とした。
「……また、一日が終わったか。面倒なことだ」
彼は食事も睡眠も取らず、ただ沈みゆく太陽を、複眼の奥でじっと見つめ続けていた。
同じ頃、火野はコンビニで激辛カレーとタバコ、そして発泡酒を買い込み、1DKの洋室アパートへと帰宅した。
まずはシャワーの熱い湯で、今日一日浴びた不浄な空気を流し落とす。湯上がり、電子レンジから漂う暴力的なスパイスの香りを嗅ぎながら、彼女は発泡酒のプルタブを開けた。
テレビから流れる無意味なニュースをBGMに、舌を刺すようなカレーを胃に流し込む。
ふと、視線がクローゼットへ向かった。
彼女は吸い寄せられるように扉を開け、黒いケースに入ったままのギターに手を伸ばす。指先が冷たい生地に触れた瞬間、ユリの笑顔がフラッシュバックした。
火野はそっと手を引っ込め、扉を閉めた。発泡酒のボトルを掴む彼女の手は、微かに震えていた。
一方、葉弐は帰り道の自動販売機を一軒一軒チェックして回っていた。
「おっ、ここにも! よし、さらにこっちも……!」
結果、二千五百円という大金を釣り銭口から収穫し、彼は小躍りした。
「効率的すぎる! 」
ホクホク顔でスーパーに寄り、ピーマンとひき肉、サイダー、コーヒー、ウイスキーを購入して1Kの自室へ戻る。
部屋の棚には特撮フィギュアが整然と並び、DVDや漫画がぎっしりと詰まっていた。
キッチンに立ったものの、急に調理が面倒になった彼は、ボウルに張った氷水に生のピーマンを叩き込み、そのままシャワーへと直行した。
風呂上がり、床に冷えたピーマンと特大のジョッキを置く。
ジョッキにサイダー、コーヒー、ウイスキーを適当にぶち込んだ「魔改造ドリンク」を流し込み、生のピーマンをバリバリと齧りながら特撮漫画をめくる。
「……ん、苦い。けど、これが効率的な晩餐なんだよ」
その頃、街のバーに高良雅之の姿があった。
カウンターの端でグラスを傾けていた彼は、隣の席の中年女性が吐き捨てた言葉に耳を止めた。
「……信じられないわよ。赤い目をした不審なスーツの男に、いきなり襲われたの」
高良が静かに立ち上がり、女性に声をかける。
「失礼、お姉さん。その赤い目の男……どこで会いました?」
女性は「あら、いい男ね」と顔を綻ばせながら、不満をぶちまけた。
「昨日、公園でホームレスの炊き出しをしてたのよ。そしたらアイツに邪魔されて、せっかくの善意を台無しにされたわ」
別の客が横から口を挟む。
「ああ、あの怪人だろ? アイツなら、いつもあの公園にいるよ」
高良の口角が、静かに、鋭く上がった。
「……ついに掴んだぜ」
彼はチップを置き、風のように店を出た。
翌朝、午前五時。
高良は招集した五人の構成員を、街に点在する五箇所の公園へと配置した。
「ターゲットが姿を現したら、即座に知らせろ。手出しはするな、俺が行く」
そして午前七時。
公園の入り口に、アホライダーと火野の姿が現れた。
植え込みの影に潜んでいた構成員が、赤い複眼を確認すると同時にスマートフォンを取り出す。
「高良の兄貴、来ました。ターゲット確認」
「……そうか。逃がすなよ、すぐに行く」
高良は愛車のバイクに跨り、エンジンの咆哮を上げた。
朝の冷たい空気を切り裂きながら、決戦の地へと疾走する。