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その日の夜。
こさめは職員寮のベッドに寝転がりながら、天井を見つめていた。
🦈「……知られたくない、かぁ」
頭の中ですちの声が何度も繰り返される。
優しい笑い方。
穏やかな声。
時々見せる、諦めたみたいな目。
考えれば考えるほど、分からなくなる。
本当に悪い人なら、どうしてあんな顔をするんだろう。
🦈「……うわぁぁ、もうわかんない!」
枕に顔を埋め、ばたばた足を動かす。
看守が死刑囚のことばっか考えてるなんて、絶対だめなのに。
でも気になってしまう。
知りたい、と思ってしまう。
その時だった。
コンコン、と部屋の扉が鳴る。
「こさめ、起きてるか」
先輩看守の声。
🦈「は、はい!」
慌てて起き上がり扉を開けると、先輩は少し難しい顔をしていた。
「……担当の死刑囚について、余計な詮索はするなよ」
こさめの心臓が跳ねる。
🦈「え」
「お前、顔に出やすいから分かりやすいんだよ」
図星だった。
こさめは気まずそうに目を逸らす。
先輩は小さくため息をつく。
「死刑囚に情を移すな。それが一番危険だ」
🦈「……」
「特に、あいつには」
その言い方に、こさめは顔を上げた。
🦈「あの、すちさんって……」
「知らなくていい」
ぴしゃりと言い切られる。
いつもの軽い雰囲気じゃない。
こさめは唇を噛んだ。
🦈「……でも」
「こさめ」
低い声。
先輩はしばらく黙ったあと、ぽつりと呟く。
「あいつがここにいるのには、ちゃんと理由がある」
それだけ言い残し、先輩は去っていった。
残されたこさめは、動けなかった。
ちゃんと理由がある。
その言葉が重く胸に沈む。
優しい人に見える。
でも、本当に優しい人なら、ここには来ない。
分かってる。
なのに——。
翌日。
見回りの時間になっても、こさめの足取りは重かった。
独房の前に立つ。
中ではすちが本を読んでいた。
こさめに気づくと、ふわりと笑う。
🍵「おはよ」
🦈「……おはようございます」
元気がない声。
すちはすぐ気づいたらしい。
🍵「どうしたの」
🦈「……別に」
🍵「嘘だぁ」
くすくす笑う声。
その優しさが、今日は少し苦しかった。
こさめは視線を逸らす。
🦈「……すちさんって」
🍵「ん?」
🦈「本当に、本当に、悪いことしたんですか」
静寂。
空気がぴたりと止まる。
すちは何も言わなかった。
こさめはしまった、と思ったけれど、もう遅い。
しばらくして。
すちは静かに本を閉じた。
🍵「……したよ」
短い返事。
こさめの胸がずきりと痛む。
🍵「人も傷つけた」
淡々とした声だった。
感情を押し殺したみたいな。
🍵「だから、ここにいる」
こさめは言葉を失う。
否定してほしかった。
冗談だよって笑ってほしかった。
でも、すちは嘘をつかなかった。
🦈「……そっか」
やっとそれだけ絞り出す。
するとすちは少し困ったように笑った。
🍵「幻滅した?」
その問いに、こさめはすぐ答えられない。
怖い。
でも。
それ以上に——。
🦈「……して、ないです」
気づけば口にしていた。
すちの目がわずかに見開かれる。
🦈「だって、こさめ」
鉄格子をぎゅっと掴む。
🦈「まだ、すちさんのことちゃんと知らないから」
まっすぐな言葉だった。
すちはしばらく黙っていた。
やがて、小さく笑う。
だけどその笑顔は、今までで一番苦しそうだった。
🦈「……ほんと困るなぁ、こさめくん」