テラーノベル
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放課後の昇降口。
ある少年が、自分の靴箱の前で立っている。
華と同じく一年生の、佐々木莉音(ささき りお)だ。
彼は、スマートフォンを眺めている———のではない。
全神経を背後へ集中させていた。
(おかしい)
(師匠、いつもなら十六時三分前後にはここを通るのに)
(まだ来ない)
(……え、なに? トラブル? 事故? それとも俺に黙って転校とかしてないよね?)
(いや無理。それは精神がもたん)
くるみ色のマッシュヘアを揺らしながら、莉音はじわじわと焦りを募らせていく。
彼にとって、“朔晦華”を目で追うことは日常だった。
いや――生きる意味そのものだ。
スマホには隠しフォルダが存在する。
そこには華の行動記録が分単位で保存されていた。
もはや「観察」などという可愛い言葉では到底足りない。
これは紛れもない、熱狂的な信仰だった。
佐々木莉音。
彼もまた、この街の裏社会に生きる殺し屋だった。
そして、殺し屋“バド”こと朔晦華の弟子。
さらに言えば――
「好きだ」
バドのことが。
かなり重めに。
「ねえ、佐々木くんだよね?」
「連絡先交換しない?」
「インスタやってる?」
突然、背後から黄色い声が飛んできた。
振り返れば、他クラスの女子生徒たちが頬を染めながら莉音を囲んでいる。
(あー……またこれ)
入学以来ずっと続いている、“顔だけで人生イージーモード男子”扱い。
だが本人は、まるで興味がない。
「やってない。てか誰?」
即答。
無感情。
完全シャットアウト。
「きゃー! 塩対応!」
「でもそこがいい~!」
むしろ女子たちは盛り上がっていた。
莉音は内心で深いため息をつく。
(モブが俺の視界に入ってくんなよ)
――その時だった。
階段の上から、空気が変わる。
(来た……!!)
白銀の髪。
藍色の瞳。
莉音の心臓が跳ねる。
(師匠……♡)
だが次の瞬間。
その隣に、ポニーテールの少女が並んでいるのが見えた。
(……は?)
(誰?)
(なんで師匠と並んで歩いてんの?)
胸の奥に、じわりと黒い熱が広がる。
莉音は女子生徒たちを振り払うように歩き出した。
二人が向かった先は、校舎の隅にある古びた教室だった。
【書道部室】
教室のドアに張り紙が貼られていた。
(書道部……? 師匠が?)
#成長
ももは
551
#女体化
足将軍
1,306
11
(いや待て。師匠ってこういうの入るタイプじゃないだろ)
(でも……さすがに入部までは———)
その瞬間。
扉越しに、決定的な言葉が聞こえた。
「華ちゃん、書道部に入部してくれて本当にありがとう~!!」
「……いえ、そんな」
(…………)
莉音の思考が停止する。
(入部してるじゃねーかーーーッ!?)
(いや待て!)
(あの女に唆されたに違いない!!)
ガラッ!!
気づけば、勢いよく扉を開け放っていた。
「師匠!!!! その女に惑わされてはいけません!!」
部室に響く悲痛な叫び。
普通なら、一つ上の先輩相手に放つ言葉ではない。
空気が凍ってもおかしくない失言だ。
だが――
「ええええーーーっ!入部してくれるのーーーー!?」
(書道部の扉を開ける=入部希望者!!)
(つまり部員が増える=廃部回避!!)
(勝った!!!)
望月乃愛の脳内では、まったく別の方程式が完成していた。
「は?」
「……は?」
莉音はもちろん、華ですら困惑する。
どう考えたらその結論に至るのか。
「よしっ!」
乃愛は小さくガッツポーズを決めた。
その横で、華が静かにため息をつく。
「私は部長の望月乃愛! よろしくね!」
「お前の自己紹介なんか求めてねーよ!!」
「ちょっと、莉音!」
華の制止も聞かず、莉音は乃愛へ詰め寄る。
「俺は師匠を救いに来たんだ!!」
「師匠って……あっ、華ちゃんのこと?」
「じゃあ君、華ちゃんの弟子なの?」
乃愛が不思議そうに問う。
「そうだ。今はな」
食い気味に答えたあと、莉音は胸を張った。
「だが俺は――師匠の将来の夫になる者、佐々木莉音だ!」
「違います。先輩、真に受けないでください。ちょっと、この人厨二病で…」
華の否定なのかフォローなのかよくわからない言葉が飛ぶ。
だが乃愛はまったく気にしていなかった。
むしろ頬を染めている。
(莉音くん……! そんなに華ちゃんのことが……!)
(青春だ!!…♡)
そして、乃愛は莉音に明るく提案する。
「書道部に入れば、華ちゃんと放課後ずーっと一緒にいられるよ?」
「――っ!!」
莉音の目が見開かれる。
「確かに……!!」
露骨に食いついた。
乃愛はニヤリと笑う。
(ふふふ。これで書道部は安泰……!)
(私、天才かもっ!)
乃愛が天才なのか。
それとも莉音が単純すぎるのか———。
たぶん後者である。
「じゃあ、莉音くんも入部してくれるんだよね?」
「……まぁいいぜ」
莉音は腕を組みながら言った。
「だが! 師匠に近づいたら殺す!」
「分かった! 気をつけるね!!」
つい今しがた、本職の殺し屋から殺害予告を受けたとは思えない反応だった。
こうして――
華と莉音は、若干の騒動の末、無事に(?)書道部へ入部することになったのである。
コメント
3件
うわあ、莉音くんめっちゃ重い!「信仰に近い執着」って表現がしっくりきすぎて笑った。あの「師匠の将来の夫になる者」と名乗るシーン、華さんの「厨二病」フォローも含めて最高です。乃愛先輩の脳内方程式もズレまくってて可愛いし、書道部がどうなるのか気になる。次も読みたい!