テラーノベル
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放課後の昇降口。
ある少年が、自分の靴箱の前で立っている。
華と同じく一年生の、佐々木莉音(ささき りお)だ。
彼は、スマートフォンを眺めている———のではない。
全神経を背後へ集中させていた。
(おかしい)
(師匠、いつもなら十六時三分前後にはここを通るのに)
(まだ来ない)
(……え、なに? トラブル? 事故? それとも俺に黙って転校とかしてないよね?)
(いや無理。それは精神がもたん)
くるみ色のマッシュヘアを揺らしながら、莉音はじわじわと焦燥感を募らせていく。
彼にとって、“朔晦華”を目で追うことは日常だった。
いや――生きる意味そのものだ。
スマホには隠しフォルダが存在する。
そこには華の行動記録が分単位で保存されていた。
もはや観察ではない。
信仰に近い執着である。
佐々木莉音。
彼もまた、この街の裏社会に生きる殺し屋だった。
そして、殺し屋“バド”こと朔晦華の弟子。
さらに言えば――
「好きだ」
バドのことが。
かなり重めに。
***
「ねえ、佐々木くんだよね?」
「連絡先交換しない?」
「インスタやってる?」
突然、背後から黄色い声が飛んできた。
振り返れば、他クラスの女子生徒たちが頬を染めながら莉音を囲んでいる。
(あー……またこれ)
入学以来ずっと続いている、“顔だけで人生イージーモード男子”扱い。
だが本人は、まるで興味がない。
「やってない。てか誰?」
即答。
無感情。
完全シャットアウト。
「きゃー! 塩対応!」
「でもそこがいい~!」
むしろ女子たちは盛り上がっていた。
莉音は内心で深いため息をつく。
(モブが俺の視界に入ってくんなよ)
――その時だった。
階段の上から、空気が変わる。
(来た……!!)
白銀の髪。
藍色の瞳。
莉音の心臓が跳ねる。
(師匠……♡)
だが次の瞬間。
その隣に、ポニーテールの少女が並んでいるのが見えた。
(……は?)
(誰?)
(なんで師匠と並んで歩いてんの?)
胸の奥に、じわりと黒い熱が広がる。
莉音は女子生徒たちを振り払うように歩き出した。
***
二人が向かった先は、校舎の隅にある古びた教室だった。
【書道部室】
(書道部……? 師匠が?)
(いや待て。師匠ってこういうの入るタイプじゃないだろ)
(でも……さすがに入部までは――)
その瞬間。
扉越しに、決定的な言葉が聞こえた。
「華ちゃん、書道部に入部してくれて本当にありがとう~!!」
「……いえ、そんな」
(…………)
莉音の思考が停止する。
(入部してるじゃねーかーーーッ!?)
(いや待て! あの女に唆された可能性が――!!)
ガラッ!!
気づけば、勢いよく扉を開け放っていた。
「師匠!!!! その女に惑わされてはいけません!!」
部室に響く悲痛な叫び。
普通なら、一つ上の先輩相手に放つ言葉ではない。
空気が凍ってもおかしくない失言だ。
だが――
「ええええーーーっ!入部してくれるのーーーー!?」
(書道部の扉を開ける=入部希望者!!)
(つまり部員が増える=廃部回避!!)
(勝った!!!)
望月乃愛の脳内では、まったく別の方程式が完成していた。
「は?」
「……は?」
莉音はもちろん、華ですら困惑する。
どう考えたらその結論に至るのか。
「よしっ!」
乃愛は小さくガッツポーズを決めた。
その横で、華が静かにため息をつく。
「私は部長の望月乃愛! よろしくね!」
「お前の自己紹介なんか求めてねーよ!!」
「ちょっと、莉音!」
華の制止も聞かず、莉音は乃愛へ詰め寄る。
「俺は師匠を救いに来たんだ!!」
「師匠って……華ちゃんのこと?」
「じゃあ君、華ちゃんの弟子なの?」
「そうだ。今はな」
食い気味に答えたあと、莉音は胸を張った。
「だが俺は――師匠の将来の夫になる者、佐々木莉音だ!」
「違います。先輩、真に受けないでください。ちょっと、この人厨二病で…」
華の否定なのかフォローなのかよくわからない言葉が飛ぶ。
だが乃愛はまったく気にしていなかった。
むしろ頬を染めている。
(莉音くん……! そんなに華ちゃんのことが……!)
(青春だ!!…♡)
そして、こう放った。
「書道部に入れば、華ちゃんと放課後ずーっと一緒にいられるよ?」
「――っ!!」
莉音の目が見開かれる。
「確かに……!!」
露骨に食いついた。
乃愛はニヤリと笑う。
(ふふふ。これで書道部は安泰……!)
(私、天才かもっ!)
乃愛が天才なのか。
それとも莉音が単純すぎるのか———。
たぶん後者である。
「じゃあ、莉音くんも入部してくれるんだよね?」
「……まぁいいぜ」
莉音は腕を組みながら言った。
「だが! 師匠に近づいたら殺す!」
「分かった! 気をつけるね!!」
つい今しがた、本職の殺し屋から殺害予告を受けたとは思えない反応だった。
こうして――
華と莉音は、無事に(?)書道部へ入部することになったのである。
コメント
3件
うわあ、莉音くんめっちゃ重い!「信仰に近い執着」って表現がしっくりきすぎて笑った。あの「師匠の将来の夫になる者」と名乗るシーン、華さんの「厨二病」フォローも含めて最高です。乃愛先輩の脳内方程式もズレまくってて可愛いし、書道部がどうなるのか気になる。次も読みたい!
ももは
#TS
きょむに生まれたプリン