夕方、施設の古い倉庫。誰もいない時間帯
南と春香は、備品の確認で倉庫の奥に入っていた。
作業を終えて出ようとしたとき、ドアがガタンと音を立てて閉まった。
春香がノブを回す。動かない。
「……え、閉まった? ちょっと待って、開かないんだけど」
南も試してみるが、鍵が内側からかかってしまったようだった。
外には誰もいない。スマホも圏外。
窓は高くて、外に声を届けるのも難しい。
「まあ、誰か来るまで待てばいいか」
春香が腕をさすっているのを見て、南は黙って自分の上着を脱いだ。
何も言わずに、春香の肩にそっとかける。
「……ありがとう。南ちゃん、優しいね」
南は何も言わず、ドアの方を見つめていた。
しばらく沈黙が続いたあと、南がぽつりとつぶやく。
「……壊せるかもしれません」
春香が目を丸くする。
「え? いやいや、無理しなくていいよ。誰か来るって」
「でも、春香さん、寒そうです」
南は、ドアの前に立つ。
体格は細くて、どこか頼りなさそうに見える。
南は深く息を吸い、肩をぐっと入れて、一気に体重をかけてドアに突っ込んだ。
鈍い音とともに、古い木のドアが軋み、外側に押し開かれる。
春香は、呆然とその光景を見ていた。
「……すごっ……」
南は、肩を押さえながら振り返る。
目を伏せて、少しだけおびえたように言った。
「壊しちゃった……ごめんなさい……」
春香は、驚いたまま数秒黙っていたが、すぐにふっと笑った。
「いや、助かったよ。かっこよかった」
南は、少しだけ照れくさそうにうなずいた。
後日
倉庫の休憩スペース。春香と恒が並んで座って、笑いながら話していた。
南は少し離れた場所で作業中。ひろがペットボトルを片手に入ってくる。
春香「でね、腕さすってたら、南ちゃんが無言で上着かけてくれてさ」
恒「イケメンじゃん。で、ドアぶち壊したんだろ?」
春香「そうそう! しかも“壊しちゃった…ごめんなさい…”っておびえてて、かわいかったんだよね」
ひろは、キャップを開けながらその話を聞いていた。
途中で手が止まる。
恒がふと、ひろの方を見て言う。
恒「なんかさ、南って最近ちょっと…ひろに似てきたよな」
春香「あー、分かるかも。黙って動くとことか、びびりながらも優しいとことか」
ひろは、ペットボトルを持ったまま固まる。
ひろ「……ええ、、(引き)」
恒が笑いながらひろの肩を軽く叩く。
恒「ひろも昔、棚倒して“ごめんなさい…って言ってたじゃん」
ひろ「それは、僕が失敗したんでしょ…」