麗は一歩下がってニヤニヤ笑う明彦を見ていた。
(チョロい太客やん……)
マーラという一匹の子鹿のような可愛らしい動物に夢中になっているパンダ帽子の明彦は、粒らな瞳にせがまれるがまま、餌をやっており、ちょっとずついろいろな動物と楽しもうと思っていた麗はそのあまりの貢ぎっぷりに少し呆れながら写真を撮った。
しかし、そろそろパンダ印の明彦の手元に餌が少なくなってきたので、キャバ嬢にフラれてしまわないよう麗は自分の分と交換してあげた。
「いいのか?」
「ええよ、元々明彦さんが買ってくれたんやし。」
動物を間近で見るのは勿論楽しいが、動物に夢中になっているパンダ彦を見る方が楽しくなっていた。
そんな麗にもそっとアヒルが近づいてきてくれたので、残っている餌を全てあげる。
しかし、すぐに全て食べ尽くしたアヒルに早々に見捨てられ、明彦に視線を戻すと、明彦もまたマーラに袖にされていた。
去っていくマーラのお尻を失恋したような悲しげな顔をした明彦が見ている。
取り敢えず、麗はその姿も写真を撮った。
「鳥のとこ行こー?」
これ以上ここにいれば、明彦は貢ぎまくって借金し、取り立てのヤクザにその美貌を見込まれてホストデビューしそうだ。
源氏名はAKI。
甘い言葉は下手くそだけど、真剣に悩みを聞いてくれるところが人気。一人一人の客に丁寧に接するAKIはついにミナミでテッペンをとり、満を持して歌舞伎町へと進出する。
しかし、そこは全国から選りすぐられたホスト達がしのぎを削る戦場だった。
辛い上下関係、AKIの容姿を僻む同僚からの苛め、そして、枕営業の危機……。
そんな中、開催される日本一のホストを決める大会でAKIは……?
次回、夜の王に俺はなる!!!
(ホスト日本一を決める大会って我ながらなんやろう)
妄想から帰還し、鳥のための温室に入って当たりを見渡すと、雀が何羽かぬくぬくと砂浴びをしている。
「あ、雀いるやん、めっちゃ可愛い」
「雀は野生だぞ」
そういわれてみると、その奥で美しい鳥が肩身が狭そうにしている。
他にもエサ箱を我が物顔でつついている雀に大きな鳥が遠慮していた。
「図太……可愛いね」
そんなこんなで、昼御飯には麗がマグロ丼、明彦がパンダの形になっているご飯がついたハンバーグを選び、折角注文しておきながらパンダの食べ方で悩み、耳からそっと食べている様を見たり、カバにエサの草を投げ入れる体験に参加し、麗はコントロールが下手でカバの口に何度もエサを入れられず、優しい飼育員のおじさんに、本当は投げるのが難しい子供用なんだけどと、細長い草を貰い、やっと食べさせてあげることができたり、ライオンを間近で見て、怠惰に寝転がっている姿に哀愁を感じたり、キリンと同じ目線に立って、その高さに驚いたり、ペンギンの生臭さに現実を思い知らされたりし、動物園を満喫していた間に、すっかり日が暮れていた。
「連れてきてくれてありがとうね。楽しかったわ。」
「おや、もう帰るつもりか?」
「まだ何かあるん?、一通りみたやろ?」
明彦がチノパンのポケットからチケットを取り出した、ドヤ顔で。
勿論、パンダの帽子は被ったままだ。
「ナイトイルカショーだ」
「なん…だと…!」
「賢いイルカのダイナミックなショーを見ずに帰るわけがないだろう」
「……さよか」
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