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レイチェルは心の中で
静かに決意した。
ーソーレンの横恋慕の話題には
なるべく触れないようにしようー
あの時也の表情を見れば
それが最も賢明な選択だと
誰でも理解するだろう。
「⋯⋯それで
私が初めての転生者の来客者⋯⋯
ということで良いですかね?」
努めて明るい声を作り
レイチェルは話題を変えた。
これで少しは空気が和むはず
そう思ったのだが⋯
「⋯⋯レイチェルさんより以前に
転生者の来店はありました
⋯⋯けど」
時也の表情は一瞬で沈んだ。
「⋯⋯?」
(しくじった⋯かしら?)
あからさまに落ち込んだ様子に
レイチェルは戸惑う。
「⋯⋯けど?」
時也は
疲れたように溜め息を吐いた。
「アリアさんを
傷付けるだけ傷付けて……」
その言葉に
レイチェルの背筋がぴんと強張る。
「⋯⋯その上
その方は自分のした事の驚きのあまり
逃げて行ってしまいまして⋯⋯
説得も叶いませんでした」
「⋯⋯えっ」
「店は血塗れの大惨事ですし⋯⋯」
時也の声は次第に沈んでいく。
「⋯⋯お客様は
突然の流血沙汰に
大混乱になりますし⋯⋯」
額に手を当て
今にも頭を抱えそうだった。
「⋯⋯苦し紛れに
ソーレンさんを重力操作で飛ばして⋯⋯」
「えっ?」
「リアルさを求めた
『映画撮影』なんです!
と、装ったり⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
その場の情景が
頭の中に鮮明に思い浮かんだ。
ー店内は血の海ー
ーお客様たちの悲鳴と混乱ー
ー宙を飛び不器用に誤魔化すソーレンー
ー「これも撮影の演出です!」
と説明する時也ー
(⋯⋯それは、もう
大惨事というか⋯⋯
大災害だわ⋯⋯)
レイチェルは
思わず口を押さえた。
「⋯⋯大変だったのです」
最後に時也がぽつりと呟いた言葉には
心底の疲労が滲んでいた。
レイチェルは何も言えず
ただ申し訳なさそうに微笑んだ。
「⋯⋯ご苦労様でした」
その言葉しか出てこなかった。