テラーノベル
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取材の次はグループでの収録だった。ロケバスで移動になる。
機材車から一足先に出たスタッフが、座席をざっと確認して言った。
「3列目より後ろで、各自好きなところに座ってくださーい」
柔太朗は迷わず中程の列の窓際へ腰を下ろした。イヤホンを手の中で転がしながら、窓の外をぼんやり眺めている。
マネージャーとスケジュールを確認した後、最後に乗り込んで車内を見渡す。メンバーは固まらずにあちこち点在して座っていた。
眠りたい気分ならみんなから離れた席にするし、喋りたいときは最後列の広い横並びの席に誰かと座るのが定番だった。
ワゴンなら仕方ないにしろ、バスの2人席に並んで座るのは少し手狭で、メンバーの中で暗黙の了解のようになっている。
だから全ての通路側が空いていた。
もちろん柔太朗の隣も。
そう思って、一瞬だけ立ち止まる。
他にも空いている席はいくつもある。
最後列も、一人で座れる窓際も。
迷って、結局、何でもない顔で柔太朗の隣へ腰を下ろした。
「おっ」
柔太朗が少し驚いたように、こちらに顔を向ける。
「はやちゃんもここ座る?」
「空いてたし」
「そっか」
それだけ言って、また窓の外へ視線を戻した。
全員座ったことを確認して、バスがゆっくり走り出す。
しばらくすると、柔太朗は窓ガラスに頭を預けた。
朝から動きっぱなしだったせいだろう、静かに目を閉じている。
赤信号で車体が前に揺れながら停止する。
そのたびに力を失った柔太朗の頭が少しだけ肩に触れる。
不規則に揺れるバスに合わせて離れて、また触れる。その繰り返しだった。
柔太朗は眠ってしまったらしく、全く気付いていない。
俺だけが肩に残るその温度を意識していた。
窓の外を見ても、スマホを見ても、結局意識は隣へ戻ってしまう。
少しだけ姿勢をずらせば離れられる。そう思って、一度だけ肩に力を入れた。
それでも結局、そのままだった。
⸻
収録の合間、舜太が2人きりになったタイミングを見計らったように話かけてきた。
「なあなあ」
「ん?」
「はやちゃんさぁ、最近柔の隣ばっかおらん?」
ぶふっと飲んでいた水を吹き出しそうになる。
「は?」
「今日もやん。」
「……」
「広いバスやで?わざわざ隣座っとるやん」「相談したいことがあったんだよ」
眠りひめ
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7,174
1,134
「ほんまにぃ?」
「それ以外どんな理由があんだよ」
「メイク室でも隣じゃなかった?」
舜太はニヤニヤしている。
揶揄われてる。この年下の末っ子に。
「気のせいだろ」
「ふーん?」
それ以上は何も言わない。
でも、気のせいだと、そう言った自分の声が少しだけ弱かった気がした。
⸻
スタジオを出ると、スタッフやメンバーが一斉にエレベーターホールへ向かう。
「閉まりまーす!」
大人数用の広いエレベーターへ、みんなが一気に乗り込む。
少し遅れて柔太朗が入ろうとした、その時。
大きな機材を体の前に抱えているスタッフとぶつかりそうになる。
考えるより先に手が伸びた。
細い手首を掴んで自分の方へ引いたら、その体が思ったより軽かったのか、それとも自分の引っ張る力が強かったのか、俺の胸に飛び込む形になってしまった。
柔太朗は目を丸くして、
「あ…っ、ごめん」
と、照れたように笑う。
「ぶつかるとこだったわ、ありがとね」
そう言ってすぐに離れた。
気を付けてと言ったのか言ってないのか、もう思い出せない。
また明日、と別れたあとになって、握り込んでしまった細い手首の感触と、胸に受け止めた華奢な体と、甘い香りだけが蘇ってきた。
手を開いて、握ってみる。
何を確かめたいのか、自分でも分からなかった。
コメント
2件
あんりさん、第10話拝読しました〜!😭💕 バスの中で柔太朗くんの頭が肩に触れるたびにドキドキしちゃうはやちゃんの心情、めっちゃ伝わってきました…!「気のせい」って言いながらも離さなかった手加減がもう…エモすぎる!!舜太くんのニヤニヤもツボです🤭そしてエレベーター前のシーン、胸に飛び込んだ瞬間の甘い香りと細い手首の感触…これはもう恋確定説ある…!!次回も楽しみにしてます🌸