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「ビックリした」
すると、彼女は抑えつけていた手を放してそう呟く。
「何が」
「いきなり現れてあんなこと言うから」
「こっちこそビックリしたんだけど。目の前で口説かれてて」
生きた心地しなかった。
一番見たくなかった光景がまた目の前で起きてたんだから。
「口説かれてなんか・・」
「同じようなもんでしょ。あの人絶対透子に未練あって何か言おうとしてた」
あれを否定しても無理あるし。
口説く以上のことあの男は言おうとしてた。
オレがあの時止めなかったらどうしてたの?
あのままあなたはその誘いに乗ってたの?
「うん・・・。でも私はもう戻る気ないから」
だけど、彼女はオレの気持ちに応えるかのような言葉を返す。
彼女からハッキリそう言われて少しホッとする。
「当然。今透子はオレのモノなんだから。誰にも渡す気ないし」
だけど、それはあなたにもわかっておいてもらわないと。
「それ。もういいよ。あの人今もういないから」
「あの人?」
あの男をそう呼ぶことだけでもなんかムカつく。
「え? 涼、さん・・」
だけど名前で呼ぶのはもっと腹が立つ。
「オレの前でも、オレのいないところでも透子が他の男といるのは嫌だ」
あなたが他の男の名前を呼ぶのも、一緒にいるのも、オレは嫌でたまらない。
オレがいる前でそんなの見たくもないし、かといってオレのいないところでだってそんなの耐えられない。
あなたが付き合っている感覚を持っていないことなんてわかってる。
だけど、もうオレはそれを確かなモノにしたい。
もうそろそろあなたにちゃんとわかっていてほしい。
オレがそういう気持ちだってこと。
「何、彼氏みたいなこと言ってくれて。あっ、ありがとね。彼氏のフリしてくれて」
はぁ・・・。
やっぱり。
そんなことだろうと思った。
いざそうやってストレートに言葉にされると落ち込みそうになる。
そこまでこの人はオレを意識していないのかと。
それどころか、そうやって言ってまだオレに距離を作っているのかと。
「フリ? ・・何それ。オレは付き合ってるつもりだけど。だから彼氏としてそのまま思ってること伝えただけ」
あまりにも進展しそうにないこの状況にイラついて、オレは素直に今の気持ちを伝える。
あなたの気持ちがまだ追いついてないとしても、付き合うのはありでしょ?
ゆっくり追いついてくれればいい。
だけど、もうあなたはオレのモノだって、あなた自身にちゃんと意識しておいてもらわないと、不安で仕方ない。
今みたいにあなたはどこでどうなるかわからない。
カタチだけでもあなたを繋ぎ止めておかないと。
「透子は違うの?」
答えはわかっていても、つい彼女に問いかけてしまう。
「だってそんなこと一言も・・・。本気にさせ合うだけって・・・」
だよね。
言葉にしないと、あなたはきっとそう思ってるんだとわかってた。
だから今こうやって言葉にしているんだよ?
あなたがちゃんと実感してくれるように。
「キスもして、本気にさせ合うだけって、オレそんないい加減じゃないし。そこまでの話になったら付き合って当然でしょ?」
全部説明しなきゃわからないなら、全部説明してあげる。
オレがいい加減じゃないってこと。
オレ的にはどのタイミングからでも付き合ってるってことに出来るけど。
だけど、きっとあなたはきっかけだったり、そのちゃんとしたタイミングを納得してそう認めたいだろうから。
「ちょっ、聞こえる・・!」
「なんで?キスしたこと? オレは誰に聞かれてもいいし逆に聞かせて他の男近づけさせたくないくらいだけど。オレのモノだから手を出すなって」
そういうとこ照れるとこも可愛くて仕方ないけど、実際オレ的には隠しておきたくないんだよね。
オレ的にはもうあなたはオレのモノだと思ってるから。
あなたにも、周りのヤツらにも、ちゃんとそれを知らせておきたい。
「信・・じていいの?」
だけど、彼女はここまで言ってもまだ自信なさそうに確認してくる。
「当たり前じゃん。逆になんで信じないのかがオレはわかんないけど」
どこまで言えばこの人は信じてくれるのだろう。
オレ的にはもう十分あなたへの気持ちを伝え続けているのに。
何が問題?
始まり方?言葉のチョイス?
オレ的には最初からあなたには真剣に向き合っているのに。
あなたの中で何を片付けていけば納得してくれるの?
まぁ、彼女にしたら自分が軽く言った提案に乗っかって始まった関係みたいなモンだから、不安になるのも仕方ないのかな。
でも、最初からオレが”あなたが好きです。付き合ってください”と言ったところで、きっとあなたは全く相手にしなかったはずだから。
どんな男かもわからない、あなたと年が離れたこんなヤツにきっとあなたは最初から眼中にもないだろうし、惹かれもしなかったはずだから。
だからオレはあんな出会い方や始め方じゃないと仕方なかったんだ。
あなたが少しずつオレを知っていってもらえるには、あぁするしかなかったんだ。
だけど、オレのあなたへの気持ちは本物だから。
それだけは確かだから。
「ホント信じて大丈夫だから」
だから、オレはその一言に全部の想いを込めて優しく微笑んで伝えた。
今更全部説明するのもカッコ悪いし、全部オレの想いを伝えきれないから。
だから、この言葉で安心して信じてほしい。
「わかった。信じる」
すると、ようやくオレの想いが通じたのか彼女はそう応えてくれた。
「よろしい」
そう。あなたはオレを信じてくれればそれでいい。
「ちゃんと樹って呼べたのもよく出来ました」
オレに対して素直にならずに意地張るとことか、照れて戸惑うとことか、今まで見つめているだけでは知ることが出来なかった彼女の新たな魅力。
だけど、きっとそれは、オレにだけ見せてくれる彼女の姿。
ずっと大人で頼りがいあるオレには手の届かない人だと思っていたのに。
オレといる時は、こうやって可愛い姿を見せてくれる。
そんな時は、年齢とかそういうのも関係なく、ただただ可愛くて愛しく感じる。
そして、この愛しい人をオレが守ってあげたいと、そう思う。