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「ただいま!」


「あら、雅史、どうしたの?こんな時間に。一人?」


杏奈は俺を男として見ていない、俺のことを愛していない、そう考えていたら家にいるのが窮屈になって、仕事帰りにそのまま実家に帰ってきた。


「あのさ、しばらくここにいてもいいかな?」


「なによ、杏奈さんと何かあったの?うちはいつまでいても構わないわよ、あなたの実家なんだし。いずれは同居もって考えているんだから」


_____同居か……なんかそんなことも言ってたな


今の杏奈との状況を話したら、なんと言うだろうか。


離婚したいわけではないけれど、このまま夫婦でいることに疑問があると説明して理解してくれるだろうか。


「ご飯、簡単なものしかできないわよ、連絡もしないで帰ってくるんだから」


「あー、別になんでもいいよ」


リビングでは親父がテレビを見ていた。


俺が来たことに気づいてもいないようで、振り返ることもない。


「な、親父、また耳が遠くなったのか?」


「そうよ、会話もしにくいんだから。集音器ってやつを買ってみたけど嫌がって使わないのよね」


使い込まれたダイニングテーブルには、味噌汁と肉じゃがと漬物が出てきた。


「ビール、もらうよ」


「好きにしてちょうだい」


親父の向かいに座ったお袋と親父の背中を見た。


_____あんなに小さかったっけ?


歳をとったからか、二人とも一回り小さく見えてなんだかせつなくなった。


同居したほうが、この先安心だろう。


そのためには杏奈との関係をなんとかしないといけない。


ご飯を食べ終わり、ビールを飲み終わった。


「お茶碗さげておいてね、それからっと」


目の前に座ったお袋と向かい合う。


「何があったの?杏奈さんと。まさかアンタ、浮気でもバレたとか?」


「ちっ、違うよ、杏奈が……」


「杏奈さんがどうしたのよ?まさか浮気?」


「いや、そうじゃなくて、なんていうか、俺を男として見てないというか、その……」


俺は杏奈に愛されていないということが、なかなか言えない。


「はぁ?だからよその男を見てるとか?それは浮気でしょ!ちょっと、許せないわね。私が言ってあげるわ、嫁としてなってないって」


「いや、ちが……」


俺が止めるのも聞かずに、お袋は杏奈に電話をかけた。


「おかしいわね、出ないわ。まさか、あなたが帰らないのをいいことに、今頃羽を伸ばしてるんじゃないの?」


「どうだろ?俺はここに来ることは杏奈には話してないし」


朝早くから仕事に出て、早く仕事を終わらせて実家に帰ってきてるとは思わないだろうし。


「あら、黙って来たの?理由くらいはちゃんと言わないと、杏奈さんもわからないんじゃないの?そして心を入れ替えてもらわないとね、うちの嫁なんだから。あ、出たわ!」


杏奈はお袋の電話にどう答えるだろうか?聞き耳を立てる。


『杏奈さん?今ちょっといいかしら?』


_____杏奈は今家にいるのか?


『あなた、浮気したんですって?』


どストレートなお袋の質問に俺も驚くが、お袋はおかまいなしに続ける。


_____杏奈はなんと答えるのか?俺と京香のことを話すのか?


『したのよね?だから、雅史が怒ってうちに来たのよ。しばらく家に帰らないそうよ』


_____ん?否定していないのか?


『少し頭を冷やしなさいね、あなたはうちの、岡崎家の嫁なのよ、わかってる?』


そこまで言うとお袋はスマホを置いた。


「杏奈はなんて?」


「浮気なんかしていないと言ってたけど、あれはわからないわね。もしも、そんなことがあっても、今回だけは許してあげなさいな、そしてそれを恩に着せてこれから暮らせばいいわ」


浮気はしていないけれど、俺を男としては見ていないということか。


「専業主婦の杏奈さんが一人で生きていけるはずないから、雅史の大切さを思い知るまでここにいなさいな。そうするなら着替えとか持って来た方がいいんじゃない?明日にでも私が取りに行くわ、もしも杏奈さんがいたら、問い詰めて説教しなきゃね」


ペラペラとしゃべるお袋と対照的に、こちらにはなんの関心も示さない親父。


これでも夫婦なんだけど、“あー、歳をとって枯れてしまえば問題ないのか”なんて考える。


「ね、圭太ちゃんは元気にしている?また大きくなったんでしょうね」


「まぁね、元気にしているよ」


そういえば圭太の怪我が大したことなくてよかったと、思い出した。


しばらくしてから、杏奈から着信があったけれど、慌てて切った。


さっきのお袋の電話についての抗議だろう。


続けてLINEが届く。


《どういうこと?お義母さんが電話で言ってた意味がわからないんだけど》


《なにか言いたいことがあるなら、きちんと私に話して。実家に逃げるなんて卑怯でしょ?》


何をどう答えればいいのか、まだ考えあぐねていた。


_____俺の浮気の責任は、杏奈にある


もとはといえば、そういうことだ。


圭太が生まれてからは、まともに相手もしてくれない。


ほとんど断られ、たまに抱き合っても一方的に抱くだけだ。


_____いつからこうなってしまったのか?圭太が生まれてから?


女は子どもができると、さっさと母親になってしまうだろうけど、妻としての役割も果たして欲しいと思う俺が間違っているのか?


ふと、テレビを見たら、いわゆる不倫ものの濡れ場のシーンだった。


京香のことを思い出して、腰のあたりがジーンとする。


俺はまだまだ男だと、改めて実感する。


「あれ?」


ふと、まだ確認していないことを思い出す。


_____京香は何故、あの写真を杏奈に送りつけたのだろう?


もしかして本気で俺のことを好きになって、杏奈から奪い取りたいなんて考えてたんじゃ?


そう想像したら、無性に京香に確かめたくなってブロックを解除しようとしたけれど、リストからも完全に削除していて戻せなかった。


_____そうだ、履歴書がある


アルバイトに申し込んできた書類を見れば、連絡先があるはず。


明日、連絡してみよう。


“京香の本心が知りたい”と。








夫とだけはしたくありません(夫sideストーリー)

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