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百済るくあ【colorful】
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#執着
猫とろ
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臣桜
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3
母さんは「あらあら」と穏やかに笑っている。
(止めてくれよ。そこは母親として止めるところだろ!)
小森は、少し驚いたように目を丸くした。
けれど、すぐに困ったように微笑む。
「顔も、かっこいいと思います」
「も?」
莉央の眉が、ほんの少し動いた。
「はい。でも、一番好きなのは、優しいところです」
「…………」
莉央は黙った。
無表情のまま、彼女をじっと見ている。
その圧は、初対面の彼女に向けるものじゃない。
「小森さん」
莉央が、膝に乗ってきたぽちゃまるをそっとソファに下ろして、棚からアルバムを取り出した。
嫌な予感がした。
「顔で兄ちゃんを選んだなら、絶対やめた方がいい」
「莉央……」
「必要な確認。兄ちゃんの本性はけっこう面倒くさいから」
「……本人の前でそういうことを言うの、やめよっか?」
「事実」
莉央は、相変わらず俺に容赦がない。
ぽちゃまるは身体をくるんと丸め、完全に傍観者の顔でこちらを見ている。
「あの、まさかアルバム見せるつもり? 兄の人権は?」
「ない」
(ないのか、俺の人権……)
莉央はテーブルにアルバムを置き、無慈悲にページを開いた。
「これ、中一」
写真の中にいたのは、なぜか首元まできっちり閉めたポロシャツ姿の俺だった。
そして、額の真ん中でガタガタに切りそろえられた前髪。超絶ダサい、マッシュルームカット未遂の俺である。完全に封印指定の過去ログだ。
「自分で髪を切って失敗した日。本人は“爽やか短髪”のつもりだった」
「もういいだろ……」
小森さんが写真を覗き込む。
終わった。なぜか、ぽちゃまるまでこちらを見上げている。猫にまで見られたくない……。
そう思ったのに、小森は、にこっと笑った。
「かわいいですね」
「……え?」
「ちょっと毛先がガタガタですけど、頑張って切った感じがします」
「そこ、評価するとこ……?」
優しい。優しいけど、今はその優しさが刺さる。
莉央は、次のページをめくった。
「次。中二」
莉央は、アルバムの隙間に挟まっていた黒いノートを取り出す。
「ポエムノート」
「燃やせ!!」
一体なぜそれが残っている?たしか大昔、古新聞の日に捨てたはずだ。
まさか莉央が回収して、母さんが記念品として保存していたのか。この家は俺の黒歴史を文化財か何かだと思っているのか。
表紙には、銀色のペンでこう書かれていた。
『RE:RISE計画』
(表紙からして痛すぎるだろ、過去の俺……)
「当時兄ちゃんは、反逆者の皇子が特殊能力で悪の帝国に挑むゲームにハマってた」
「補足しなくていいから」
「影響を受けすぎて、自分も世界を変える側だと思ってた」
(過去の俺、身の程を知れ……)
莉央がノートを開く。
「“俺は漆黒の翼を持つ者。いつかこの腐った世界を救済する”」
「やめろぉぉぉ!!」
「“魔王を倒すのは勇者じゃない。孤独を知る俺だ”」
「いちいち感情を込めて朗読するな!」
「込めてない」
「込めてたじゃん!」
小森さんが、肩を震わせて笑っている。
「あの、小森さん?」
「ご、ごめんなさい……でも、王子谷さん、世界を救う予定だったんですね」
「違うんすよ。あれは完全に中二病で。世界がだいたい暗黒の帝国に見える時期だっただけで……!」
本当に死にたい。今すぐ庭に穴を掘って埋まりたい。できればノートも一緒に埋めたい……。
リビングに、母さんの笑い声が響いた。
「懐かしいわねぇ。流星、あの頃ずっと黒い服ばかり着てたものね」
「母さんまで参戦するなよ……」
「でも、最後のページにはこう書いてあったわよ」
母さんが、穏やかに言った。
「“いつか、母さんと莉央を守れるような、カッコいい男になる”って」
莉央がノートを閉じる。
父が家を出ていったあと、母さんはずっと忙しそうだった。夜勤明けで帰ってきても、俺と莉央のお弁当を作ってくれて。大変だったはずなのに、それを見せないで、無理していつも笑っていた。
何もできなかった。だからせめて、ゲームの中の主人公みたいに、世界を変えられる強い人間になりたかったのだと思う。
小森は、微笑んだ。
「……やっぱり、王子谷さんは優しいです」
「…………っ」
やめろ……。今のは、笑われるよりずっと効く。
莉央は、俺をちらりと見たあと、最後の写真を開いた。
そこにいたのは、中学三年頃の俺だった。今よりずっと太っていて、一番いじめられていた頃。
丸い頬。窮屈そうな制服。俯いている姿。
「これでも? この頃の兄ちゃんを見ても引かない?」
遠くで、蝉の声が聞こえる。
小森は写真をじっと見つめた。そして、迷わず言った。
「私は、今の姿だけを好きになったわけじゃないです」
その声は、まっすぐだった。胸の奥が、ぎゅっと痛くなる。
「むしろ、嬉しいです」
「嬉しい?」
「はい」
彼女は、写真に視線を落としたまま、柔らかく笑った。
「今日は私の知らなかった王子谷さんを、少し知れたから」
その言葉を聞いた瞬間、喉の奥が詰まった。
ずっと否定してきた。昔の自分なんて、なかったことにしたかった。
でも──もう、この街に帰ってくることが、少しだけ怖くなくなった気がした。
莉央は、しばらく黙っていた。やがて、ぽつりと呟く。
「……物好き。……でも、見る目は悪くないかも」
「……それ、褒めてる?」
「一応」
コメント
2件
うわぁ……これはもう、莉央ちゃんの容赦ない暴露が最高でした(笑)。ポエムノート『RE:RISE計画』の表紙からして痛すぎて、でも最後の「母さんと莉央を守れるようなカッコいい男になる」って一行で全部ひっくり返される感じ。笑わせてから不意打ちでグッとくるの、ずるいですよひよりさん。小森さんの「知らなかった王子谷さんを知れたから嬉しい」も優しすぎて泣ける。黒歴史で笑って、でも温かい気持ちになれる、素敵な番外編でした。