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マーガレットさんとカーティスさんの謎の修行を見学したあとは、部屋に戻って少し休むことにした。
私の知らないところで、使用人たちが何かしらの関係を持ち始めているというのは実に興味深い。
メイドさんと警備メンバーとの組み合わせ、っていうのがまた面白いのかな?
「……さてと、これから何をしよう」
時間を見れば、夕方の少し前。
錬金術師ギルドに行って依頼を受けてくるにしても、少し微妙な時間だ。
きっとテレーゼさんにも会うことになるだろうし、行くのであれば、シェリルさんとヴィオラさんのことをどう伝えるのかも決めないといけない。
詳しい場所は言えないけど、どちらも無事に暮らしている……と、それくらいなら伝えられるかな?
さすがに軟禁されているとか、痛い目に遭っていたとかは控えることにしよう。
しかし、早く伝えてあげたい気持ちはあるものの、まだ伝えたくない気持ちもどこかにある。
幸せに暮らしていたのであれば、すぐにでも伝えてあげたいところなんだけど――
「……これも、ファーディナンドさんと話してから決めるか……」
話をすれば、もしかしたら何かが好転するかもしれない。
上手く調整が取れれば会えるのは明日だから、ひとまず今日のところは、淡い期待をしておくだけにしておこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
トントントン
しばらくぼーっとしていると、ドアがノックされる音が聞こえた。
「はーい、どうぞー」
「失礼します!」
そう言いながら、元気良く入ってきたのはエミリアさんだった。
今日は大聖堂に行って、いつも通り掃除をしてくるという話だったけど――
「お帰りなさい。いつもより少し早いですね」
「はい。奥の部屋に大きな難物があって、処理に手間取ってしまいまして……」
「それが片付けられたから、今日は一旦おしまいって感じですか?」
「いえ、諦めて帰ってきました!」
「……一体、何があるんですかね……。
今さらですけど私も手伝いましょうか? アイテムボックスがあるから、大きいものでもひょいひょいっといけますよ」
「それは魅力的な提案ですが、アイナさんには見られたくないものなので、ご遠慮しておきます……!」
「……一体、何があるんですかね……」
エミリアさんの言葉に、私も同じ台詞を繰り返してしまう。
「それでですね! 明日はファーディナンドさんと会う予定じゃないですか。
わたしも一応、万全の態勢で臨もうと思いまして!」
「なるほど。それなら今日はもう、のんびりしちゃいますか」
「はい! お菓子も買ってきたので、お茶をお願いしてきますね!」
「あ、たまには自分たちで入れませんか?
こういう生活に慣れ過ぎても、あとが怖いというか……」
「そうですか? 分かりました!
でも、それも良いですね。昔はわたしとアイナさんとルークさんの三人で旅をしていたものですし」
……三人で旅。
そんな昔というわけでも無いのに、ずいぶんと懐かしいことのように思えてしまう。
ルークは元気でやっているかな? お屋敷を出て行って、今日でもう1か月になるところだけど――
「あの頃とは、環境もだいぶ変わりましたしね。
三人で冒険者ギルドに通ってお金を貯めていた頃が懐かしいです……」
「あはは、最近はアイナさんががっつり稼いできちゃいますからね。
明日にはグランベル公爵からの金貨13万枚が手に入りますし……。
……はぁ、やっぱり凄いですよねー」
そんなことを言いながら、エミリアさんは窓の外を遠い目で眺めた。
確かに昔に比べて、出入りするお金の桁も大きくなったというものだ。
「そうだ。そのお金を使って、大聖堂に寄付しようと思うんですよ。
……ほら、あの例の見返り付きの寄付」
神器の素材の『浄化の結界石』は、大聖堂の聖職者たちが大掛かりな儀式を行って作ることができるらしい。
その代わりに寄付という名のお金が必要になる……という話を、以前エミリアさんから聞いていた。
「そうですね、いつかは作らなければいけませんし……。
金貨1000枚くらいは必要だったと思いますけど、今なら大丈夫そうですね」
「あ、『浄化の結界石』は3つ欲しいんですよ。
そうしたら、金貨3000枚になるんですか?」
「いえ、1回の儀式で5個程度作ることができるんです。
なので、金貨1000枚で大丈夫かと……多分、思います」
む? 何だか少し、引っ掛かる言い方……?
「多分……って、何か問題があるんですか?」
「えっとですね、1回の儀式で最大9個の『浄化の結界石』を作ることができるんですけど……」
「はい」
「それぞれ、半分くらいの割合で失敗してしまうんです。
途中で砕けたり、力が濁ってしまったりで」
おおう、まさかの成功判定。
……いや実際のところ、錬金術にもそういうのはあるんだけどね。私が関係ないだけで。
「なるほど。そうすると成功するのは大体4個か5個……ということですか」
「はい。でも、1個か2個しかできなかったこともあるんですよ」
「それは厳しいですね……。そうなると、また儀式をする必要があるんですよね?
また、金貨1000枚が要るんですか?」
「はい……」
「世知辛い!」
……とはいえ、お金はあるから大丈夫といえば大丈夫か。
「ちなみにですが、1回儀式を行うとそのあと1か月は儀式を行うことができません」
「へぇ……?
それくらいなら大失敗しても、致命的にはならなさそうかな……?」
「そうですね……?
金貨1000枚で致命的にならないというのも凄いと思いますが……」
「あはは……。
ところでその儀式って、どうやってお願いすれば良いんですか?」
「大聖堂に受付があって、そこで申し込みができるんですよ。
今の時期は大きな行事もありませんし、1週間後くらいには執り行えると思います」
「おー、結構早いですね!
それでは銀行でお金を受け取ったら、時間をみてお願いにいきましょう。
そのときは付き合ってもらって良いですか?」
「はい、もちろんです。
明日か明後日に、ぱぱっとお願いしちゃいましょう!」
「そうですね。
明日はファーディナンドさんとの予定次第ですけど、会うのが遅くなるなら、午前中が良いかもしれませんね」
ファーディナンドさんと会う調整はジェラードにお願いしているから、ひとまずはその報告を待つことにしよう。
会うのが早い時間になるようだったら、銀行と大聖堂は明後日にまわしても良いかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜も更けた遅い時間、ジェラードがお屋敷にやってきた。
話をしたらすぐに帰るということだったので、玄関で応対をすることに。
「こんばんわ。夜遅くにごめんね」
「こんばんわ、むしろこんな遅くまでありがとうございます。
ファーディナンドさんの件ですよね」
「うん。明日は16時じゃないと無理なんだって。
移動と準備があるから、13時にはここを出たいんだけど……大丈夫?」
「しっかり空けておきましたので、何時でも大丈夫ですよ!」
「おっけー。
……ところでさ、エミリアちゃんも来るの?」
「はい。
いてくれると心強いですし、一緒に行こうかと」
「そっか……」
……うん?
さっきから、ジェラードの表情が思わしくないように見える。
言葉尻に音符が飛んでないし、テンションが低いというか、何か考え事をしているというか――
「……何か問題でもあったんですか?」
「ちょっとね……。場所が場所で……」
「場所? 危ないところなんですか?」
「危ないというか……いや、危ないけど……、いや、そうじゃなくて……」
「???」
私が察することができないでいると、ジェラードは私に近寄って、耳元で囁いた。
「場所がね……、風俗街なんだ……」
…………。
……………………。
………………………………。
…………よし、エミリアさんは置いていこう。